月刊『放送作家』2018年12月号

 

シンデレラにガラスの靴があるなら朝鮮皇太子に「わらじ」はあるか?
tvN 「100日の郎君様」 ノ・ジソル作家





朝鮮時代の法典『経国大典』での結婚年齢を見ると、男性は15歳、女性は14歳と定められている。20才を過ぎると『노처녀(年をとった独身女性)』と『노총각(年をとった独身男性)』と呼び、独身男女が多くなると国家に悪いことが起きると信じたが、何か月も雨が降らないので、皇太子は全国の独身男女を強制的に結婚させるよう命じる。そこで最高齢の独身女ホンシムにばれて強引な結婚をすることになった運の悪い男がいた。彼はその命令を下した皇太子のイ・ユルだった!



「記憶喪失になった朝鮮の皇太子イ・ユルと朝鮮最高齢の独身女ホンシムの100日間の強引な新婚物語」という奇抜でウィットにあふれた発想はどこから出たのかと思ったが、作家ノ・ジソルの経歴を見て納得した。過去にバラエティ作家を10年した後、ドラマ作家に変更したのだ。


ノ・ジソル作家

「放送局でバラエティ作家の公募があり、バラエティ作家でデビューして『挑戦ゴールデンベル』などを書きながら10年を過ごしました。私は人気のバラエティー作家ではなかったので、某新聞社では『思い切って辞めた』と書かれていましたが、辞めさせられる危機に直面した後、以前からの夢だったドラマ作家に挑戦してみようと、また教育院に行ってドラマを習いました」


ドラマ作家になった後、「ドクターチャンプ」、「女の香り」、「僕には愛しすぎる彼女」、そして今回の「100日の郎君様」を書きましたが、ドラマ作家として評価するなら星はいくつでしょうか?
星3つ? ドラマ作家は文学的な面を得したり、大衆受け入れられなければなりませんが、私はそもそも文学的な面を基盤とした作家ではないようで、進む方向は大衆受けするものでしょう。ところが大衆受けを確実に得たかというと、まだ大ヒット作家でもスター作家でもないので星2つマイナスです。星5つに向けて努力しているところ……?


「100日の郎君様」が今まで放送したtvNドラマの中で視聴率4位だったんですよ。私は、ノ作家さんの以前の作品より今回の作品のほうが、とても楽で大衆向けになったように思いました。
今回の作品で良かったと思うのは、視聴率が徐々に上がっていったということです。以前の作品だと5話か6話で頂点になって徐々に下向きになり、「私はストーリーを引っ張っていく力が弱いのでは?」と悩んだのですが、今回の作品では少しずつ上がっていったのがとても気持ちいい経験でした。ところがtvN全体で4位と言っても、1位が「トッケビ」、2位が「応答せよ1988」、3位が「ミスターサンシャイン」なので……皆さんご存知のようにスター作家にスターPD、スター軍団じゃないですか。その次に私というのが「うーん……まさに奇跡のようなもの」と最近思うようになりました。暇だから余計なことを考えてしまってハハハ……ありがたいし夢のようなことだと思います。


その感謝と夢のような出来事が大切なのは、おそらく厳しいスランプを乗り越えて成し遂げたからだろう。バラエティ作家を10年やってドラマ作家に変更した後、ただ「途中で作家が交替されなければ……」というささやかな希望をもって作品を続けた。ところが「僕にはとても愛らしい彼女」は違った。3作目を前にして編成されるまでの過程がとても大変で、オンエア途中でWriter's Block(スランプ、筆が進まない)を経験するようになった。


ノ・ジソル作家

「『ドクターチャンプ』と『女の香り』は本当に何もわからずにやっていたと思います。ただ編成してもらおうと血のにじむような努力をして、編成されると『途中で作家が交代しないで最後までできればいいな』そんなささやかな願いだけでした。でも作品を重ねるうちに『ヒットしてほしい、何かを見せたい』という欲が大きくなったんです。そんな気持ちで『僕にはとても愛しい彼女』を執筆していたら、『ドアを開けた(新しい世界が開けた)』ような簡単な文章が全く思い浮かばなかったのです。オンエア中なので、5日に一つ、3日に一つ台本を書かなければならないのに。作品が終わるとかなり落ち込んで『これからも作家でいられるのだろうか? 作家として生き続けるにはどうすればいいんだろう?』と悩みながら自分なりに考えてみました。それで今回の作品は前作に比べて気を楽にして書きました。放送されるだけでいい、そんな気持ち? 3作目で、自分が欲を持てば持つほど、その欲は裏切られると気づいて、今回の作品はただ自分が面白く書けるものを探して一生懸命書いてみよう、そして初心に戻って放送されるだけでいいんだと思うようにしました。終わってみると、どれも楽しい作品、幸せな作品で、もちろん現場の雰囲気はとても良かったですが、作品のためにこんなに泣いたことはなかったと思います。もとは編成が去年の9月の予定でしたが、監督もつかず、俳優もつかずで1年も延期になったんですよ」


これは事前制作ではなかったんですか?
最初から事前製作の予定ではなく、編成がどんどん遅れて事前製作になったんです。作家がデッドラインを決めずに文を書くは大変なことじゃないですか。一般的に5~6話の放送で視聴者の反応も見ながら、俳優たちの演技も見ながら「あ、こういう時にケミが生きるんだ」と学びながら台本を直していくが、事前製作ではそうもできないので終始、自分の感覚を信じて書かなければならず、そこが大変でした。ところが「100日の郎君様」は放送が延び、台本に時間と精魂を込められたんです。暗黒期を経て悩みも多かったけれど、時間も十分あって完成度が高くなったのです。


今回、一緒に仕事をした俳優が他の作品をするということで、ご飯車を贈っていました。一緒に仕事をした俳優や製作チームは作家にとってどのような関係ですか?
先ほど申し上げたように、この作品が発表されるまでには多くの紆余曲折がありました。それで、この作品を共にした俳優たちには感謝の気持ちがありました。それまでは、キャスティングされた、一緒にやったぐらいの気持ちでしたが、今回の作品は一緒にやるというそれだけで、とてもありがたかったです。視聴者は俳優の演技を評価をしましたが、私にはただありがたい存在でした。しかも今年は118年ぶりの40度に迫る猛暑の中、上着を羽織って韓服を着ないといけないでしょう。私は作業室に座っていても倒れそうなのに、みなさんは野外でどれだけ暑いかと、すごく心配しました。それで放送中に、ご飯車を送ったのですが、現場では俳優たちが仲が良くて、ご飯車とドリンク車を送りあうんです。私がドリンク車を送ろうと電話すると、他の俳優たちが既にたくさん出していて送る機会がないほどでした。そんなこともあって、今回一緒にした俳優たちがうまくいってほしいです。そして私の作品のプロデューサーだった方のデビュー作品なので、ご飯車を送ったんです。他はともかくとして、雰囲気では本当にまたこういう作品に出会えるかと思うほど和気あいあいとしていました。


「この状況が不便なのは私だけなのか?」や、「アスナム(무짝에도 잘데기 없는 정네)『何の役にも立たない男』の略)」などの流行語がとても多かったが、このようなフュージョン時代劇を企画した意図は何ですか?
実はこの演出は同僚作家たちと「本シリーズ」のスタディーをして発展させたものですが、諜報員が出てくるのは現実味がなさそうで時代劇バージョンに変えました。もし、私が歴史を専攻していて実在の人物なら本格的に書けたのですが、これは仮想の人物なので誕生からフュージョン時代劇になったんです。それにコミカルな設定を入れようと考えたのではなく「皇太子が記憶喪失で村に行ったこと」がコメディな状況なんです。やっているうちに、この素材とこの人物が置かれた状況はコミカルになるしかない、そんな流れ? その流れに埋もれて行ったんです。そして「私だけ不便なのか?」、「メワンオル(무새 성은 굴)『身なりの完成は顔』の略)で、「ファワンオル(션의 성은 굴)『ファッションの完成は顔』のパロディ)」、「この人生は滅びました」、「実話か」こういうのはインターネットでよく見る言葉で、「目障りだ」、「アスナム」は私が組み合わせて作った言葉なので、実際に書いている時はそんなに言葉をたくさん書いたとは思いませんでした。「今回は、ここでこういうのをたくさん書いて若いリスナーにアピールして流行語にしよう」と思ったわけではありません。ドラマ序盤でユルというキャラクターの気難しさを面白く見せようと書いていたら、流行の言葉をたくさん使うことになって、後半ではドラマが重くなるからそんな言葉遊びができなくなったんですよ。


作家として書くということは常に苦痛で難しい。しかもWriter's Blockのスランプを克服して再起した秘訣が何なのか気になり、作家としての良い習慣があるのかお聞きします。
今回スランプになった時、同じような悩みを抱える同僚作家の薦めで『The Artist's way』という本を読みました。その著者も創作者として計り知れないスランプを経験した後、創造力を取り戻せる癒しのために書いた本だそうですが、この本では「モーニング・ページ」というのを勧めているんですよ。「毎朝、目覚めたら何でもいいので3枚書け」というものです。ところが他のドラマ作家も同じようで、文章を書くのが一番楽しいことなのに、逆に文章を書くのが一番怖いものでしょう。文を書く事がとても幸せなことだとわかっていても、ハングルのテレビ番組を始める事は、屠殺場に連れて行かれる牛のような感じといえばいいか。それを始めるのに時間がかかりすぎたんです。今回の作品で始めた習慣ですが、まいにち日記を書きます。そして本や詩集、新聞記事の中で良い文があれば写して壁に貼っておくのですが、それがすごく慰めになって文を書くという恐怖を軽くしてくれるんです。文を写すことと日記を書くことに多くの理由があるからです。もちろん、そうする前も頭の中では数万のことを考えていましたが、ただ頭の中で浮かぶアイデアは出たり消えたりするけれど、書き残しておけば私の財産として残りますよ。ですから今回の作品でできた最も良い習慣は「日記を書くこと」と「書き写すこと」この2つです。これはみなさんにもお薦めしたいです。


作家としての価値のようなものはありますか?
私がドラマ作家になったのは、あるドラマを見た時にとても辛くて、悲しい時に慰めてくれるような感じがして、その余韻があったからでした。それは先輩作家たちが悟った何かをドラマを通して私に伝えてくれたのでしょう。それで私も自分が感じていることや慰めを私のドラマを見る視聴者に伝えたいし共有したいです。私は社会運動をして世の中を変えることはできませんが、私のドラマを見て人々の心がほんの少しでも慰められてほしい、そんな気持ち?

 


文を書くのも大変だが、毎朝、視聴率という成績表を受け入れて文を書くことはドラマ作家には天罰のような痛みでストレスだ。1話を書くたびに次の話を書けるようなものでも、しっかり掴むことを切に願った作家ノ・ジソルだからか、今回の作品の結果が良くなるように心をひとつにしてくれた大勢の人たちにとても感謝し、放送中にお祝いと激励、応援を送ってくれた多くの同僚作家に感謝したという。二度と文章を書けないような恐怖と不安の中で、一行一句を必死に書き下ろした「100日の郎君様」の成功は、彼女自身に、そして今スランプを経験しながら耐えている多くの人々にとって特別で大きな意味になると信じている。


文 キム・ミョンホ編集委員
写真 キム・ヨンチョル
撮影協力 ハプチョン SAINT IVES



ノ・ジソル作家
1995年 KBSバラエティ作家公募
    「挑戦ゴールデンベル」「セクションTV芸能通信」「真夜中のTV芸能」など
    多数のバラエティ番組に参加
2005年 韓国放送作家協会 教育院新人賞受賞「彼女が笑うじゃないか」

デビュー作
2006年 MBCベスト劇場 「できなかった女、した男」

執筆作品
2006年 MBCベスト劇場 「私の問題的彼女」
2006年 SBS秋夕特集劇 「カングンのママ」

2006年 KBSドラマスペシャル「彼女が笑ってる」
2010年 SBSミニシリーズ 「ドクターチャンプ」
2011年 SBSミニシリーズ 「女の香り」
2014年 SBSミニシリーズ 「僕にはとても愛しい彼女」
2018年 tvNミニシリーズ 「100日の郎君様」