『続々・愛しの姫君』10
侯爵夫人の言い付け通り、離宮の婦人とヒョクチェを帯同して館の主寝室----、ウェンが使っている部屋を訪ねた。
「…どうしたの、シウォン」
彼女は心持ち緊張に頬を強張らせて----、それでも女主人の矜持を保って私達を迎えた。
「スンヘの兄上が廃嫡された」
「…え?」
ヒョクチェが事務的に伝えようとするのを制して、私から言う。
「辺境伯として地方に配される」
「…」
思わずといった体で寛いでいた長椅子から立ち上がった彼女が、呆然と口籠る。
「スンヘの…、私達の子どもが、イ侯爵家の跡継ぎになる」
「全てあなたの差し金?」
「…そうだ」
ヒョクチェが驚いて、ウェンに据えていた視線を私に向ける。
「乳母は侯爵家からいらっしゃるのね…」
もしも彼女が逆上したら----、その為に婦人に同室してもらっていた。----のだが。
私の従妹は、聡明な女性だった。
これだけの会話で全てを理解し、全ての行く末を見通した----。
「お話、終わった?」
程なく。
控えめなノックの音が、息苦しい沈黙を破った。
「えぇ、奥様」
応じたのはウェンだった。
「素敵なローブ・ア・ラ・フランセーズですわね、奥様」
「えーっ、…そ、そう?」
久しぶりだから恥ずかしい----と照れながら、ドンヘが編んだ髪を飾るリボンを、人差し指で弄ぶ。
「イチゴを摘んできたんだ!」
お茶にしよう----と、愛しの姫君が曰うた----。
「…奥様、お腹にいる間のお子の呼び名を考えましたの」
私が名付けてもよろしいでしょうか----と、ウェンが畏まってドンヘを窺う。
「…どーした、ウェナ?」
訝しげに----、でもすぐに笑顔になって、
「もちろん!」
と請け負う。
「…」
ドンヘの耳朶に顔を寄せて、ウェンが小さく囁いて。
「…どんな素敵な名前にしたの?」
尋ねる私に----、
「シウォンには、教えてあげない」
ウェンは母の顔で----、ドンヘと顔を見合わせたまま、頬笑んだ----。