サーモン、蜘蛛、エンジニア、そしてデータアナリスト | インターネット広告代理店で働くデータサイエンティストのブログ

皆さんこんにちは、全てサーモンを例に語ってしまえばいいやと考えている安井です。

僕らは普段広告代理店にいるデータアナリスト(サイエンティスト)として働いているわけなんですが、今日はそれより一つ上の枠組みの日本にいるデータアナリストという視点からお話をしようかと思います。

先にまとめておくとですね、
1. データアナリストとして働くのであれば長期的な視野が必要不可欠。
2. データが無くても数学モデルを考えることによって仮説を導き出すことが出来る。

といった感じの内容です。



さて、2013年の1月僕はまだノルウェーにあるビジネススクールNHHにて大学院生をやっており、サーモンの価格の周期性について研究していました。

その当時僕はサーモンの価格はCob-Webモデル(直訳すれば蜘蛛の巣モデル)というちょっと特殊な需要供給モデルで説明が可能になると考えており、それをデータ分析で実証しようとしていました。

サーモンの例でちょっと考えてみましょう。

ある年においてサーモンの価格が上昇し、養殖業者の利益率が高まったとします。

養殖業者は自分の生簀に常に魚を入れておきたいと考えるので、出荷と同時若しくはその直前に次の生産量を決定します。

この時養殖業者は次に生簀に入れるサーモンが収穫される2年後の価格と、それまでにかかる育成費用を求めてそこから利益を計算し、それが最大になるような生産量を決定します。(ちなみにアカウントサイエンティスト入門にあったポートフォリオと同じロジックがここで使われていたりします)


この時養殖業者はどーにかして2年後に売れるサーモンの価格を予想しなくてはなりません。そして大体の場合において2年後の価格は今日の価格と同じだろうという予測を行ってそれを元に生産量を決定します。

つまり、今年の売却価格が高ければ、2年後の売却価格も高いと考え、なるべく多くのサーモンを養殖しようという事になるわけです。

(昔プレゼンで使ったスライドを転用してます。手抜きですみません。)

(市場での価格が高いので、2年後の利益も高いはず!だから稚魚の数を増やそう!の図)


(市場での価格が低いので、2年後の利益は引くいはず!だから稚魚の数を減らそう!の図)





さて、個人という単位で見た時にこの意思決定自体には特に問題はなさそうな気がします。

しかし、マクロな視線で見た時にはこの決断は大問題です。仮に現在の値段が高めだと考え、養殖業者が2年後も値段が高いと考えたとしましょう。

ここまでは先程と同じです。しかしすべての養殖業者が同じ決断をしたらどうなるでしょうか?2年後には生産量を増やした養殖業者が市場に大量のサーモンを持ち込み、競争原理によってサーモンのバーゲンセールが起こってしまいます。

(みんな生産量増やしちゃうの図)




そして増えた生産量が値段を下げ、下がった値段が今度は次の生産量を減少させます・・・。


(価格が下がったからみんな生産量を減少させるの図)




そして今度は減少した生産量が価格を押し上げ、それが生産量を増大させ・・・



最終的には生産と価格が高い低いを繰り返していってしまいます。





この様に「今年のサーモンの価格がきっと2年後も同じ」という想定と、「サーモンの生産には2年かかって途中から生産量を変えられない」という条件が組み合わさると上の様な現象が発生します。


この現象をグラフに書き起こすと下の様なものになります。




横軸が生産量で、縦軸が価格になっています。(傾き等は適当です)

青い線は経済学でいう供給曲線で、ある価格の時に養殖業者がどの位サーモンを生産したいか?を表しています。価格が上がると利益率も上がって行くのでより多くのサーモンを生産したくなるさまが右上に上がっていく線として表れています。

赤い線は需要曲線で、ある価格の時に市場がどの位サーモンを買ってくるか?を表しています。価格が高いとあまりサーモンは売れず、低いと多くの人が買ってくれるさまが表れています。

詳しく説明すると脱線してしまうので、詳細はちょっと割愛します。

このグラフで価格と生産量の動きが蜘蛛の巣のように見えるためにCob-Web、つまり蜘蛛の巣モデルと呼ばれています。




さて、この蜘蛛の巣モデル、実は労働市場の分析なんかにも使われており、専門職の労働市場での需要の周期性なんかを説明するのにつかわれます。詳細は上記リンクの論文を参照していただければと思います。

仮に労働市場全体でエンジニアが足りない状態にあるとすると、エンジニアの給料は市場原理の影響を受けて上昇してゆきます。

そして給料が他の職に対して相対的に高めになった時、多くの学生はエンジニアを目指して学部を選択。

しかし、多くのが学生が同じ選択をしてしまう為に卒業する頃にはエンジニアの供給が豊富になってしまいその給料は安くなってしまう。




さて、僕はこれと同じ枠組みがデータサイエンティストやデータアナリストにも当てはまるのではないかなと思っています。

現状データサイエンティストが足りないと様々なメディアで報じられその需要が焚き付けられています。

そして未来の労働市場における供給源である学生もまたそれに影響される可能性があります。もし現在の状況が学生の進路決定に影響を及ぼすのであれば、2・3年後には一定のレベルに達しているデータ分析人材の供給量が上昇してゆくことになります。

しかしながら需要が同時に上昇し続けるという保証はどこにもありません。すべての業種がデータ分析を必要とするわけではありませんし、今社会に出ているデータサイエンティスト達がこれといった成果を残せなかったり、失敗を繰り返すようなことをしてしまえば当然市場から見放されてしまうでしょう。

もし需要量が一定であるのであれば増えた供給量によって給料はサーモンとエンジニアの例と同じ状況を辿る事になります。


データ分析自体を盛り上げるといった発想では、良い分析を行いその効果を世に広めることによってデータ分析の需要を促進させて数年後のデータ分析需要も確保したいと考えていますが、その結果は保証出来る限りではありません。例えばこのブログはこの一環に当たりますし、日々の業務でクヲリティの高い事をするという事もデータ分析自体を盛り上げる事に繋がります。

一方でデータアナリスト個人として生き残って行く事を考えた時には将来的にやってくる供給に対抗すべく長期的な戦略を持つ必要があるなという発想もあります。




さて、若干サーモンの話をしただけなんじゃないかという疑惑が生まれていますが、まとめましょうw

1. 個人としてはそんなに悪くない意思決定(2年後の価格は今日と一緒)が全体で見てみると悪手となりえる。
2. サーモンだけではなくてデータアナリストの市場においても起こりえる。
3. データアナリストは分析を盛り上げようという活動と個人としての長期的な戦略はセットで持てると良いですね。




最近また海外レポートを幾つか読んだので次回の僕の記事ではそのあたりを要約しようかと思います。