Sergej Prokofjev "Romeo and Juliet" (March 8, 2019) @Janacek Theatre

Juliet: Klaudia Rodacovska

Romeo: Arthur Abram

Kapulet: Ivan Popov

Lady Kapulet: Ivona Jelicova

Tybalt: Martin Svobodnk

Merkucio: Peter Lerant

Benvolio: Shoma Ogasawara

Paris: Doychin Dochev

 

この日は、ブルノ国立バレエ「ロミオとジュリエット」新バージョンのプレミア。バレエ作品のプレミアなんて、日本では行く機会がなかったので、ちょっと贅沢な感じがします。

実は、ドラマチックバレエの名作「ロミオとジュリエット」が世界初演されたのは、他でもないこのブルノの地なんです!はい、ロシアではありません。どうも曲だけを先に発表したところ酷評され、キーロフ劇場(現在のマリインスキー劇場)との契約を破棄されてしまい、ブルノの地での初演となったそうです。「ロミオとジュリエット」は僕自身大好きな演目なので、その初演の地でしかもプレミアでこの作品を観られるなんて、夢のようです。

 

エントランスやロビーの様子。プレミアということで、レッドカーペットが敷かれ、芸術監督らが勢ぞろいで来賓の方をお出迎え。華やかやわ~。監督が、休憩時間にもロビーで招待客の接待をしていたのには笑ってしまいましたが。

開演前には、監督が舞台挨拶。この日の舞台は全世界にネットでライブ配信されたので、日本の友達にも教えてあげて、会場の雰囲気をおすそ分け。

 

演出としては、現代風の設定で、装置は2階建てのシンプルなもの。衣装は、現代風ながらもキャプレット側の衣装はルネサンスをベースにしているように見え、作品の普遍性が表現されているように感じました。

 

振り付けは、ネオクラシックとモダンの間という印象で、初めはイマイチかな?と思ったものの、バルコニーのパドドゥあたりで一気に引き込まれました。ロミオとジュリエットは、曲も20世紀に入ってから作曲されたものですから、古典の中では新しめの部類に入り、現代風の振り付けもけっこう似合うんですよね。むしろそのほうが、人物の心情がより細やかかつ開放的に表現されている気もします。ダンサーたちは皆、身体と空間の使い方がうまくて、モダンの振り付けもしっかり踊りこなしていましたし、見栄えもしました。この間、「白鳥の湖」で正統派クラシックの世界を見せてくれたのと同じカンパニーとは思えないほど。クラシックとコンテンポラリー両方を一定の水準で踊れるバレエ団はやはり一流です。

 

そろそろ主要キャストの感想を。

まずジュリエット役の Klaudia Rodacovska。かなり長身で美人なダンサーのため、最初の登場シーンでは、14歳の少女役には向いていないのでは?と感じてしまいました。どちらかというと白鳥などのラインで魅せる演目の方が似合うのでは?という印象でした。でもそう思ったのは、一瞬で、このバージョンのジュリエットは彼女なしにはありえない!という役作りとパフォーマンスを見せてくれました。

ここからは僕の主観なのですが、今回のロミオとジュリエットはただの悲劇のラブストーリーではない気がしたんですね。

まず、対立するキャプレットとモンタギューの2つの家ですが、どうもそれぞれ抑圧された社会と、自由と若さにあふれた社会を象徴しているように見えました。衣装も、モンタギュー側が個性を表す衣装なのに対し、キャプレット側は、全員黒を身にまとい、厳格な雰囲気。また、通常のバージョンでは、両者が双方に憎みあっているようですが、今回はキャプレット側が一方的にモンタギューを抑圧している印象でした。集団で寄ってたかっていじめたりしていましたし。この戦闘シーンでキャプレット側が使用する旗を使った振り付けがとても格好よかったです。(あとで調べたら、どうもダンサー以外にこの旗パフォーマンス専門のグループが出演していたらしい。)ただ、旗のデザインがまるでナチスドイツの旗のように見えて仕方がなかったのですが、それは深読みしすぎでしょうか?翌日一緒に観に行った友達も、戦時中の社会のようだったと言っていたので、あながち間違っていないかも。

その社会の中で、ジュリエットは平和で自由な社会で、自分らしく生きることを夢見る女性のように見えました。そのため、ロミオとジュリエットが互いに惹かれたのは、お互いに自分の生きている世界にはないものを感じたからではないかと思いました。通常のバージョンでは、単に美男美女だったからという解釈になりがちですが、今回はもっと深い部分で2人がつながっていたように思います。特に、ジュリエットの方がロミオに惹かれていたのではないかと思わせる振り付けもありましたから、ジュリエットはこの人といれば自由な世界で暮らせるかもしれないという希望をもったのでしょう。

このジュリエットの平和と自由への思いは、仮死状態になる薬を飲む一連のシーンでも表現されていました。両親からパリスと婚約するように言われたジュリエットは抵抗しますが、ロミオという夫がいるからというより、周りから束縛された人生を送りたくないというのが理由のように思われました。また、薬を飲む直前に、ロミオとティボルトを和解させようとするシーン(おそらくジュリエットの夢)があったのですが、2人は結局いがみ合ったまま。その夢から覚めた後に、ジュリエットは薬を飲む決意をします。単にロミオと一緒になりたいのではなく、自分がこうすることで争いや抑圧のない社会になってほしいという希望と最後の抵抗から薬を飲んだのではないかと感じました。

このような想像をしてしまったので、終盤、平和な世界に住むことはおろか、愛する人まで失ってしまったことを知った彼女の悲しみがより一層強く伝わってきて、涙、涙。しかも、ロミオが息絶える前に、意識を取り戻したジュリエットが一瞬だけ再会するという演出で、余計に辛かったです。

 

またもう1人、特筆すべきはキャプレット夫人!今夜のベスト女優賞をあげたいくらい良かったです!(いや、ジュリエット役も良かったんだけど。)舞踏会のシーンを初め、登場したときの存在感とオーラがすごくて、彼女にしか目がいかないくらいでした。素晴らしかったのは、その役作り。通常のバージョンでは感じられない人間性にあふれた側面が強調されていました。もしかしたら、キャプレット夫人も昔、ジュリエットのように1人の女性として生きたかったけれど、男性の権力や争いには抵抗できなくて、服従する妻としての役割を担っているようで、ジュリエットの気持ちがよく分かっていたのでは?と感じました。政略結婚に抵抗して悲しむ娘の姿に、昔の自分を重ねたのか、一瞬母親の顔になるところが感動的で、また涙…。結局、夫に従わざるを得ず、ジュリエットを平手打ちまでしてしまうのですが、心の中では母として、そして1人の女性として彼女を愛していたはず。仮死状態になった娘を抱きかかえて嘆いた後に、床に落ちていた毒薬(実際は仮死状態になる薬)の瓶を見つけ、あなたがあんなに酷い仕打ちをしなければ娘は自殺しなかったのにと言わんばかりに夫に怒りをぶつけ、娘の亡骸を夫には触らせようとしない彼女の姿からは、男性社会の中で束縛された女性の悲哀を感じさせ、名演でした。実際、カーテンコールでは、主役2人に次ぐ拍手と歓声が上がっていましたよ。

 

あれ?男性陣の感想は?なんだか、ジュリエットとキャプレット夫人が良過ぎて、周りが霞んでしまった感があります。(笑)ロミオも上手かったのですが、それ以上にキャプレット夫人が良過ぎて!結局、「ロミオとジュリエット」というより「ジュリエットとキャプレット夫人」という作品を観てきた感じですね。(いいのか、悪いのか。)

カーテンコール写真はこちら。

この翌日、友人たちに誘われて2回目を観に行ってきました。学生の当日券はなんと50コルナ(250円)!!!え、スーパーで買ったサラダと変わらないお値段。しかも、当日券はおそらく一律50コルナなので、比較的いい席で観られます。

50コルナの眺めはこちら。これ、日本だと間違いなく1万円前後の席ですよね…。

このシステムを知ってしまったため、調子に乗って、オペラなどの当日券チャレンジしまくろうと意気込んだところ、感想を書くのが追っつかないほど観劇予定が入ってしまいました。(=自爆。)というわけで、本当は2日間行ったのですが、キャストも同じだったので(ダンサーの皆さん、お疲れ様です)、1つの記事で2日分の感想に。

火曜日もオペラに行ったので、その感想を書く予定が、日曜日には「トスカ」を当日券鑑賞しようと思っているため、それまでには完成しないと。そして来週の火曜日は「白鳥の湖」3回目。ちなみに4月にももう1度行くので、3か月の間に4回観ることになる。スペシャルゲストが来るからということで、学割が効かなかったので、泣く泣く全額支払いました。それでも4000円台で、2階中央4列目をゲットしたので満足。あとは授業終わりに劇場までダッシュするだけです。(この前タイムを計ったら5分で到着することが判明したので、間に合うでしょう。)