国と東電の当事者意識足らず、今後国際問題に発展しかねない

東京電力福島第1原発でまた、深刻な汚染水問題が発覚した。
地上タンクから高濃度の放射性汚染水が推計約300トン漏れ出ていた。タンクからでは過去最大の汚染水漏れで、1カ月近く漏れに気づいていなかった可能性がある。
事故は収束していないことを改めて示す事態だ。原子力規制委員会は、漏れを国際評価尺度でレベル3(重大な異常事象)とすることを検討中だ。
汚染水問題で安倍晋三首相は「国として対策を講じていく」と述べたが、日々の事故対応は基本的に東電任せで、政府が前面に出ているとはいまだに言い難い。もっと当事者意識を持って対応してほしい。

東電の懲りない安全意識の欠如が二次三次の危機を生む
漏れが起きたのは、鋼製の板をボルトでつなぎ合わせた円筒型タンク(使用容量1000トン)だ。原子炉を冷却した水から、放射性セシウムを除去した汚染水が入っていた。
福島第1原発には汚染水の貯蔵タンクが約1000基ある。うち約350基がボルト式で、残りは接合部を溶接したタイプだ。ボルト式は組み立て工期が短いが、継ぎ目から水が漏れやすい。これまでもボルト式タンクで漏れが4件起きた。そもそも今回の漏えい箇所はまだ分かっていない。今後も漏れる恐れがある。
東電はボルト式タンクを緊急点検し、パトロールも1日2回から約3時間ごとに増やすという。漏れの原因や発見が遅れた理由を検証し、監視・点検体制の抜本的な見直しを図る必要がある。海への流出の有無や地下水への影響も、きちんと確認すべきだ。
セシウムを除去した汚染水は、62種類の放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPS」で再度、処理される。しかし、試運転でトラブルが起き、停止したままだ。汚染水のリスクを下げるためにも、東電は装置の稼働を急いでほしい。
東電は汚染水増加の原因となっている地下水流入を減らす緊急対策として、敷地山側に井戸を掘り、汚染される前の地下水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」を計画している。だが、風評被害への懸念などから地元の了解は得られていない。
今年4月には汚染水の地下貯水槽で漏れが判明し、先月には高濃度の汚染水が地下水と混じって海へ流出していることが発覚した。海外の関心も高まっている。日本の国際的な信用を左右しかねない状況だ。
東京電力福島第1原発の地上タンクから高濃度の放射性汚染水が漏れた事故で、東電は22日、敷地内に設置されている同じ型のタンクについて点検する過程で、2基の底部周辺から最大毎時100ミリシーベルトの高い放射線量が検出されたと発表した。周辺に汚染水の漏れは確認されなかった。原子力規制委員会は同日、微量の汚染水が漏れた可能性もあるとみて、原因を調べるよう東電に指示した。
東電によると、2基は約300トンの汚染水が漏れたタンクから約100メートル離れた「H3」という区画に設置されている。東電は、同じ型のタンク約350基のうち、高濃度汚染水をためている約300基を点検し、この2基だけに高線量が検出された。2基の内部の水位は、汚染水を入れた時点と変わらず、ほぼ満水状態であることから、東電は「新たな漏れの可能性は低い」としている。

汚染水漏れ:「タンク、金かけず作った」協力会社会長証言
地盤沈下が原因で移設されていたことが明らかになった東京電力福島第1原発の汚染水タンク。高濃度の放射性物質を含んだ汚染水約300トンの漏出は、この移設が原因なのか--。廃炉作業に参加している東電協力会社(福島県いわき市)の会長(72)は
「タンクは工期が短く、金もなるべくかけずに作った。長期間耐えられる構造ではない」と証言した。
同社は事故前から原発プラントの設計・保守などを東電から請け負い、同原発事故の復旧作業では汚染水を浄化して放射性物質を取り除く業務に携わっている。このため汚染水を貯留しているタンクを設置したゼネコンともやり取りがあり、内部事情に詳しい。
会長が東電幹部やゼネコン関係者から聞いた話では、今回水漏れを起こしたタンクは、設置工事の期間が短かった上、東電の財務事情から安上がりにすることが求められていた。
タンクは組み立て式で、猛暑によってボルトや水漏れを防ぐパッキンの劣化が、通常より早まる可能性も指摘されていたという。
会長は「野ざらしで太陽光線が当たり、中の汚染水の温度は気温より高いはず。構造を考えれば水漏れは驚くことではなく、現場の感覚では織り込み済みの事態だ。現場の東電の技術スタッフも心配はしていた」と明かす。
現在、タンク内にあるのは原子炉を冷却した汚染水から放射性セシウムを除去した汚染水。今回のような事態が続くと住民感情が悪化しかねない。会長は「そうなれば廃炉作業への影響も出る。政府が前面に出た上で、早く敷地内への地下水の流入を防ぐ抜本的対策を講じるべきだ」と強調した。

この事故直前には福島第1原発:高濃度汚染水漏れにたいする規制委委員が現地視察していた。
東京電力福島第1原発で高濃度汚染水が貯蔵タンクから漏れた問題を受け、国の原子力規制委員会の更田豊志委員は23日、同原発を視察した。タンクについて更田委員は「点検の記録が取られておらず、ずさんだったと言わざるを得ない」と東電の対応を批判。
更田委員は、漏えいが見つかった「ボルト留め型タンク」とは別に、接合部が溶接されているタンクについてもコンクリートではなく地面に直接設置されている問題点を指摘した。「点検マニュアルを作るなど、漏えいを前提に手を打たなければならない」と、東電に対策強化を求めた。
原子力規制庁職員や日本原子力研究開発機構の専門家らと原発を視察。約300トンの汚染水漏れがあった「H4タンクエリア」や、2号機東側の護岸で進む地盤強化工事の様子を見て回った。

福島第1原発:タンク汚染水、東電「海に流出も」 規制委、移設検討求める
東京電力福島第1原発の地上タンクから高濃度の放射性物質を含んだ汚染水が漏れた問題について、東電は21日、汚染水が近くの排水溝を通じ外洋に流出した可能性があることを明らかにした。原子力規制委員会は同じタイプのタンクからの漏えいも考えるべきだとして、汚染水を別の場所に移すことを検討するよう東電側に求めた。
タンク内の水には1リットル当たり8000万ベクレルの放射性物質が含まれ、300トンが漏えいした。タンクから海までの距離は直線で約500メートルで、タンク群の脇には、雨水を外洋に流す排水溝がある。U字形でふたがなく、常に水が流れている状況ではないという。
東電によると、タンクからの汚染水漏れが見つかった19日に排水溝脇で空間の放射線量を測定したところ、最大で1時間当たり96ミリシーベルトの高い値を観測したほか、放射性物質の性質がタンク内の汚染水と一致した。排水溝内でも最大毎時6ミリシーベルトを検出。相沢善吾副社長は21日、「絶対に(海に)流出していないとは言えない。事故から2年が経過するが、今も心配をかけ、おわびする」と謝罪した。
汚染水、直接流出か 海へ推計30兆ベクレルと予測されている
東京電力福島第1原発で地下水を通じて放射性汚染水が海へ流出している問題で、東電は21日、2、3号機のトレンチ(配管などが通る地下トンネル)に事故直後にたまった高濃度汚染水が、海に直接漏れている可能性が高いと発表した。これまで海に漏れた放射性物質の総量は、ストロンチウム90で最大10兆ベクレル、セシウム137で同20兆ベクレルと推計した。
合計すると最大30兆ベクレルとなり、通常運転時の年間海洋放出基準(年間2200億ベクレル)の100倍を超える。東電が、事故直後の2011年5月から漏れ続けていると仮定し、原発の港湾内の放射性物質の濃度から試算した。
東電はこれまで、汚染された地下水が流出していると説明してきた。しかし、汚染地下水だけではこれほど大量の放射性物質は説明が付かず、2、3号機のトレンチにたまった高濃度汚染水が、底部の砕石層などを通じて直接、海に漏れ出ていると推定している。
東電は、流出源となっているトレンチ内の高濃度汚染水をポンプで吸い上げ、水処理施設を経由させてセシウムなどの放射性物質を除去することを計画している。処理した後は陸上でタンクで保管するという。
東電は今月2日、トリチウム(三重水素)が地下水に混じって最大40兆ベクレル海へ流出したとの試算を公表している
「福島第1原発事故 汚染水漏れは想定されていた」
◇ルート未特定、まずは地下水の全体像つかめ
国際原子力機関(IAEA)が、東京電力福島第1原発事故の「収束への最大の壁」と呼んだ汚染水。これまで一応管理できているとされてきた放射性汚染水が、海に流出しているという。今そこにある「汚染水危機」の実態は? 防止策はあるのか。
◇原子炉建屋から?分かれる見解
13年前まで福島第1原発の所長を務めていた二見常夫・東工大特任教授(70)は22日夜、自宅でテレビを見ていた。
「東京電力が放射性汚染水が海へ拡散している可能性があることを認めた」

「もっと早くから海への拡散に対応しておくべきだった。また後手後手に回ってしまった……」
6月3日、海から約30メートルの1、2号機近くの井戸から1リットル当たり50万ベクレルのトリチウム、1000ベクレルのストロンチウム90が検出された。その後、近くの井戸からも放射性物質が次々と検出され、7月10日にはセシウム134が1万1000ベクレル、セシウム137は2万2000ベクレルに上った。ちなみに飲料水の放射性セシウムの基準値は10ベクレル。事故直後の暫定規制値でも200ベクレルで、井戸の汚染は深刻だ。
現在原子炉建屋には、1日約400トンの地下水が流れ込んでいるとみられている。建屋は1~4号機とも事故時に大きく破損しているが、線量が高すぎて近寄れず、詳細はいまだに分からない。
汚染水はどんなルートで海へ流出しているのか。東電は「タービン建屋から海へトレンチ(配管などを通しているコンクリートのトンネル)がのびている。そのトレンチにたまった汚染水が流出している可能性がある」。
トレンチの汚染水は事故時に大量に水が漏れたり、海水を取り込んだりしたもの。原子炉建屋から汚染水が漏れ続けているわけではないと主張する。だが、専門家の間で意見は分かれているのが実情だ。
国の汚染水処理対策委員会の大西有三委員長(67)=京都大名誉教授=は東電の主張を肯定し「正確には分からないが、爆発した原子炉建屋から今も流れ出ているわけではないと思う」と話す。
建屋の中の水位を周囲の地下水の水位より低くすることで、水圧を低くしていることが理由だ。「原子炉建屋のあちこちに亀裂ができ、そこから地下水が流れ込んでいるだろうが、逆に外へはあまり流れ出ていないはずだ」と話す。
一方、二見教授は「原子炉建屋で溶けた燃料に触れて汚染された水が、現在もタービン建屋を伝ってトレンチに流れ出ている可能性がある」とみる。
現在、原子炉建屋とタービン建屋を渡る配管やケーブルの貫通部の隙間(すきま)などから、原子炉に注水された水がタービン建屋に漏れている。
さらに2号機と3号機ではタービン建屋の水位が変わるとトレンチ内の水位も変わることが確認されており、タービン建屋とトレンチの間で水が行き来している可能性がある。この二つがつながることで、原子炉で汚染された水がトレンチまで流出するルートが想定できるという。
原子炉建屋から直接地下水に漏れている可能性を懸念する専門家もいる。産業技術総合研究所の丸井敦尚・地下水研究グループ長(55)は「原子炉建屋の壁はとても厚いが、その壁の外側から1日400トンもの地下水が流れ込んでいる。家庭の風呂の約2000杯分で、壁に大きな亀裂があると考えてもおかしくない」と指摘。その上で「そこまで壊れているのに水位を下げているから汚染水が絶対に外に漏れない、というのはちょっと乱暴な説明ではないか。漏れていると想定して先手の対策を講ずるべきだ」と話す。
東電の原発安全管理能力は技術面より当事者たる意識面が問題たった・・・
◇港外への漏れの有無、わき水観測で可能を指摘
現場では故吉田昌郎元所長が指揮を執っていた頃から「廃炉に向けて汚染水の処理が大きな課題」と言われていた。最も避けるべきなのは海への流出だ。また汚染水が増え続けると保管場所の確保が困難になり、廃炉作業の障害になる。海への流出が明らかになった今、汚染源や流出ルートの特定が急務だ。
海への流出ルートがトレンチだけなら「まず大量の汚染水がある2号機と3号機のトレンチと、タービン建屋のつなぎ目を早く塞ぐことが必要」と二見教授は言う。効果的なのは「つなぎ目を凍らせること」で、トレンチを水抜きし、コンクリートで埋める作業が必要だ。
しかし、トレンチだけが流出ルートとは限らない。丸井グループ長は「とにかく観測井戸が少なすぎる」と厳しい表情で語り、原発敷地の地下水の流れの全体像がつかめていないことを問題視する。
「建屋と問題の井戸の間に10本も掘れば、漏れ始めたところはどこか計算できる。時間がたつとどんどん汚染が広がって調査が難しくなる。一日でも早いほうがいい」と指摘する。
東電は「専用港の外の海には漏れていない」と説明するが、丸井グループ長はその点にも疑問を示し「専用港の外側に建つ防波堤の海側の海底に地下水がわき出る場所がある。
そこを調査すべきだ」と強調する。魚がよく集まる場所で、福島県の水産関係者や漁師も知っているという。海水の調査だけでは海流ですぐ希釈されてしまうが、わき出ている部分で地下水を直接観測すれば、汚染されているかどうかが分かるからだ。
東電の計算では、地下水は1年に約30メートルの速さで海に向かって流れている。問題の防波堤の海側までは建屋から2キロぐらいあり、丸井グループ長は「今ならまだ拡散を止められる」という。
海への流出とは別に、回収した汚染水の保管場所も大きな問題だ。現在約32万立方メートル(ドラム缶換算で160万本)をタンクに貯蔵しているが、大西委員長は「敷地内に保管するとなると、残るスペースはあと2年分ぐらい」と話す。二見教授は「放射線量が高い中での作業のため貯蔵タンクは急造で、溶接不良やつなぎ目の締め付けが十分でないところがある」と苦い顔だ。そこから漏れる恐れもあり「周辺の工業団地や福島第2原発の施設を使い、仮設ではなく十分に耐用性があるものを造るべきだ」と力を込める。
◇「凍土で壁」に国予算 際限ない維持費
汚染水処理対策委員会は、1~4号機の原子炉建屋とタービン建屋のまわりの土を全体的に凍らせ、水を通さなくする「凍土遮水壁」を地下水対策の「切り札」として投入することを決めた。
「問題なのは、世界で誰もやったことがない大規模な工事であることだ」と大西委員長は言う。今までの日本の地下トンネル建設で経験された長さの100倍ぐらいにはなるという。U字形のパイプを80センチから1メートルの間隔で埋め、そこに不凍液を流して周辺の土を凍らせる工法だが、本当に間の土が凍るかが大きな課題だ。
うまくいけばトレンチごと凍らせることができ、タービン建屋とトレンチの間を埋めることができる。国が予算をつけて、今年中に現地で実験する予定だ。大西委員長は「これができれば建屋内に入り込む水をある程度コントロールでき、溶けた燃料に触れて新たに生まれる汚染水を減らすことができる。周囲の線量を下げることも可能。燃料の取り出しに向けて大きな進展となる」と期待する。
これに対し丸井グループ長は「凍土方式は最新技術だが、一回始めたらやめられない麻薬のようなもの」と説明する。毎年維持費として膨大な電気代がかかるうえ、凍らせていた土が解けた場合、もともと水を通しにくかった粘土質の土に隙間ができるなど逆に水を通しやすくなってしまう。
「凍土壁が解けた場合を想定し、凍土の外側に鉄の連続壁を造ったり、さらに外側に井戸を掘って周辺の地下水を減らしておくなど二重三重のバリアーが必要」と警告する。多重のバリアーは海側にも造り、遮水壁やガラス系の薬液を投入する防止壁など重層的な対策をなるべく早くしなければならないという。
東電は『自分たちが何に困っているのか』をオープンにして、知識や技術を広く求めなくてはいけない。
国はこれまで現場作業や調査はほとんど東電にまかせきりだったが、今後は本格的に協力しないととても収束ははかれない」と二見教授は忠告する。海への汚染を広げず、何十年にもわたる廃炉の道を歩むためには、国内外の英知の結集が求められている。