受精障害
Hum Reprod. 2023 Mar 28;dmad007. doi: 10.1093/humupd/dmad007.
全てのMⅡ卵子がICSIで受精しない状態を全受精障害(Total fertilization failure)
ICSI症例の1-3%で発生するとされています。
原因としては卵子活性化不全(OAD)が主であり、一般的にカルシウムイオノフォアを使用した卵子活性化(AOA)を行っています。
一方で、OADの原因には卵子、精子側面にあるにも関わらず、原因検索を行わず盲目的にAOAが行われている現状があり、本論文では
・全受精障害の原因究明
・AOAの適応、安全性
・AOA以外の対応
について考察しています。
<結果と考察>
全受精障害の原因と治療法
精子側:PLCζ欠損
Ca2+振動が誘発されず、結果、減数分裂の再開と完了につながる卵子内の特定の
分子経路を活性化されず受精障害を生じる。
→AOAの治療対象
卵子側:卵母細胞のWEE2、PATL2、TUBB8、TLE6などの遺伝子変異
タンパク質合成の変化につながり、卵子の活性化に不可欠な成熟促進因子の活性
化に必要な生理的なCa2+シグナルの伝達を阻害する。
→AOAの治療対象にはならない
卵子側因子が原因の場合、hCGトリガー、卵子採取、卵丘細胞の除去の間のタイミ
ングを調整することで、受精を改善する可能性があります。
具体的には、卵丘細胞への曝露時間を長くすることで、卵丘細胞からの成熟刺激に より細胞質の成熟と受容性が改善され、受精率が改善したという報告があります。
また、デュアルトリガー(GnRH-a+hCG)も有効である可能性があります。
卵丘成熟を促進することにより、過去に受精率が低かった患者のICSIアウトカムを
改善したと報告があります。
AOAの安全性
AOAが着床前後の胚発生に及ぼす影響については未だ明らかではありません。
一方、マウスを用いた最近の研究では、AOAが結果として生じる胚や子孫にエピジ
ェネティックな変化を引き起こす可能性が示唆されていますので、今後の研究が望
まれます。
<意見>
受精により精子内に含まれる可溶性物質「PLCζ」が卵子に働きかけると、小胞体などから細胞質へ連鎖的にカルシウムイオンが放出されます。これが「受精カルシウム波」と言い、卵子の活性化反応を誘導します。受精に必要なプロセスになります。
全受精障害の原因については精子側の因子が着目されていましたが、卵子側の因子についても徐々に明らかになっています。
実際、臨床現場で全受精障害が生じた際に原因究明することは難しいのが現状です。
今まではAOAを使用することが多かったのですが、卵子側の原因も考慮して両方の側面から同時に治療するのが望ましいと考えています。