快晴!その言葉が似合うくらい雲一つ無い青空。

鳥が大空を駆け回る。

地面からは、柔らかく暖かい土の匂いと草木の香り。

伸び伸びと育った花には、蝶や蜂が蜜を求めて飛び交う。

風は穏やかに吹いて、頬を撫でる。


こんなに気持ちが良いのは久しぶりだ。

大袈裟に空気を吸って、堪能してから吐いた。心が洗われる、というのはこういう時を差すのかもしれない。

芝生の上で仰向けになっていた体を横にする。そうすると、隣に一緒に寝ていた人と目が合った。

「こうしてると、AKUMAと戦ってるのが嘘みたいさ。こんなに気持ち良いのに」

にっこりと言うもんだから、僕もそう思ってたところです。と笑顔で返した。

鳥の鳴き声が耳に響いて、子守唄みたいだ。


「ユウも来れたら良かったさ」


瞼が重く、まどろんでいた時にそんな声が聞こえて目が冴えた。

いつの間にか仰向けになっていた彼は何処かを見据えるように、または誰かを思い出しているような、心ここに在らずだった。

「ラビ・・・・・・」

「なぁ、アレン。世界はどうして動くんさ?」

唐突な発言に頭の中の回路が追いつかない。

彼の意図している事はいつも解からない。

「世界が動かなければ良いと、いつも思ってたさ」

少し思案した後、でもと口にする。

「世界が動かないと生きてはいられないんじゃ」

最もな発言なような、彼の意図している事とは別なような。

アレンの返答に思わず噴き出してしまった。

「ぶっ、あは、あはは。いや、ごめん。そういう事じゃなくてさ」

「酷い!真剣に答えたのに」

赤面しているアレンをラビが笑いながら頭を撫でる。

それが少し嬉しくて、無礼を許そう。なーんて思っていた。全く持って単純だ。

ある程度笑いが収まった頃、さっきよりも強めの風が二人を過ぎる。少しひんやりとしていた。

「ごめん、俺の言い方も悪かったさ。例えばさ、今二人で居る事がずっと続けば良いさ。って事」

笑いから微笑みに変わって見つめてきた。

思わず素っ頓狂な声をあげると、また笑い出した。

本当に失礼極まりないと思う。

「ラビ・・・・・・」

さっきとは打って変わって、力強く声をかけると、ラビは慌ててゴホンと咳払いをした。

「明日も明後日もこの先ずっと。世界中が同じ事を繰り返せば平和な日常を歩めて、生きられる。そうすれば歴史なんてものはなくなるんじゃないか。そうやって思う自分はダメさ?」

「ラビ、もっと簡単に説明してくれないと理解に欠けるのですが」

「んー、どうして人は歴史を残すのか。記録するのか。それを先の未来で振り返るのか。」

ラビは言いながら、器用にひょいっと足の力で起き上がった。

立った姿は太陽の光を背に浴び、神々しくも儚く目に焼きついた。

逆光でラビの顔は見えない。けれど、声音が苦しそうだった。胸が痛む。


「バイバイ、アレン」


ラビはそういうと僕を背にして歩き出した。始めはその意味が分からなくて戸惑ってしまったけれど、考えるよりも行動!直ぐに起き上がって後を追った。

「ラビ!ラビ、待って下さい!!今のはどおいう・・・・・」

追い掛けていた足が止まる。ラビが向かった先には黒いスーツを着た男と黒い服を纏った女の子が立っていた。


「迎えにきたよー、ラビ♪」

女の子はにっこりと笑う。けどその顔はこれから愉快になる事への期待からか、口の端が異様に上がっていた。

くるくるとラビの周りを回る。とても楽しそうに。

「ロード、ラビをどこへ連れて行く気だ!」

これでもかってくらい大きな声で怒鳴った。自分でも少しビックリしたくらいだ。

「アレン、怒らないでよぉ。ラビは記録しなきゃいけないんだよ。知ってるでしょ~?」

首を傾げて上目遣いで言ってきた。

少し戸惑いながらも反論を示す。

「それが何の関係があるんですか」

きょとんとした目で、隣に居たスーツ姿の男を見上げ笑い始めた。

「キャハハ、アレンだからだよ。だからラビはこっち側も記録するんだよぉ。ねぇ、ブックマン♪」

ロードはラビは見据えると背中越しに「そうさ」とはっきり言ったのだった。

また胸が痛む。これは僕の痛み?それともラビの心の痛み?

そんな事は二の次で、この現状が信じられなくてラビに話し掛ける。

「ラビ、嘘ですよね?ラビは僕らの仲間でエクソシストで。いっつも皆に迷惑掛けてばっかりで、でもちゃんと人を見ているから大事な時には気付いてくれて。優しくて、皆にも慕われてて・・・・・・」

泣きそうだった。むしろ泣いていたかもしれない。それでも、それを恥ずかしいとは思わなかった。

少しでも僕という存在に気付いてくれればそれで構わなかった。卑怯かもしれないけど、今までだって僕のところへ来てくれたんだ。

「アレン、泣くのはズルいさ」

答えてくれても、背中越しなのは変わらなかった。なら何故僕が泣いてると分かったのだろう。ほら、やっぱり気付いてくれたじゃないか。

「でも、もう側にはいれないさ。俺はノアを記録しなきゃいけないさ」

痛い。何かに握り潰されそうな。体が痛いとかじゃなくて、心が?


「ここでさよならさ、アレン。大好きだったさ」


呆然と立ち尽くす僕の前でハート型の大きな扉にラビは入って行った。

一度も振り返ってくれなくて切なかった。

「じゃぁーねぇ、アレン♪」

バタンと勢い良く閉まると、地面とは違う何処か下へ姿を消した。

【裏切る】

①味方に背いて敵方につく。

②約束・信義・期待・予想などに反する。

では、それが必然・必定・運命・宿命だとしたら、彼の行く先には何がある?

それでも誰もが「裏切った」と罵るのだろうか。

否、罵るだろう。人は自分で手一杯なのだから。相手の事など考えてはいられない。


これから始まる悲劇は、そんな彼を愛してしまった男の子とその人生に誇りを掛けた彼の物語さ。



雑踏の中。
波の中。
渦の中。
群れの中。
あるいは、心の中。
気が付けば一人ぽつんと立っている。
異端な物はどこに行っても“異端”なのだ。
世界はそういう風に成り立っている。

俺は世界に選ばれてしまったから。選んでしまったから、生き抜いて行くしかないんだ。と、物心ついた時から理解していたんさ。

世界とは、自分の下にあって上にあり中にある。

あいつがそんな事を俺に言うまでは、世界は俺を孤独にした奴で、それ以上でもそれ以下でもなかったんさ。
ただ、あいつと会わせてくれた世界には心底感謝をし、始めて恨みを覚えた。

こんなに早い再会と今更な愛情。

俺をどうしたいんさ、お前は。
俺をまた奈落へ落としたいんさ?

でも、俺は…
吹雪の中ひたすら歩いた。
積もっている雪は足を鈍らす。
イノセンスが本当にあるか分からない。まして、探知機なんて無いんだ。勘で進むしかない。

寒い。

ふと、雪ばかりを見ていたせいかアイツの事を思い出した。
白髪頭の…
真っ直ぐな目。未来を見据え、迷いが無い目。射る様な目。
ちっ、俺は何を考えてんだ。
何であんな奴が頭の中ちらつくんだよ。

苦しい。

急に、ドオーン。と何かが爆発した音が聞こえた。
瞬時にもやし達がAKUMAに襲われてるのだと悟る。
イノセンスを見つけて、戦ってるのかもしれない。
急いで向かった。
さっきまでとは打って変わってスピードが上がっている。本人は気付いてないようだけど…

苦しい。

もやしもラビも苦戦している様だった。
相手は三体。
雪を放ったり強風を巻き起こしたり。