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今はこの場所で

彼女はその会社にとって奇跡ともいえる存在だった。

営業を希望して入社した。
女性だからという目で見られることが腹立たしかった。
男性に負けたくない、というのではない。
人間としての自分の力を試してみたかった。

創業者とその息子が30年でたたき上げて大きくした機械部品メーカー。
都内城南地区の小さな小さな街工場からスタートしたこの会社は
彼女が入社するころ、国内に6つの工場と、数多くの営業拠点と、北米、欧州、中国に工場を持つ一部上場企業に成長していたが、まだ町工場の延長線上のようなアットホームで、でもその分保守的な空気の中にあった。
その中で女子社員という存在は、昭和の旧来のそれでしかなかった。

彼女に奇跡のスタートは入社直前に始まっていた。
関西の営業拠点でその名をとどろかせていた暴れん坊、しかし社長の信任の厚い40代社員の本社への抜擢だった。
彼は若くして、いわゆる何人抜きというやつで、本社の広報、SP、そして当時、世間からすれば遅れ気味ではあったが力を入れ始めていたWEBプロジェクトの部長に任命された。
2002年、冬。
彼は欲していた。
この会社の意識を変える若い人材を。
2003年入社の社員から、彼は捜した。いた。それが彼女だった。

ここから会社と彼女にとっての奇跡的で幸せな日々が始まった。
若き実力者である部長のもと、彼女はこの会社での常識を次々と破る先駆者となった。
初めて出張での宿泊を認められた女子社員。
自分の提案が実際に仕事になる初めての女子社員。
周りの男性社員の女子社員への目も代わってきた。
そして、その奇跡は2007年、彼女の長年の夢を手助けする。

彼女の夢は、海外でのボランティア活動だった。
大学でもそのための研究活動を行い、論文も書いた。
でもその夢は封印して、今いるこの場所で懸命の努力を続けてきた。
同期の女性社員の応援もあれば古参社員から妬まれにらまれることもあった。
受け流せることと深く傷つくことはあったけれど、
この場所で働くことの幸せが確かに、あった。
しかし、抱き続けていた情熱は消えているわけではなかった。
恩人である若き部長は40代後半にさしかかったとき、
会社の命運を握る新しい中国工場の社長として、また、超のつく抜擢を受け飛び立っていった。日本製品の非売運動と、激しい抗議活動の真っ最中。2代目社長は、この部長に懸けていた。

新しい上司は、やんちゃだった部長から、都会的なスマートさをふりまく知的な課長だった。
あまり本音を出さないタイプ。
もしかしたら気持ちに壁があるかもしれない。
私のことはあまり評価していないのかも…
今がやめどきかもしれない。彼女は感じた。
思い切って海外ボランティアの試験を受けた。会社には内緒だった。
合格した。
新しい上司に報告と、辞意を伝えた。
スマートな上司の反応は意外なものだった。
「僕は経験なくこの部署に異動し、右も左もわからなかったけれど、そこでキミに助けられた。だから辞めてほしくない。でも、どうしてもというならば、今まではなかったけれど、会社に休職制度を作ってくれるように働きかける。そうしたら戻ってきてくれるかな」
社長も彼女の奇跡を応援していた一人だった。快諾。
彼女はいろいろな愛に包まれて南米のある国の首都に旅立った。

その2年間はここでは省略する。
孤児院兼教会でのボランティア活動。
子供たちの現実に嘆き、子供たちの笑顔に励まされた。
大人同士の関係に絶望した。乗り越えた。乗り越えられなかったこともある。
成長と挫折と喜びと、確かな足跡を残して彼女は帰国し、
会社に戻った。

東京に戻ってきて携帯電話の進化に驚き
久々の東海道線の終電の匂いと人の密度にめまいがした。
でも温かく迎えてくれた上司、先輩、同期、そして社長の輪の中で
次第に東京のペースに慣れてくれば、
やはりここが自分にとってのホームタウンなんだと体が教えてくれる。
職場には新卒の後輩もいて、奇跡の女子社員の後を追いかけようとしている。
4か月がたった。

彼女の心に、毎日、あの南米の村が浮かぶ。
またすぐにでも戻りたい。
2年後、今度は本当に会社をやめてあの村で、子供たちを抱きしめたい。

カードは彼女を強く戒めた。
悪魔が怒っていた。

rocks fortune telling house-R-DEVIL

そしてコインの4が教えてくれた。
今はじっとしてるとき、自分の欲望だけを実現しようとしてはいけない。

次にカードを引くと
彼女の南米への帰還は成功すると出た。
特に事業を興す、独力で奮闘すれば。
でも、問題は今なのだ。
たった4ヶ月で、奇跡を支えていた人達の応援を裏切る形になる。
もう誰も応援してくれない。
挑戦を今度は批判し、背を向ける。
今、2年後会社を辞めてあの村に帰るという表明は
彼女にとって最悪の選択。

半年がたって年が明ければ、そのとき初めて明確にすればいい。
「世界」のカードがほほ笑んでいる。
そしてそのころ、いろいろなことが変わっているかもしれない。
彼女がもし会社でさらに素晴らしい役割を与えられたら。
奇跡のストーリーが続くとしたら。
恋に落ちた男性と一緒に暮らすことになったら。
その村が自分を必要としなくなるほど普通の暮らしができる場所になったら。

今持っている欲望はただの欲望。
飲んだ帰りの東海道線の終電も、
まだうち慣れない最新機種のケータイメールも、
今の彼女にとっては恩返しの大切な日々。
きっと状況は変わる。
それまでは、いつもの改札にSUICAをタッチすればいい。

Keane - Everybody's Changing


※このストーリーは、鑑定依頼者様にご許可をいただき作成しています。

ネバーランドにようこそ

フール/愚者
時に非常にポジティブな勇気を与えてくれ
時にあまりにもバカバカしい行動の戒めともなる。

今日のあなたは、このカードをどちらと感じますか?

rocks fortune telling house-B-FOOL


(1)
足元は緑豊かな素晴らしい場所。
でももっと楽しいことがありそうだ、ここはつまらない場所だ。
僕の理想の場所はこんなところじゃない。
足元で吠える犬は無計画に荒海に歩きだそうとする若者を必死に止めている。
危険だぞ、もっと準備をしろ。
面倒くさいやつ。うるさいよ。俺はもっと楽しいことをするんだもん。
お前らうるさい。僕にはこんなところで僕に指図するやつなんかいない、もっと楽しい場所があるはずなんだから!

(2)
足元は緑豊かな素晴らしい場所。
しかし、本当にそうなんだろうか。それは幻想なんじゃないか。
今こそ勇気をもって進むべき時だ。
足元で吠える犬は、無謀だ、愚か者のすることだと常識論を振りかざす。
危険なのはわかっている、準備が足りないのはわかっている。
それでも僕は進まなければいけない。そして今こそ、進むべきだとカードは勇気を与えてくれている。ごめん、友よ、安住と思っていた場所、時間よ。
僕は今、困難に立ち向かっていこうと思う。さあ、旅立ちの時だ。

========

今日、(1)のメッセージを受けた人がいた。
友人との関係を憂いている人だった。
僕はタロットからの厳しいメッセージを伝えた。

あなたはどこかにあるネバーランドに救いを求めて現実逃避をしているのではないだろうか。
現実は厳しいかい?仲間たちの指摘は心に痛いかい?面倒くさいかい?
それは君を傷つけるだけの心ない言葉だと信じてるのかい?
僕はキミと一緒にネバーランドには行けない。
キミはネバーランドを探し続けて旅を続ければいい。
その代わり、海に落ちても、もう君の責任だから。後ろを振り返って誰もいなくても、それは君が選んだ道。

それでもこの人はネバーランドへ歩みだそうとしているらしい。
僕にできることはここまでだ。
でも、まだ、この人の仲間たちはそう思っていないかもしれない。
足元で叫ぶ犬のように最後まで彼の無垢と無防備を気づかせようと吠え続けている仲間がいるかもしれない。でも、僕の立場としてできることはここまでなんだ。


※このストーリーは、鑑定依頼者様にご許可をいただき作成しています。

Mother And Child Reunion

学校を卒業してから10年、母とは疎遠になっていました。
と彼女は言った。
デザイナーの道を歩み、自分の名前のブランドを立ち上げた。
夢のような10年だったし、悪夢の泥沼を彷徨った10年でもあった。
順調な日、凪の日、荒波に翻弄される日。
今年に入ってそのブランドは、新たな道を歩み始めた。
系列の資本から離れ、名実ともに、彼女のブランドになった。
その時、彼女は、電車とバスでたった30分しか離れていなかったけれど
一度も開かなかった母の家のドアをノックした。

この子が独立してから10年、娘とは疎遠になっていました。
と母は言った。
離婚を経験し、一人で自分の母親の面倒をみながら働いてきた10年。
仕事はそれなりに楽しいし、仕事の仲間もそれなりに楽しい。
そして数年前から付き合い始めた14歳年下の彼との時間が
なによりも毎日に潤いをくれる。
その間、ドアをノックしてくれなかった娘のことを
本音を言えば気にする余裕はなかったけれど、彼女が苦しんだとき
そのとき、助けてあげられるのはきっと自分なんだろう、と思っていた。
甘やかしてもあげられなかったし、何ができるのかわからないけれど
私がだれよりも娘の才能を信じている、それは消えない誇りだった。

2人の悩み
娘は母の恋愛がうまくいくかどうか。
母は娘の仕事がうかくいくかどうか。

タロットのメッセージは、明るくてポジティヴなものだった。

最近彼氏とうまくいっていない。
世間でもそう素直に受け取られる関係でもない。
この先どうすればいいのか。
母もほっとした表情を見せたが、母の幸せを願う娘も輝くような笑顔を見せた。

私らしさが発揮できていないんじゃないか。
クリエーターでもあり経営者としてスタッフを抱えるプレッシャー。
この先どうすればいいのか。
母は言った。
あなたは自分の才能を信じていない。私はもっとできるって知っている。
その評価は客観的なものでもなんでもない。
ただの母の主観だ。でも自信がある。ゆるぎない自信。

「あなたは幼稚園の頃、靴下を右は緑、左は赤を履いて
絶対これで幼稚園に行くの! ってきかなかったことがあるの。
その時思ったわ。
この子には才能があるって」

彼女はまったく覚えていないエピソードだった。
母親だけが持つ子供への自信。
子供は記憶の隅にもない何気ないエピソードは、母親にとってはとても大切なストレージに収まっている。

コインの3。
持って生まれた才能を生かして
より高度なものへ挑戦するべき使命。
そのカードに、彼女の表情は引き締まり
母は「でしょ」と得意気に隣にいる彼女の脇腹のあたりをひじでつつく。

2人の空白の10年は、あっというまに消えていた。
2人にとって空白の10年は、お互いにとって必要な日々だったのだろう。
最後に2人の今とこれからの関係を、そっと見てみた。

カップの6
郷愁、ホームタウン、懐かしい場所、そこでの幸せな日々

2人はこの場所に、帰ってきた。

Paul Simon - Mother And Child Reunion (1972)


※このストーリーは、鑑定依頼者様にご許可をいただき作成しています。