久々の魔界は、雨が降っていた。
実家を離れて一人暮らしをしているとはいっても、カイと同じ魔ンションに住んでいるから、寂しいと思ったことはない。
家の方向が違うクウと別れたあたりから、雨足が強まってきた。
普段しゃべりっぱなしのカイは終始無言で、クウだけがいつものように魔界の噂話を続けていたから、2人になると一気に音がなくなった。
激しいわけではないけど、穏やかってわけでもない水音の中を隻翼でくぐり抜けて、ようやく自室の前にたどり着いた。
「今日は、自分の部屋で寝るよ。おやすみ」
カイがうなずいた拍子に、濡れて艶の増した黒髪からこぼれたしずくが廊下に染みを作った。
じゃあね、と部屋に入ろうとドアを開けた手を、上から押さえられた。
近づいた顔に目を上げると、真剣な眼差しとかち合った。
本当にこれでいいのかと、声もなく問いかけられる。
何について?
ハレルヤを棄権すること?美咲をあきらめること?
だってどっちも、もうオレの力の及ばないことだよ。
黙ったまましばらくオレを見つめていたカイだったけれど、やがてあきらめたように言葉を吐いた。
「朝迎えに来るわ」
「え?」
「翼の手術、まだ間に合うやろ。アイに話つけとく」
ああ、そうだね。
アイ、というのはカイのオフクロさんで、伏魔殿の御殿医をしている優秀なお医者さん。
美咲が僕の翼を抜いてから明日でちょうど10日だから、再生にはギリギリ間に合う計算だ。
「翼定着するまでしばらく動かれへんようなるから、用事があるんやったら済ませとけ」
「ん、わかった。・・・・ありがと、カイ」
彼を廊下に残したまま後ろ手に閉めたドアに背を預け、暗い部屋の中で濡れた自分を抱く。
結局、何も手に入れることができなかった。
夢も恋も・・・・結局、掴み取るだけの実力がオレにはなかったってこと。
「それどころか翼抜かれてるし・・・・むしろマイナスか」
ふふっと乾いた笑いが漏れ、湿った部屋に消えていく。
ああ、だけど。
美咲に、恋をするきっかけをあげられたかな。
心から想う人に想われて、きっと彼女は幸せになれる。
だったらもう、それだけで充分だ。
ハレルヤのことも、美咲のことも、それであきらめがつく。
↓どんどんバッドEDフラグが勃つわ・・・・そういう恋もある!とか(汗)↓