外科医の仕事もピンキリだ。
勤務する病院の規模や性質で手術件数も内容も変わる。
僕が勤めていたのは市内の中核病院だった。
大学病院の教授の言う事が絶対であり研究のために不必要な手術をするようなやり方にしたがえなくなった。
13年前に教授と大喧嘩して大学を辞め自分の信じる医療がやりたいと思い飛び出した。
不思議な縁があってその病院に勤務することができた。
三次救急を扱う病院であったため毎日忙しかった。
朝は9時前から手術。多い日は一日4例の執刀をし夕方5時過ぎから入院患者の回診をしカルテを書いたり手術記録を書いたりしていた。
帰宅してからも毎晩電話がかかりいつ呼ばれるかわからないため当然ノンアルコールの生活だ。
年間400例近くの執刀をしていたので気が休まる日はなかった。
外科医の腕のピークはおそらく40代だろう。
残念ながら外科医はスポーツ選手と同じ様に引退しなければならない時が来る。
1番の原因は視力だ。加齢と共に手先もわずかに震える。血管を手術する僕にとっていずれも致命的だ。
自分にそんな時が来るなんて考えたこともなかったが今は日々衰えを感じている。
やりたい事も我慢して仕事と家事に追われていた。
一年365日病院に居た。
気が休まる日は全くない生活。
しかし患者さんからの感謝の言葉が何よりの報酬だった。
それがあったから続けることができた。
給料も他の病院に比べれば安い
休みもない
あるのはやり甲斐といい仲間達
それに支えられ13年間頑張り続けてきた。
それなのに…。