アンナチュラル がすごく面白くて好きです。

なんといっても脚本がいい


まず、なんといっても野木の脚本が良い。架空の組織であるUDIラボの説明と登場人物たちのキャラクターを異常に手際良く明かしていくオープニングから(出勤ボードの使い方!)、文字通りストーリーが二転三転し続けて視聴者は振り回されっぱなし。しかも、ご都合主義っぽい部分や無理やりな部分が見当たらない。何度も「おおっ、こうくるか!」「えーっ、ああ、そうかー!」と思わされて、ラストは「参りました!」という感じだった。

法医解剖医・三澄ミコト(石原)が勤務するUDIラボに持ち込まれたのは、突然死したサラリーマン・高野島渡(野村修一)の遺体。彼の両親が「虚血性心疾患(心不全)」という渡の死因に納得がいかず、UDIラボに究明を依頼したのだ。

ミコト、臨床検査技師の東海林夕子(市川実日子)、バイトの記録員・久部六郎(窪田正孝)の3人からなる三澄班が遺体の解剖に取り組むが、心臓には何の異常もなく、急性腎不全の症状が見つかる。毒物による死を疑うミコトたち。さらに高野島と交際が噂されていた取引先の女性、敷島由果(田中こなつ)が高野島の死の翌日に不自然死を遂げていたことが判明する。これは連続毒殺事件……?

高野島の部屋や会社を徹底的に調べ、「名前のない毒」を究明しようとするミコトたち。そこへ現れる高野島の恋人・馬場路子(山口紗弥加)。第一発見者であり、恋人の死にも淡々としている彼女は、毒物を扱う科学者でもあった。高野島の二股交際に腹を立てた路子が2人を毒殺したのではないか? 凡人である彼らの同僚と久部、そして視聴者たちは浮足立つ。しかし、野木の脚本はスマートだ。

「馬場さんって人、おかしいですよ。恋人が死んだのに淡々として」
「淡々とした人なんじゃない?」
「普通、あの部屋で寝られますか?」
「寝られる」

さらっと言うミコトがカッコいい。「普通」という偏見を持たず、フラットに人間と物事を見ることができる。多様性の肯定を体現しているようなキャラクターだ。しかし、それはそれ。毒殺の証拠を洗い出そうとするミコトたちだったが……。

「エチレングリコール……出ませんでした!」
「えっ!」

えっ! たっぷり疑惑を膨らませておいて、CM明けにあっさりチャラにするなんて! これこそアイデアを惜しげもなく投入してやるぞ、という作り手の姿勢の表れだ。『アンナチュラル』恐るべし、とあらためて感じたシーンだった。
 

これでもかとアイデア投入!


この後、高野島が中東から帰ってきたことがわかり、ミコトは高野島の死因がMERS(中東呼吸器症候群)だと判明する。国内初のMERS感染症での死亡が明らかになり、人々はパニックに陥る。検疫に行かず、自覚症状があっても会社を休まず、病院で健康診断をしてMERSウィルスを撒き散らした高野島の行動に日本中からバッシングが巻き起こり、高野島の両親はマスコミに追い回される羽目になる。ああ、マスコミってのは人々の代弁者なんだな、ということがよくわかるシーンだった。ここまで怒涛の展開である。

「我慢強い男になれと。そう言い聞かせて育てました」。高野島の両親は涙をこらえて自責の念に駆られる。風邪ぐらいで学校や会社を休むな。「どうしても休めない日に」というフレーズが風邪薬のキャッチコピーになる日本の体質を抉るシーンだった。

しかし、まだ話は終わらない。高野島と「濃密」なキスを交わしていた路子がMERSウィルスに一切接触していないことに疑問を持つ。高野島は中東からMERSウィルスを持ち帰ったのではなく、健康診断に行った大学病院で院内感染していた……! 大学病院では少なくない人数の患者が不審死を遂げていた。その中の遺体を解剖し、ついにMERSウィルスを検出するミコト。これで高野島の無実が証明された!

毒殺疑惑、MERSウィルス、パニックとバッシング、院内感染の隠蔽と、これでもかとアイデアを投入し、ストーリーを何度もひっくり返しながら一つのエピソードを作り上げた脚本の手腕にうなるしかない。一つのエピソードに複数のアイデアを投入していくのは隆盛を極める海外ドラマの特徴でもある。ドラマの中でも『BONES─骨は語る─』や『ウォーキング・デッド』に言及されており(「ウォーキングできないデーッド!」)、スタッフらが海外ドラマを意識していたことは明らかだ。野木もツイッターで「日本のドラマは見ない、という皆さんも、騙されたと思って第一話を見てみてください」と語っていた。
 

演出のテンポが抜群


キャストも素晴らしかった。石原さとみは『シン・ゴジラ』のカヨコとも『地味にスゴい!』の河野悦子とも違う、法医学医をナチュラルに演じてみせた。石原と井浦新、窪田正孝、市川実日子、松重豊のUDIラボチームのコンビネーションは絶妙だし、意味深な葬儀社員の竜星涼も怪しげで良い。2話以降はここにマスコミの記者の北村有起哉(団真! 第1話でも1シーンのみ登場)、大倉孝二と吉田ウーロン太の刑事コンビがレギュラーとして加わるというのだからゼイタクである。

キャスト陣によるダブルトーク(相手の言葉が終わるのを待たず、セリフを重ねる手法)も交えた早いテンポの会話がドラマのスピード感に一役も二役も買っているのは明らかだが、それ以上に印象に残ったのが塚原あゆ子監督によるメリハリの効いた演出だった。

まず、カット数が多い。同じ1時間ドラマに比べると、かなりカット数が多いのではないだろうか。そして1カットの尺が短い。出演者がセリフを言い終わるや否や、余韻を残さず、パッと次のカットに切り替わる。これは膨大な情報量を2時間強に圧縮した『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『この世界の片隅で』でも使われた手法だ。『アンナチュラル』がどこかカラッとした印象を残すのも、登場人物たちの言動に加えて、このスピード感を重視した演出手法が影響しているはずだ。

 

 

 

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