最終話です。
妄想でも大丈夫〜という気分の方、どうぞ
忙しくて会えないのは分かっていた。
それでも“もしかしたら”を期待して、彼女の職場の近くまで来てしまった。
実際は改装中で、彼女はここにはいない。
ずっと絵を描いて来た彼女。
一年前、大学時代の先輩の誘いでギャラリー運営と所属する作家達の活動のサポートを手伝うようになった。
そこでの彼女の仕事ぶりを気に入った先輩に声を掛けられ、2人で新たなギャラリーを立ち上げることになった。
彼女のアトリエを改装して。
彼女自身が決めたことに、僕が口を出す権利はない。
だけどアトリエがなくなるのはとても寂しかった。
この場所で、彼女が絵を描いている姿に僕は恋に落ちたのだから。
誰もいない真っ暗な部屋を見上げていたら、彼女から着信があった。
結局正直に話した。
電話が切れてから15分程で、彼女を乗せたタクシーが到着した。
下手な言い訳はやはりあっという間にバレた。
中を見せてくれると言う彼女の後について、改装中のアトリエに入った。
廊下もその他のフロアも照明が点かず、メインフロアでは裸の電球だけなんとか明かりがついた。
「あれ、これだけしか点かない…?」
振り向いたヌナと目が合った。
ぼんやりと灯った明かりが、彼女の顔を照らした。
その瞬間、2人の空気が変わった。
もう一度僕は、彼女に告白をした。
『愛してる』
やっと、やっと望んでいた言葉を聞くことができた。
堪えきれずに彼女を胸に閉じ込めた。
激しく打つ心臓の音はきっと彼女に伝わっているだろう。
「もう不安にさせない。僕がうまくやるよ。だから信じてみて」
もう一度強く彼女を抱き締めた。
答えの代わりに彼女の腕が背中に回された。
幸せで堪らなかった。
ヌナは知らないだろう。
ヌナが他の男と話す度、笑顔を見せる度、僕がどれだけ嫉妬して来たか。
ヌナがいればいい。
ヌナが、僕のそばに。
心全体がお互いに向いていた。
心臓の音におかしくなりそうで、僕達はゆっくりと身体を離した。
視線がぶつかった。
「…何を考えてるの?」
ヌナが聞いた。
「多分、同じこと__」
もう一度、2人の距離が近づいた。