"The Phantom of the Opera" (July 12, 2019) @Her Majesty's Theatre

The Phantom of the Opera: Tim Howar

Christine Daae: Kelly Mathieson

Raoul, Viconte de Chagny: Jeremy Taylor

Carlotta Guidicelli: Kimberly Blake

Monsieur Firmin: Ross Dawes

Monsieur Andre: Alan Vicary

Madame Giry: Jacinta Mulcahy

 

ウェストエンドミュージカル2本目は「オペラ座の怪人」。小学生の時に、映画版と劇団四季で観て以来、一番好きなミュージカルでした。思い入れが強い作品だっただけに、2階最前列ど真ん中を110ポンドで購入してしまいました。舞台との距離がちょうどよく、全体が見渡せる上に、役者さんの表情もオペラグラスなしで観られるので、大枚をはたいた甲斐がありました。演出上、シャンデリアが目の前を通ってせりあがって行ったり、ファントムが目の前に現れたりするので、臨場感もありました。「絶対にロンドンの”オペラ座の怪人”を観たい!」という方にはおすすめの席です。劇場が小さめなので、1階席を取ってしまうと、却って舞台が近すぎて見づらい気がします。特に「オペラ座の怪人」は、舞台を縦に使う演出が多いので、それを楽しむには2階でちょうどかと。

一度、劇団四季で観劇済みにもかかわらず、色々記憶から抜け落ちていた部分も多く、初見のような感覚で楽しめました。(笑)やはり、オープニングで19世紀のオペラ座(もどき)にタイムスリップする演出は鳥肌ものですし、マスカレードのシーンで大階段が現れた時には、観客がどよめいていました。

 

そして、なんといっても役者陣が素晴らしかった!なかでも、ファントムとクリスティーヌの2人は、正に役そのものでした。

 

まずはファントムのTim Howar。最近、ファントム役のイケメン化傾向があり、下手したらストーリー自体が成り立たなくなることもあるのですが、彼はいい意味で本物の「ファントム」でした。身長も、クリスティーヌより低いくらいで、わりとずんぐり体型ですが(失礼)、それが逆にリアルでしたね。ロン・チェイニーが演じたサイレント映画のファントムに近いイメージもありました。また、歌声や雰囲気もよりミステリアスで、クリスティーヌが思わず仮面を外したい好奇心に駆られてしまうのも納得。それに加え、ファントムの狂気と悲哀がしっかり描かれていたのが良かった!近頃のファントムって、容姿も内面も「天使」に近づけすぎて、なぜクリスティーヌがファントムを恐れたのかが曖昧になり、最終的に「顔で選んだ」という印象にもなりがちですが、今回は、「天使だと信じていた男の狂気を知ったから」という部分がよく理解できました。そして、クリスティーヌへの恋心を募らせるシーンでは本当にボロボロになってしまうのが、非常に哀れで、第1幕ラスト、「All I ask of you」のリプライズでは、思わず涙が止まりませんでした。劇団四季の時は全幕通して泣かなかったのに、今回は第1幕から泣いてしまってどうなるんだという感じでした。(笑)最終場で、クリスティーヌにキスをされる前に「No!」と叫ぶのも初めて観たかも。歌唱力で言えば、25周年公演でも主演を務めたラミン・カリムルーの方が圧倒的だったのでしょうが、全体的な役作りという点では、Tim Howarのファントムが上回ったかもしれません。

 

同じく素晴らしかったのが、クリスティーヌのKelly Mathiesonです。父親を亡くした悲しみを背負い続けている感じで、少し陰のある雰囲気が、クリスティーヌの役柄によく合っていました。25周年公演のシエラ・ボーゲスは、歌唱力では歴代最高のクリスティーヌなのですが、どうも雰囲気が「陽」な感じなのと、最初っから上手すぎて、ファントムのレッスン受けなくていいやんってなりそう。(笑) また、全編を通してクリスティーヌの成長がはっきりと見て取れたのも良かった点でした。初めの「Think of me」は上手いけれど、まだどこか頼りなげな感じで、劇中でファントムやラウルと関わっていくうちに成長していき、後半の「Wishing you were somehow here again」や「Point of no return」では声質も雰囲気も大人っぽさを増していました。今回のファントムとクリスティーヌはバランスがとてもとれていて、物語に説得力がありました。父親がいない悲しみを抱えているからこそ、ミステリアスなファントムを慕っていたけれど、彼の狂気を知るにつれてその想いが恐怖に変わって…という流れがはっきりと分かる役作りでした。そうでないと、クリスティーヌがただ最低な女性にしか見えてこない。(笑)

小さい頃からスコティッシュバレエでバレエを習っていたとのことで、ダンスシーンに期待したら、そこは微妙でした。(笑) ちなみに、クリスティーヌ役にダンス力はそこまで求められていないようです。そういえば、劇団四季のクリスティーヌ役がものすごい内股で、母がそこばっかり気にしていたのを思い出して、ちょっと笑ってしまいました。(笑)

でも、ふとした時の、ドレスの裾使い、振り向き方などはやはり美しかったですよ。

 

 

ウェストエンドでは、毎年秋ごろにキャストが一新される傾向があるので、もしかしたらこの2人の共演もあとわずかなのかも、と思うと少し残念です。2人とも役のイメージに合っていて、かつパートナーシップの面でも最高レベルだったので。夏休みにロンドンにお越しの方は、ぜひ本場の「オペラ座の怪人」をご覧になってみてくださいね。

先日のWestend Liveから「オペラ座の怪人」のパフォーマンス。メインキャストの2人が出演しています。怪人のロングヘア―は賛否両論ですが、僕はファントム感があって好きです。

 

 

 

ロンドン初演から25周年を記念したスペシャル版。現代最高のファントムとクリスティーヌとの評判をもつペアが主演。

 

 


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