奈央です。
あさぼらけさえまだ早いとき、冴えわたる外気の中を事務所への坂道を辿る日々が既に8か月に及ぼうとしている
三日月の仄かな灯りが映しだすものは変わりようのない住宅地の路地
この日、この時、決まって一人の女性が腰を落として、もくもくと手を動かしている
彼女は道に散乱したものを集め、袋の中に収め口を縛っている
ただもくもくと、決まって、この日、この時
なにも言葉を交わさず、ただ少しだけ首を下げて通り過ぎる
やがてあさぼらけとなり、我先にと急ぐ者たちの波がつづく
喧騒は全てを押し流す
冴えわたった寒気も、三日月の仄かな灯りも
黙々と働く女性の影も
時間の競争は生きる糧を生み出すだろう
収入と栄誉をもたらすだろう
生きている充実さと満足さを感じるだろう
しかし、捨てざるを得ないと判断するものも多々ある
非効率とか、タイパが悪いとか、無関係とか
走り去った後に見向きもされず吹き散らされる
何かを得るために何かを捨てる
そこに価値を感じなければ捨てていること自体に気付かない
翻れば
自身が他の誰かに捨てられていることにも気づかないだろう
ふたたびあさぼらけさえまだ早いとき
冴えわたる寒気の中、月明かりに見守られながら
一人の女性が腰を落として黙々と手を動かしている
捨てられ吹き散らされたものを集め、収めている
彼女はただ黙々と腰を落とし手を動かしているにすぎない
しかし、たしかに守っているのだ
この路地を、この町を
捨てられた破片を拾い集め
あるべき場所に収めているのだ
そして、ひと時の爽やかさを取り戻したこの路地に
再び喧騒の波がやってくる
不要なものを投げ捨てながら、波は流れていく
だれも、守られていることに気付かない







