ステイホーム週間ということで、今回はチェコの歴史を取り上げた映画「ハイドリヒを撃て!ナチの野獣暗殺作戦」をご紹介します。
この邦題ではまるでB級のアクション映画のように聞こえてしまいますが、第2次世界大戦時代のチェコスロバキアの史実を基にした歴史映画です。1938年にナチスドイツに割譲されて以降、チェコスロバキアではナチスによる占領体制が敷かれていました。そのトップを担っていたのがラインハルト・ハイドリヒ。親衛隊のナンバー2の地位を与えられ、ユダヤ人虐殺作戦の実質的な実行者の1人でした。本作は、チェコ人部隊によるハイドリヒ暗殺作戦「エンスラポイド」を描いています。
【キャスト】
- ヨゼフ・ガブチーク - キリアン・マーフィ
- ヤン・クビシュ - ジェイミー・ドーナン
- レンカ・ファフコヴァー - アンナ・ガイスレロヴァー
- マリー・コヴァルニコヴァー - シャルロット・ルボン
【あらすじ】
チェコスロバキア亡命政府からの命令を受け、イギリスからチェコに送り込まれたヨゼフ・ガブチークとヤン・グビシュの2人の若者。彼らに与えられた任務は、ナチス高官ハイドリヒの暗殺。彼らは、チェコ国内のレジスタンスと連携しながら、作戦実行のチャンスを伺います。しかし、祖国を守るための暗殺作戦は、チェコ国民、そして若者たちの運命を大きく変えようとしていました…
決して明るい話ではありませんが、本当によく作られた映画で片時も目が離せませんでした。
ハイドリヒ暗殺作戦は、唯一成功したナチス高官の暗殺作戦として知られています。これだけ聞くと武勇伝のように聞こえますが、実行したのは軍人とは言えども普通の若者たち。果たしてハイドリヒを暗殺することが祖国のためになるのか迷いながらも、歴史の波に呑まれていく彼らの姿が非常にリアルでした。
プラハのレジスタンスたちも、「ハイドリヒを殺せばどんな報復があるか分からないし、後任が任命されるだけ」と反対しています。いつ終わるかも分からない恐怖政治の中に置かれた当時のチェコ国民の心情をよく表していると思います。それでも決行に踏み切ったのは、祖国へのプライドと微々たる希望だったのかな、と思うとやるせない気持ちになります。
この映画の最大の見どころは、「暗殺後の報復と絶望」を明確に描写している点です。ドイツ軍は報復として国民の虐殺という手段に出て、プラハ近郊(現在のヴァ―ツラフ・ハヴェル国際空港近く)のリディツェ村は全滅しました。悲惨な措置を耳にし、パラシュート部隊たちが自分たちの行為が祖国のためになったのか苦悶する場面は心が痛みます。プラハ市を封鎖し懸賞金を出すドイツ軍、仲間の裏切り、協力者たちの逮捕、ラストの戦闘シーンに至るまで、常に緊迫感をもって当時を追体験できる作品になっています。
実際のプラハでロケが行われたため、中世そのままのプラハの街並みも楽しめます。チェコ在住経験者からすると、「プラハだ」とはっきりと分かる雰囲気の通りが何度も登場して懐かしかったです。プラハ城やカレル橋、火薬塔といった観光名所も映りますのでお見逃しなく。
映画のクライマックスでチェコ人部隊とドイツ軍が銃撃戦を繰り広げる教会は、今もプラハ市内に現存します。
ヴァ―ツラフ広場から西へ15分ほど歩いたところにある聖ツィリル・メトディ教会。
外壁には作戦に携わって犠牲になった若者たちの記念碑がありました。プレートの下にある穴からドイツ軍が放水攻撃を行っています。劇中でも終盤に登場します。
教会内部。凄惨な戦闘の舞台となったとは思えない厳かさでした。
ヤンをはじめとする3名のパラシュート部隊がドイツ軍と戦った2階の回廊部分。
教会地下のクリプトは、エンスラポイド作戦に関する博物館として無料で一般公開され、多くの人が訪れていました。
この地下室こそ、追い詰められた主人公2人が自らの命を絶った場所です。
日本ではあまり知られていないハイドリヒ暗殺作戦ですが、欧米では有名な事件とあって関連作品も多いです。
「ナチス第三の男」(2017年 フランス・イギリス・ベルギー合作)
ハイドリヒ暗殺事件をハイドリヒと暗殺者双方の視点から描いた作品。主演はジェイソン・クラーク。ハイドリヒを支えた妻役を「ゴーン・ガール」のロザムント・パイクが好演。「ハイドリヒを撃て!」では描かれないハイドリヒ側の人生が描かれています。
原作はこちらの「HHhH」。僕は未読ですが、かなり面白そうなので今度読んでみようかと検討中。
タイトルの「HHhH」は「Himmlers Hirn heißt Heydrich(訳:ヒムラーの頭脳、すなわちハイドリヒ)」という意味らしいです。
「暁の7人」(1975年 アメリカ)
今作と同じエンスラポイド作戦を描いた名作。撮影の大部分がプラハで行われました。
美しい街並みが取り上げられがちなチェコですが、実はこのような苦難の歴史を辿っています。今作も暗い話ではありますが、チェコでこのような事件があったのだということ、そしてチェコ国民が持ち続けた祖国への想いをぜひ知ってほしいです。彼らの愛国心があったからこそ今のチェコがあるのだと思うと、街並みを見る目も変わりそうです。
学校では習いませんが、日本人も学ぶべき歴史だと思うので、お時間のある時にぜひご覧ください!特にチェコ旅行・留学を検討されている方は、チェコの負の歴史を学んでから訪問されることを強くおすすめします。
ではでは今日はこの辺で!
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