漢方の五苓散(ごれいさん)は
「全身における」
水のバランスの調整(利水、りすい)に役立ちます。
しかし五苓散が
「二重手術の後の まぶたの腫れのような、
きわめて限局性のむくみにも効くのか?」
というと、かなり疑問です
最近ではようやく下火になりましたが、
数年前までのSNSでは、
目周りの術後の
まぶたの腫れに対して
漢方薬の「五苓散」(ごれいさん)を
買った方が良いという都市伝説が、
一部の美容外科医だの
美容外科インフルエンサーと名乗る医療関係者
を中心に
大流行りしていました
私自身も、患者様から
買ったほうが良いでしょうかというご質問を
しばしば受けましたので、
そのたびに
『二重のダウンタイムを減らすというのは言い過ぎなので、
五苓散は買わなくても大丈夫ですよ』
と助言していました。
さすがに五苓散を
まぶたのダウンタイム対策に使用してみても
「効かなかった」という意見がSNSでも
多く出まわったので
ああいうデマは
下火になってきましたが、
それでもいまだに、まことしやかに
術後のダウンタイムに
五苓散を勧める美容外科医がいますから
ほんとうに頭が痛くなります
五苓散は
単なる利尿剤(尿を出して、むくみをとる薬)
ではありません。
ましてや、術後のまぶたの腫れという
「非常に限局した浮腫」の治療に使う薬ではありません。
たとえば外科の開腹手術のように
「全身」に大きなダメージが加わって、
顔も舌もバーンとむくんでいるとか
下半身が全体的にむくんでいるとか
そういった水毒がある場合には漢方薬は役立ちます。
しかし
まぶたの腫れのような極めて限局性の
炎症なら、
五苓散を用いるよりも
冷たすぎない程度の保冷剤を使って
(ちなみに冷凍庫で凍らせたものは-20度なので
あまりにも冷たすぎます)
30秒~1分くらいずつ
小まめに冷やすほうが
よほどまぶたの循環の改善に役立ちます。
二重の術後のダウンタイムをどうにかして
軽く短く済ませたいというお気持ちは
すごくよく分かります。
しかし、漢方薬の間違った使い方をするのは
おすすめできません。
漢方薬にも副作用はありますから、
必要のない方が、内服すべきではありません。
お顔の術後のむくみには五苓散が効くはずだとか、
お体の脂肪吸引の後は内出血があるから治打撲一方がいいとか、
そういう安直で乱暴な使い方は
決してお勧めできません
漢方薬とは、
西洋薬のように 「むくみにはコレ」 「内出血にはコレ」
という使い方をするお薬ではありません。
漢方の考え方では、
一人一人の
・体質や病気に対する抵抗力(虚証・中間証・実証)
・気・血・水の状態(気虚証・瘀血証・水毒証など)
・病気の位置・進展具合・病気の性質・勢い
(表証と裏証、寒証と熱証、陰証と陽証など)
といった
さまざまな証(しょう)を鑑別して処方を行います。
つまり漢方薬は、さまざまな証(しょう)を細かく診て
処方するものであって、
万人に同じ薬は処方しません。
西洋医学のお薬とは
根本的に、処方に対する考え方が違います。
五苓散は電解質異常の原因となりうる
甘草(かんぞう)を含まないので
重篤な副作用がたいへん稀な漢方薬ですが、
それでも副作用のリスクがまったくない薬など
漢方薬でも、
西洋薬でも、存在しません。
(もし副作用ゼロの薬があるとしたら
薬剤としての効果もゼロといって過言ではありません)
ですから必要がない薬なら
飲まないに越したことはありません。
「まぶたにむくみがあるなら、
むくみに効くらしい五苓散を使えばいいんじゃないの ?」
という
単純きわまりないというか、乱暴すぎる考え方はしません。
「術後のまぶたのむくみ取りには、たぶん五苓散が効くと思う 」
とテキトーなことをつぶやいている
勉強不足の美容外科医や
自称・美容外科インフルエンサーからの
医学的根拠のあやしいアドバイスを
いまだに信じておられる方がいたら、
それは単なる都市伝説ですから
一日も早く忘れた方が良いと思います。