「金融リテラシー」が低い経済紙が「世界の潮流」だと主張する「消費増税と法人税引下げセット」 | いわき市民のブログ I am An Iwaki Citizen.

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「金融リテラシー」が低い経済紙が「世界の潮流」だと主張する「消費増税と法人税引下げセット」
http://blogos.com/article/83504/


近藤駿介2014年03月31日 23:59


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◆ 消費増税が遅れ気味でだったことで家計は甘やかされてきたのか?

「消費増税は、法人減税で失った財源を穴埋めする面があり『企業優遇が家計を圧迫する』との批判を招きがち。だが、企業が利益を上げやすくなれば、雇用や賃金、配当などを通じて家計にも恩恵が及ぶ」(日本経済新聞 「法人税 各国下げ競う」)

日本経済新聞が「法人税「企業優遇が家計圧迫を招く」という批判があるという表現をするのは、これまで消費増税が遅れ気味だったことで、「日本の家計は圧迫されていない」「(法人と比較して)甘やかされてきた」という考えを持っているからです。

では、日本の家計は、消費増税が遅れ気味だったことで甘やかされてきたのでしょうか。

OECDが発表している統計によると、1998年時点で10.2%であった日本の「家計貯蓄率(Household saving rates)」は、2014年には0.6%と、韓国(4.3%)はおろか、「ソブリン危機」に見舞われたスペイン(8.2%)、イタリア(3.6%)をもはるかに下回り、「Net saving」を発表している世界24ヶ国の中で22番目、つまり下から3番目という体たらくです。「家計貯蓄率」が日本を下回っているのは、デンマークとポーランドだけという状況で、「日本の貯蓄率は高い」というのは、完全に「過去の栄光」になってしまっています。

家計貯蓄率
家計貯蓄率


ところで、この「家計貯蓄率」というのは、「可処分所得」から「消費支出」を引いた「貯蓄」を、「可処分所得」で除したものです。数式で表すと、次のようになります

家計貯蓄=(可処分所得-消費支出)/可処分所得=1-(消費支出/可処分所得)

ここの「可処分所得」というのは「労働の対価として得た給与やボーナスなどの個人所得から、支払い義務のある税金や社会保険料などを差し引いた、残りの手取り収入のこと」(マネー辞典 m-Words)です。

つまり、「家計貯蓄率」が下がるということは、「消費支出」が増えているか、「可処分所得」が下がっているかのどちらか、あるいは両方ということになります。「可処分所得」が減らずに「消費支出」が増えているのであれば「需要不足」でデフレに陥ることはないはずし、その他の統計との整合性からしても、「家計貯蓄率」が低下した主な原因は、「可処分所得」の低下にあると言えます。

この「可処分所得」は、「所得-税金・社会保障費」ですから、「可処分所得」が低下するということは、「所得」自体が下がったか、「税金・社会保障費」が増加したか、はたまた両方の可能性があるわけです。

日本経済新聞は、「企業優遇が家計圧迫を招く」という表現で、暗に「家計は圧迫されて来なかった」と主張しています。しかし、「家計貯蓄率の低下」の原因は、「所得の低下」と「税金・社会保障費の増加」にあるわけですから、前回の消費増税後ずっと「家計が圧迫を受けて来た」ことは確かだと思われます。

前回消費税が3%から5%に引上げられた1997年当時の法人税率は37.5%と、現在の25.5%より12%も高い水準でした。したがって、円高等の逆風には晒され続けましたが、法人税率という面では「法人が圧迫を受けて来た」とは言い難い状況です。

◆「法人税引下げ」と「企業利益拡大」の間に直接的因果関係はない
「企業が利益を上げやすくなれば、雇用や賃金、配当などを通じて家計にも恩恵が及ぶ」(日本経済新聞)

このように、日本経済新聞は、平然と法人税減税が家計に恩恵を及ぼすかのような報道をしています。しかし、法人税は「利益(課税所得)」に対して課せられるわけですから、「法人税率引下げ」と「企業が利益を上げられる」ということには、直接的な因果関係はありません。

逆に、「雇用や賃金」は、「企業の利益」に直接影響を及ぼします。しかも、コストである「雇用や賃金」が増えれば、「企業の利益」が減るという、反比例の関係にあるのです。

「法人税率引下げ」によって、支払う税金が減ることで増えるのは「利益処分額」です。

そして、この「利益処分」の使い道は「配当金」「役員賞与」「内部留保」ですから、「法人税率引下げ」との直接的因果関係としては、「雇用や賃金」よりも「役員賞与、配当」の方がずっと強いのです。また、長年「貯蓄から投資へ」というスローガンが空しく叫ばれていることから明らかなように、一般個人はほとんど株式を保有していませんから、「配当などを通じて家計に及ぶ恩恵」は極めて限定的です。

会計の仕組上、「法人税率引下げ」と「雇用や賃金」の間には直接的因果関係がないことは明らかなのに、何故日本を代表する経済紙は「企業が利益を上げやすくなれば、雇用や賃金、配当などを通じて家計にも恩恵が及ぶ」と、見え透いた作り話をするのでしょうか。

【参考記事】 
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ことある毎に「金融リテラシーの向上」の必要性を主張する日本を代表する経済紙。その地位とブランドは、読者の「金融リテラシー」が少し向上しただけで揺らいでしまうほど危ういものなのかもしれません。