オシャレなクマさんのブログ

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その日、彼女からメールはなかった。
夜、一度は必ずメールがきたのに・・・
しばらく逢わないでいるっていうことは
きっと別れを意味しているのだと思う。
会社だって別々になるし、こんな風に
電話もメールも来ないってことは・・・

時間が過ぎていく。ただ事務的に
空白の時間だった。
彼女の不在はすべてを虚無的にしてしまう。
彼女からの連絡を期待して待っている
自分がいた。
待っている時間が苦痛だった。
でも彼女が不在の時間は少しずつ増えていった。

テレビも観る気がしないし、本を読む
集中力もなかった。漫然と携帯アプリの
ゲームに意識を集中させていた。
でないと心が崩れていきそうなきがした。

翌朝も電話がなかった。
いつもなら通勤の時間帯に
電話があるのに・・・
気分が悪くなって、
落ち込んでいく気持ちを鼓舞するように
すこしアクセルを踏み込んでいた。

「もう電話もメールもしないから」と
彼女は腹を立てていた。
「昨日だってメールしてこなかったでしょ?」
やっとかかってきた電話だった。

僕だってメールを待っていた。
彼女は連絡を取りたくないんだと思っていたから
メールするのも躊躇っていた。
でも彼女の声をきいて
虚無の時間が終わった。
僕は落ち込んでいた気持ちを隠すように
つとめて明るくはなした。

「いつまで逢わない方がいいの?」と彼女。
それは僕には決めれなかった。
彼女の子供に影響がある可能性があるのに
それでも逢おうって僕にはどうしても言えなかった。

最初から誰かに露呈する可能性があることは
お互いわかっているはずだった。
逢いたい気持ちと心配する気持ちの狭間で
彼女は独り彷徨っていた。
僕には逢いたい気持ちしかなかったけど
でも実際に彼女の子供が傷つく事を考えると
自分の望みも殺す必要があるんだと
今更悩んでしまう。
望みを殺すなら、完全に息の根を止めないと・・・
中途半端はただ苦悶しか残さない。
どうせなら虚無に支配された方がましだった。

彼女を失うことを考える。
僕はどうなってしまうのか
想像できなかった。
彼女がいない時間が怖かった。

でも僕は、その時は
じたばたしないで独り
耐えるしかない。
「しばらく逢わないとか
 自分で判断できないの?」と彼女は
     少しいらいらしていた。
最近、相方(妻)の様子がおかしかった。
明らかに家事を怠るようになった。
どこか挑発的ですらあった。
「別れたいって言わせようと
  している感じすらする」と僕。
相方の実家の父親は
交通事故や不動産問題や
もめ事にはかなり強かった。
みずからすすんでもめ事の渦中に
飛び込んでいく感じすらした。
実家はかなり裕福だから
お金そのものよりも
不倫の証拠を固められたら
腹の虫が収まるまで僕が困る事を
してくる気がした。

「私の家に怒鳴り込んできたりして」と彼女。
旦那さん、両親、なにより子供に迷惑はかけれなかった。

覚悟はしていた。
僕自身になにかされるのは・・・
でも彼女には迷惑をかけれない。
それでも逢うのをやめるなんて
発想は僕にはなかった。
だから彼女の口からそう言われたとき
驚きと戸惑いがあった。

今年も後少ししかなかった。
会社で一緒にいられるのも
1ケ月あまりしかなかった。
なのに今から逢えなくなるなんて・・・

「弱いよね、すべて一方的に受け身だから・・・
 自分からこうしようとか考えないの?」
「じゃぁ、逢わないでおく?」
「じゃぁじゃないでしょ? 自分の意志はないの?」

「しばらく逢わないでおこう」
僕はそう言っていた。
彼女はすこし驚いているみたいだった。
しばらくってどの位なのか
これは別れを意味するのか、
自分でもわからないままに・・・
「またその話」と彼女は腹を立てていた。
最近つい言ってしまう事がある。
「仕事が別々になったら
 逢えるのって月2回くらいになるね」
彼女はその事を考えたくもないみたいだった。
「実際になってみないとわからないから
 悩んだって一緒でしょ?」
たしかにそうだった。
でも実際にそうなる前に
その寂しさや辛さを共有して
覚悟したかった。

それと僕自身の気持ちの問題だった。
彼女に気持ちが変わらないよね、って
確認したかったのだと思う。

逢う頻度が減る事、
あと時間によって彼女の気持ちが
変わるんじゃないかって不安につきまとわれていた。
時間は裏切りや辛さを許す事だってある。
旦那さんの浮気も
旦那さんと一緒に歩んでいく事によって
浄化されて・・・情だってあるのだろうし・・・

彼女はやはり実際そうなってみないと
わからないからって言うのかもしれない。

でもそうなってからでは
遅い事だってある。
そうなるだろうってわかっていて
そっちに向かって歩んでいくとこが嫌だった。

今の気持ちをこのまま持ち続けて
本気で一緒になろうって想いがあるのなら
いま何かをしなくてはいけない気がした。
でないと気持ちが変わっていく事を
どこかで容認しているみたいで・・・

曖昧なまま、時間とともに
すべてが流されて、変わっていく・・・
彼女は今はそうなりたくないって
思っているのかもしれないけど、
状況の変化と時間の流れが
すべてを根本的にじわじわと、
でも確実に変えていく気がする。
彼女は今日は午後出勤だった。
僕は12時位の電車に乗って都内に打ち合わせに行く予定だった。
そんなわけで会社の最寄り駅で
彼女とランチすることにした。
電車に乗るからあっさりしたものがいいよ、
と彼女は気を遣ってくれる。
電車大丈夫? ちゃんと乗れる? 心配で胃が痛くなる、と彼女。
彼女が心配するのには訳があった。
僕はパニック障害で電車に乗ると
呼吸困難になったりして・・・
そういう事情を彼女は知っていたからだった。

「これから会社が別々になったら
 あまり逢えなくなるね」と僕。
「また~、大丈夫だよ、
  逢えるようにするから」と彼女。
でも月2回くらいになるかも。
想像する事もできなかった。
いままで毎日のように会社で逢っていたし
土日だって都合付けてお互い逢っていたから。

最近同じメニューを食べる事が多くなった。
お蕎麦と小丼のセット。
彼女との食事はいつだって楽しい。
ご飯がおいしく感じる。
こんな何気ないことが僕にとっては
何より幸せだった。

僕はSUICAの使い方も知らなくて
彼女に入金の仕方や領収証の出し方
履歴の印字のやり方まで教わった。
時代は進んでいた。
僕の知らない間に
世の中は随分便利になっていた。

「顔色わるい、大丈夫?」と彼女はなんだか楽しそう。
「なんで楽しそうなの?」と僕。
「私、一緒にいきたいけど・・・仕事あるし」
と彼女は鞄や身につけているものを探し出した。
これ持っていっていいから。
彼女の香水だった。
すごくうれしかった。
「飴もかってこようか?」と彼女。
「大丈夫だから」と僕。

駅の改札に向かう。
生きた心地がしない。
でも彼女の心配を大きくしたくはなかった。
振り返ると彼女はいなかった。
彼女らしい。寂しかったけど
それも彼女らしかった。
改札近くで後ろから歩いてくる人の
肘があたる。電車が怖くて
歩調がゆっくりになっていたのかもしれない。
またあたった。
車で煽られている感じだった。
道を譲ってよけると後ろの人も立ち止まった。
「全然気がつかないの」と彼女だった。
相変わらずお茶目全開だった。
改札入っても彼女は立ち止まって手を振ってくれた。
心配そうに見送る姿をみていると
頑張らないとって気持ちになった。

平日の昼だというのに電車は混んでいた。
入るなり車内の蒸し暑い空気が不快だった。
電車の扉がしまる前、発作的に
飛び出したい衝動にかられた。
でも彼女の心配を無駄にできないと
我慢してひとつだけ空いた席に座る。
扉が閉まり、動き出した途端、後悔した。
降りれば良かった・・・耐えれない・・・
咳き込んでしまう。パニックに襲われて
じっとしていることくらいしかできなかった。
少ししてから彼女からメールがきた。
「心配しすぎて眉毛が太くなった~」
添付してある写真をみると
黒く塗った紙を眉にくっつけた写真だった。
相変わらずお茶目だった。
元気付けようとしてくれていた。

そのメールで落ち着いた。
さっきまでの不安が嘘のように
平静になる。
その後も、ちょうどその駅に
つくだろうって時間に
この駅は買い物によくいくよ
とかこの駅は学生時代の想い出が
たくさんある街だよってメールがきた。

うれしかった。
すごく心配してどうしたら
元気になるかって気にしてくれている。
その気持ちだけで僕は強くなれる。

いままで怖くて改札前を通ったり
駅のアナウンスをきいただけで
気持ち悪くなっていたのに・・・

帰りは快速にのっても大丈夫だった。
彼女のおかげだった。
普通なら何年も病院に通って
薬を飲み続けて直していく病気なのに・・・

ありがとう。
僕はいつだって彼女に助けられている。
彼女から幸せをもらってばかりいた。

僕は彼女と逢えない日々も
克服できるのかもしれない。
彼女の想いがあれば僕はなんだって
乗り越えていける気がした。

今月は彼女と逢えない週末が多くなりそうだった。
彼女の子供の予定で土日は家族で出かける予定が
入っている、そう彼女は言った。

会社は多分今月か1月中旬には閉じてしまう。
僕が引き継ぐにはリスクが大きすぎた。
でも可能性はないわけではなかったが・・・

今年、彼女と逢えるのはあと1回か2回だと思う。
来年はずっと逢える日が少なくなる。
平日は仕事で逢えないし、週末だって
彼女は独り出かける理由がなくなってしまうから
家族に言い訳ができなくなってしまう。

平日の夜、久しぶりに彼女と食事にいった。
少し会社を早めにでて評判の焼肉屋さんへ行く。
彼女がネットで見つけてくれたお店だった。
「このタン塩すごくおいしい」
 と彼女はすごく美味しそうに食べた。
これから先のことを考えると不安ばかり大きくなった。
彼女と旦那さんの話になってしまう。
最近、どうしてもそうなってしまって・・・
「私と旦那さんの関係はもう終わってるから・・・
 子供を育てなくてはいけないから一緒にいるだけ」
でも旦那さんは彼女との関係を修復しようとしていた。
「いろいろ優しくされたりするのがつらい」
そう彼女はいった。
気持ちなんてわからないから・・・
彼女の口癖だった。
確かに気持ちは気持ちのまま流されたら
とりとめもなくコロコロ変わる。
彼女の側には彼女の事を想っている人がもう一人いる。
その人とは毎日一緒に過ごしていて
毎日優しくしてくれる・・・気持ちなんてわからない。
彼女だって今は気持ちは冷めたのかもしれないけど
根気強く優しくされたら・・・

「じゃあ、そうなれっていうの?
 あんまりそう言われるとそうなっちゃう気がするから・・・」

焼肉屋さんをでて二人で寄り添って過ごした。
彼女の優しさが伝わってきて
僕はその中で微睡んでいた。
ずっとこのままでいたかった。

帰りの車の中は
彼女の残り香が漂っていて
それを振り払うようにアクセルを踏んだ。
どんなにアクセルを踏んでも
月に近付くことはできなかった。