インターネット広告運用における平均CPAと限界CPA | インターネット広告代理店で働くデータサイエンティストのブログ
こんにちは。岡川です。(twitter @hokagawa)

 今回はインターネット広告を運用している方に向けて、経済学の考え方を、経済学部とは全く無縁の私ですが、書かせていただきます。

運用型のインターネット広告は、TVなどのマス広告と比べると、

「広告配信プラットホームがたくさんあり、かつ予算のポートフォリオが比較的自由に行える」

という特徴があります。

 今回の記事の考え方を身に着けることにより、より良い予算ポートフォリオを組むヒントになればと思います。


さて、次の問題に答えられるでしょうか?答えられない方はぜひこの記事を読んでいただければ幸いです。

<三択問題>

 100万円使ってCV100件でCPA1万円のDSP1

 100万円使ってCV50件でCPA2万円のDSP2

 追加100万円をどちらかのDSPに全て投資しなければいけないとすると適切な判断は次のどれでしょうか?

※CVとはコンバージョンのことで、資料請求など、ウェブ上での何らかの申込み数のことを指します。CPAとはコスト÷CVで、CV1件当たりのコストを指します。


<三択>

 1. DSP1に投資

 2. DSP2に投資

 3. この情報からはどちらとも言えない。



間違った解答例を示しますが、どこが間違いかわかるでしょうか?

<間違った解答例>

 答えは1

  DSP1に投資すべきである。
 
 理由
  CPAが良いから。仮に、追加100万円をDSP1に投資して、CVが一つも取れないとしても、CPAは2万円となり、最低でもDPS2と同レベルだから。


この考え方は、平均的なCPAしか見ていない為に起きるもので、ある投資をすでに行っている状態で、その時点で一番良い投資先に投資するという観点が抜けています。次のCV1件を取るために、最も効率の良いところに投資するという観点が抜けています。経済学的に言うと、平均費用のみを考えて限界費用の観点が抜けています。

<参考>
かんたんミクロ経済学(4)「平均費用と限界費用」


この問題の答えは3です。平均的な数値を見ているだけでは、明確な答えは分かりません。


例えば、以下のようなコストとCVの関係があったとしましょう。


極端な例ですが、DSP1は100万円までは、コストに比例して、CVが増加していますが、それ以降はCVは増加していません。DSP2は100万円までは、CVの伸びはDSP1の半分ですが、それ以降も同じ調子で伸びています。

この場合、100万円を共に使っている場合の次の100万円の投資は、DSP2に投資する事が正しい事が分かります。


このような判断になった理由をもう少し一般的に述べてみます。

大切な概念は「傾き」です。数学的に言うと、曲線の「微分」です。

100万円まではグラフの傾きはDSP1の方が大きいため、DSP1に投資すべきだし、同じ100万円を使った後は、傾きの大きいDSP2へ投資すべきだという事が分かります。

要するに、ある投資をしている段階で、最も傾きの大きなDSPへ投資すればよいということです。つまり、コストとCVのグラフの傾きが重要な指標になるわけです。

上記問題では、コストとCVの関係性が明記されていないので、明確にどちらのDSPに投資すべきかは分からないのです。


まとめを兼ねて、一般的に述べてみます。

一般的な考え方

以下の2つの手順で、投資判断をすることができます。

手順1

コストとCVの関係式を作ります。

※ここでは、回帰分析などを利用して、コストとCVの間に、線形や非線形など、定性的に納得のいくモデル、又は定量的に最も適合度の高いモデルなどを選びます。

手順2

 CVをコストで微分します。この時、微分すると曲線の接線が出ますから、これがあるコストの場合の傾きに対応します。

 この値の逆数を取ることにより、あるコストでのCPA(dCPAと表記)、つまり、あるコストでの、次のCV1件を取るために必要なコスト(この記事では限界CPAと命名)が分かります。

 「限界CPAが一番小さいDSPに投資すればよい」わけです。

数式で書くと以下のようになります。



次に、イメージしやすいように具体的に述べてみます。

具体的な例

まず、手順1です。

CVとコストの関係式を作ります。

コストがゼロの場合は、CVはゼロですから、原点を通る回帰分析が好ましいと考えられます。さらに、コストに対してCVの増加量は減るはずですから、それを記述するために曲線的な回帰分析モデルが良いと推測されます。

この両方を満たすものとして、例えば、累乗回帰が上げられます(あくまで例ですので、納得いけば、何でも構いません)。

図示すると以下のような感じです。


この曲線のA、Bのような定数をデータから推測することは容易にできます。


次に手順2です。

推測ができたら、曲線を微分して、限界CPAが計算できます。


この限界CPAを全DSP(ひいては全広告配信メディア)で求めて、最も安い媒体に予算を投下すればよいわけです。


おわりに

 平均的なCPAだけで投資判断をしている広告主の方や代理店の方は、今後、以上のような考え方を取り入れていただければよいのではないかと個人的には思っています。

 この考え方を取り入れて予算ポートフォリオするのですが、初めの100万円はここに投資、次の100万円はここに投資、次の100万円はここに投資、などと考えていくと、配信プラットホームが10個も20個もあると場合にかなり面倒で、ミスが起きます。

 私は、社内でPython(プログラミング言語)で予算ポートフォリオツールを作って活用しています。インターネット広告運用データは良い性質(ふにゃふにゃしていない性質)を持っていますので、大域的な最適解を探すことはしなくてよい場合が多い印象です。そのため、アルゴリズムは簡単ですから、プログラムコードも簡単に作れると思います。

 インターネット広告の現場で働く広告主の方や代理店の方で、まだ平均CPAで投資判断している場合は、是非、限界CPAの観点を用いたより良い投資判断にチャレンジしてみてください。


以上

終わり