泣いてる人に笑顔の花を咲かせたいと思い
彼は手品師になりました。
 
人々は彼を深く尊敬し、彼の手品を心から喜びました。
 
そんな彼にも人生の黄昏が訪れました。
人の死はさすがに彼もどうもできません。
 
「先生、出番です」
助手が手品師の手を引きます。
手品師が舞台に立ちました。
 
「これまでお見せしたことのない、
とっておきの手品を披露します」
そう言って、彼は羽織っていた黒いマントを空に投げました。
 
マントはひらひらと落ち、手品師にかかりました。
しかし、マントは人の輪郭をなすことなく
床に広がりました。
 
何かが動いています。
助手がマントを取ると、雪のように白い鳩が一羽。
 
鳩は羽ばたいて、青い空高く
飛んで行きました。