リクがカイを連れて部屋を出て行くと、ようやく居住空間としての体裁を保てるくらいのスペースが確保できた。
やっぱあの2人が悪いんだわ。
グラマーの予習だけやってしまおうと、カバンから教科書を引っ張り出した。
男どもよりもずっと、何ならあたしよりも小柄なクウなら少しくらい部屋をうろついていてもジャマではないけど、さっきのこともあって、この子と世間話をする気にもなれなかった。
人のデート覗くとか、思い切りマナー違反だからッ。
ところが彼女は無視されても顔色ひとつ変えず、むしろ相手をするのが当然とでもいうように広げたノートの上に手をついた。
「ねー、美咲」
「何よ、ジャマしないでよ」
「怒りんぼは嫌われちゃうよー」
うっさいな、ほっといてよッ。
ムッと睨みつけたら、倍もの眼力でギランと睨み返された。
負けた、さすが本職・・・・。
かわいい顔してるけど、生まれつきの迫力が違うわ。
仕方なく降参して体を向けたあたしに、彼女は手のひらを返したように機嫌を直し、あのねと話を切り出した。
「美咲に頼みたいことがあんの。あたし、そのために人間界に来たのよ」
「え・・・・何?」
手短にね、ニッチ。
「その前に、説明しとかなきゃなんないんだけど」
何やら言いにくそうな様子で彼女はテーブルにひじをついた。
「リクの、翼のことなんだけど・・・・美咲が抜いたんでしょ?」
「・・・・うん、そうよ」
抜いたっていうか、あっさり抜けたんだけど。
あたしがそれを認めてうなずくのを確認して、クウは再び口を開く。
「悪魔の翼ってね、人間の心臓くらい大事なの」
え?
「翼が片っぽなくなったリクは、魔力がこれまでの半分になってる。あんな状態で魔力消費の高いナームーなんて唱え続けてたら、体がもたないわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・魔力が半分って、翼が抜けたせいで?体がもたないって・・・・」
翼がそんなに大事なものだなんて聞いてないわ。
そりゃあ抜けちゃった時の痛がりようはすごかったし、悪魔ステッキとやらでの治療もかなりのもんだったけど、リク自身が言っていたように痛みは翌日にはひいたみたいだし、傷もきれいにふさがったはずよ。
翼だって、魔界に戻ったら治してもらうから大丈夫だって・・・・。
「多分、責任感じちゃうだろうと思って言わなかったんだと思う。リクってそういう風だもん」
それはそうかもしれないと思った。
自分より人ってタイプよね、きっと。
底抜けにお人よしで、バカみたいに優しいんだから・・・・。
「それでね、リクが言った通り、翼を元通りにすれば魔力は戻るんだけど、抜けてから10日経つと、抜けた翼の方から魔力が抜けて、灰になっちゃうのよ。今日で・・・・9日目」
「明日までってこと?!」
上目遣いにあたしを見ながら、クウはツインテールの頭を縦に揺らした。
「早くしなきゃ!何みんなのんびりしてんの?!」
リクだってカイだって、わかってるんでしょうッ?
「翼の手術は安静期間が長くて、ハレルヤ終了に間に合わないからだと・・・・」
だって、このままだと魔力の使いすぎで体がもたないって!
・・・・それって・・・・具体的にどういうこと?
「魔力も体力もなくなったら・・・・わかるでしょ、死んじゃうのよ」
わッ、わかんないわよッ!
「バカじゃないの、とっとと連れて帰りなさいよ!ハレルヤなんか、命あってのモノダネでしょうがッ」
「そう、そうなのよ!そこで美咲の出番なの!」
へッ?
話の流れとして明らかにおかしいそれに、虚を突かれた思いでキョトンとした。
何でここであたしの出番なの?
「今のリクの魔力じゃ、美咲の意志を超えて感情や状況に影響を及ぼすことなんてできっこない。美咲が恋をやめようとしないならリクは諦めて魔界に帰るしかないわ。今戻れば翼の消滅にも間に合う」
彼女の真っ黒な瞳はさながらブラックホールのようで、身も心も吸い込まれそうになりながらクウの言葉を聞いた。
「リクに言ってよ。ハレルヤを諦めろって。彼氏に本気になったから、もうリクに協力しないって」
↓そういえば美咲って翼と魔力のアレコレの説明受けてないんだった↓
つーか・・・・もう今日うpれないかと思ったよぉ・・・(ノДT)