「ったく・・・急がし過ぎや・・・。白とも風雅ともろくに喋れてないわ・・・。」
ため息混じりに大阪城に潜入する。腕を模った水を伸ばし、屋根から屋根へと、上へ上へと登って行く。樹の水術は、潜入にうってつけなものであった。
「平成のアルセーヌ=ルパン参上!っつうか、この時代じゃ石川 五右衛門のがしっくりくるかな・・・。っと・・・。」
樹は壁に寄って身を隠す。その向こうには下忍が三人、樹は静かに忍び寄り、手刀で三人を気絶させる。難なく天守にまで登った樹は、窓より千姫らしき影を確認し、侵入する。
「なっ!?おぬしはっ・・・もがっ・・・!!!」
「姫様ー、静かにして下さい、命を奪う気は毛頭ありません、誘拐する気もね!おわかりかい?」
千姫はコクコクと縦に頷く。すると樹はそれまで彼女の口を覆っていた水を除け、両手を地面につけて頭を下げる。
「先程はご無礼・・・申し訳ありません。某・・・伊賀忍軍が一、和田 樹と申します。」
「ほぉ・・・うぬがいつきか!ふうがからきいておる。」
樹は彼女の目を覗き込む。吸い込まれそうな程大きく黒い瞳は優しさをかもし出す。彼女の持つ雰囲気全てが居心地よく感じられた。『大器なり!』この時代風に言うとそうなんだろうな、と心の中で呟きつつも、彼女の『人を魅了する才能』に驚いていた。
「のう・・・いつき!うぬのむかしばなしをきかせてくれ・・!」
まだこっちの意見は言ってねーっつーの、そんな事を思いながらも樹は彼女のペースに乗せられ、二年間の戦いについて話した。友の死も・・・最愛の人の死も・・・。一通り語り終わると、千姫は涙をぬぐって笑顔を見せる。
「だから・・・『前を向く』のじゃな?」
「それは?風雅からきいたんすか?ってか、もうそろそろ帰らないと怒られますわ!最後になっちゃったんですけど、俺がここに来た理由、それは姫様を見極めるためなんすわっ!」
樹は少し間を置いて、言葉を続ける。
「伊賀が水龍、此度大阪城合戦、命を懸けて姫様を城外へお連れ申す。ではっ・・・。」
彼は窓より外に出る、その瞬間、厳しい目つきに変わる。
「いやーっ、まっといてくれたん?君は・・・たしか・・・乃亜君だったっけ?」
「ええ、まぁもっとも、今は『霧隠 才蔵』と名乗ってるけど・・・。」
運命の悪戯なのか、二人の忍は相対する。そして、戦いの火蓋は切って落とされた。