渦人形 後編 | Nyarlathotepの啼く夜は

Nyarlathotepの啼く夜は

私は受け入れる。円環の理を… 腐ってますが、何か???

おじさんが続けた。
最初状況を聞いたとき

・子供のような姿
・笑い声
・生徒がおかしくなって笑いながら泣いている
・村の近く

と言う状況から「ひょうせ」だと思ったらしいが、どうも今詳しく話を聞いてみると、ひょうせのしわざと症状は似ているが、姿形がまるで伝承や過去の目撃証言と違うらしい。

そもそもひょうせというのは、子供くらいの姿をした毛むくじゃらの猿のような姿で、服も着ていないしおかっぱ頭でもないし、当然首ものびたりもしないようだ。
笑い声も俺達の聞いたよくようの無い機械的なものではなく、笑い声といっても猿の鳴き声に近いとの事だった。

俺達は途方にくれてしまった。

ぶっちゃけこの寺に来れば全部解決すると思い込んでいたのに、今更「なんだかわからない」ではどうしたらいいのか…

室内が重苦しい雰囲気になり、皆しばらく沈黙していると、お坊さんがこう言ってきた。
「とりあえず何か良くないものがいるのは間違いない、少し離れたところにこういう事に詳しい住職がいるので、その人を応援に呼んでくる、暫らく皆座敷でまっていてほしい」
そういうと、車に乗りどこかへ行ってしまった。

俺達は座敷に通され呆然としていた。
おじさんはしきりにどこかへ電話をし、かなりもめているように見えた。

夕方になり、お坊さんが別のお坊さんを連れて戻ってきた。
お坊さんが戻ってくると同時に、さっきのおじさんが携帯を片手に
「えらい事になった!」
とお坊さんのところに走り寄って来た。

話を聞いていると、どうも村の子供が1人E介と同じ症状でいるところを発見されたらしく、これからこっちへつれてくるという。
この寺のお坊さんが俺達に
「とりあえず後で話をするから、ひとまず君たちはさっきの座敷で待っていてくれ」
というと、大慌てで2人で本堂のほうへと歩いていった。

それから15分ほどすると、ワゴン車がやってきた。

車の中からはE介のときと同じようにけたたましい笑い声がする。
車の扉が開き、中から数人の大人と笑い声を上げる以外身動き一つしない中学生くらいの子供が運び出され、本堂へと連れて行かれた。

暫らく本堂の中から

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

という笑い声とお経を読む音が聞こえていたが、それも10分くらいで収まり静かになった。
それから更に15分ほどすると、お坊さん2人が俺達のいる座敷に入ってきて、色々と説明し始めた。
さっきの子供のほうは、消耗が激しいので本堂に布団を敷いてそのまま寝かせているらしい。

応援でやって来たお坊さんによると、どうも話を聞いた感じやさっきの子供の様子から見て、幽霊や妖怪のようなものが原因ではなく、何かしらの呪物が原因ではないかという。
特に根拠があるわけではないけれど、感覚的にそう感じるらしい。

そして、呪物の類だとすると、と前置きし。

恐らく祈祷で呪物と君たちの「縁」を切ってしまえば、なんとかなるのではないかと、そして、できればその人形も供養してしまいたいとのことだった。

とりあえずそういう話でまとまったという事で、俺達もそれで解決できるなら早くしてほしいと、話がまとまった。
と、その前に俺はずっと我慢していたのだがトイレに行きたくなった。

事情を話し、「でも一人じゃなぁ…」と思っていると、他のやつも全員我慢していたらしく、結局6人で連れションすることになった。

トイレからの帰り道、本堂へ続く廊下を歩いていると、どこからか

「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」

という例の抑揚の無い声が聞こえてきた。
場所は解らないが、あれがすぐ近くにいるようだ…

C広が
「近くにいるよな…」
というと
A也が
「かなり近いぞ、やばくね?」
と返した。

たしかにかなり近い、でも姿は見えない。
すると最後尾にいたE介とD幸が
「やばい、早く本堂に逃げろ!」
と窓の上のほうを指差しながら叫んだ。

俺達が指差した方向へ振り向くと、それはいた…

前と同じように屋根から頭だけを突き出し

「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」

と笑いながら例の真っ黒な目と口の顔をこちらに向けながらニコニコと笑っている。
俺たちは全力で逃げ出した。

本堂に着くと、お坊さん2人とさっきのおじさんが待っていた、今になって気付いたのだが、おじさんはどうもこの村の村長さんらしい。
俺達が事情を話すと、お坊さん達はすぐさま俺達を座らせお経を読み始めた。

暫らくお経を読んでいると、本堂の天井のほうから

「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」

という例の笑い声と

コツ…コツ…

という俺の部屋で聞いたあの音が聞こえてきた。
俺達はビビりまくって身を寄せ合っていた。
暫らくすると声が聞こえなくなった、俺が

「終ったか?」

言い切らないうちに、今度は本堂の横の庭のほうから

「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」


という声が聞こえ始めた。
そして、薄暗くなり始めた本堂の障子に、夕日に照らされたあの人形のあたまが映し出された。
あたまはユラユラ揺れながら相変わらず不気味な笑い声で笑っている。

その時、俺は恐怖心と不安感と連日の寝不足でもう耐えられなくなって、ちょっとおかしくなっていたんだとおもう。
人形の影を見て、恐怖心よりもその姿にイラつきはじめた。
ユラユラ揺れている姿を見ると、とにかくなんだか良く解らないがムカついてきて、とうとう我慢できなくなった。

俺はお坊さん達がお経を読んでいる横の鉄の燭台を掴むと、蝋燭もささったまま引き抜き、周りが制止するのも振りきり障子を開けた。
目の前にあの人形の顔があった。

一瞬俺は恐怖心に襲われたが、怒りとイラつきが勝ってそのまま燭台をぶら下がっている人形の頭めがけ

「ふざけんなーーーーーーーーーー!」
と叫びながら振り下ろした。

バキッ!

という音がして燭台の先端が人形の顔にめり込み、そのまま人形は地面に落下した。
俺は裸足のまま庭に下りると、更に燭台を振りかぶり人形に打ち下ろした。
すると、なにか頭の中に妙な感覚が芽生え始めた。
人形はそれでもなお

「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」

と無機質に笑っている。
俺はおかしくも無いのに笑いたくなり、なきたくも無いのに目からボロボロと涙が零れ落ちてくる。
明らかにE介たちと同じ状況になりつつあるのだが、それでも俺は燭台を振りかぶり人形に打ち下ろすのをやめなかった。
あとから話を聞くと、俺はゲラゲラと笑いながら無表情でボロボロと涙を流していたらしい。

暫らくそんな状態が続いていると、どうも燭台に残っていた蝋燭の火が人形の服に燃え移ったらしく、人形が煙を上げて燃え始めた。
友人たちによると、人形の

「ホホホ…ホホホ…ホホホ…」

という笑い声と、俺の絶叫が交じり合い、薄暗くなり始めた周囲の雰囲気とあわさって、異様な状況だったという。

それでも俺は笑い泣きしながら殴り続けていると、どこを殴ったのかよくわからないが

メキッ!

という鈍い音がした。
その途端、俺の中の妙な感情が消えた。
消えたというか、急にシラケてしまったといえば良いのだろうか、とにかく人形に対するイラつきも、笑いたいという気持ちも泣きたいという気持ちも急になくなってしまった。

俺はその場にヘタり込み、友人たちやおじさんが
「…大丈夫か?」
と心配そうに近付いてきた。
人形はもう笑ってもいないし動きもしないが、燃えたままでは不味いので友人たちとおじさんが砂を掛けて消していた。

理由は解らないが、おれは何故か全て解決したような、そんな良い気分になっていた。

この騒ぎの中、お坊さん2人はずっとお経を読み続けていたらしい。
人形(もう殆ど残骸に近かったが…)の事は明日詳しく調べる事になり、箱に入れてお札を貼り、本堂に安置する事になった。
俺達はお坊さんの好意でそのままお寺に泊まることにした。


翌朝。
俺達は本堂に呼ばれた。
どうやらお経のお陰なのか、俺がぶち切れたのが原因なのか、理由ははっきりしないが、どうも一応解決はしたらしい。
そして、人形はこのままこのお寺で供養する事になったのだが、結局この人形が何なのか、その辺りは謎のままだった。

ただ、燃え残った人形の胴体に、焼け焦げ消えかかった文字で
「寛保二年」という記述と、完全に燃えて文字数しかわからない作者の名前6文字、それとはっきりとは解らないので残っている文字の痕跡からの推測だが、「渦人形」という単語が読み取れた。

お坊さんが言うには、とにかく正体は不明だが何らかの呪物である事はまちがいないらしい。
燃え残った残骸に頭と胴を繋ぐ棒の部分があったのだが、そこにびっしりと何か呪術的な模様が書かれていた痕跡があるのが確認できたとの事だった。

その後、今に至るまで俺も含め当時のメンバーには知る限り何も起こっていない。
お寺のお坊さんからは、人形の正体がわかったら連絡をくれるという話だったが、あれから数年経つが未だその連絡も来ない。




渦人形。

終了です。

実話怪談らしく、正体不明のまま終わってしまいましたが・・・

こう言うのも、面白いと思います。


さて。

明日は、何を書こうかな ( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \


では (*^ー゚)/~~


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