先週の寒さは5月であることを忘れさせた。
夏の気配を感じた矢先の事ゆえ、戸惑わずにはいられない。
日替わりでの10度差には困惑しきりである。


こんな時いったい何を着たらいいのだろうか?
既に衣替えを済ませ、セーター類は何ひとつ無い。
みな片付けてしまった。
もう少し出しておけばヨカッタと悔いが残るが、後の祭りだ。


そう言えば、この時期助かるのがクリーニング屋の衣替えセールだ。
通常では考えられない割引が受けられ、有り難い限りである。
ケチ根性を抑えきれない私は、ひたすらこのセールを待って
溜めに溜めた冬物衣服を、ここぞとばかりに洗ってもらう。
恥ずかしさより、得感重視である。


両手で抱えきれないほどの量を持ち、クリーニング屋を訪ねるのが恒例だ。
年に数回しか利用しない私ではあるが、この量の多さは印象的だろう。
代表的なセール時専門客である。
好感を持たれていない事だけは確かだ。


だいたい私は、出来上がっても直ぐには取りに行かない。
都合のよい日に出向くと言う始末だ。
嫌な客の典型的なパターンだと自覚する。
保管場所の妨げになっている事を承知の上で
「前金制だから迷惑はかからないのよ」。
などと自分勝手な解釈で我儘を振る舞う。
我ながら呆れる限りだ。


しかし、そんな私に戒めの時が来た。


あれは何年か前の事だ。


例のごとく例のように山程の冬物をクリーニングに出し、
約一月取りに行かないという無礼な時があった。
幾ら何でも、こんなに長期間とりに行かなかったのは初めてである。
言い訳になるがこれは故意にでは無い。
すかっかり忘れていたのだ。


財布の中の内袋を整理し、札を見つけて思い出した。
これには、いささか焦った。
しまった・・・で感じだ。
嫌な客なりにも、申し訳無さがよぎる。
取りに行くのも、今回ばかりは勇気が必要だ。
なんて言うか?言い訳を考え抜きながらの足取りは重い。



クリーニング屋は、自宅と職場の中間地点にあり、
通勤路から1本道を入った商店街に位置する。
食品店が立ち並ぶ中の一角で、老夫婦が営んでいた。
ハンガーを溜めると値引きサービスも受けられ、
利用しやすく年2回の衣替えセールは魅力満点である。


私は人の良さそうな老夫婦を思い浮かべながら、
意味の無い言い訳を脳裏に、1ヶ月の月日を詫びながら足を運んだ。


ところがだ。
そこには恐るべし事態が待っていたのだ。
こんなことがあっていいのだろうか?
まさに信じられない事態である。



なんと、なんと、なななんと・・・。
クリーニング屋が無かった。


はあ~~~~~~??????
クリーニング屋が無い?????


そうなのだ。
クリーニング屋が無くなっているのだ。
ここにあったクリーニング屋はどこへ行ったのだ?
私の場所違いか?
いや確かにここだ。ここのはずだ。
絶対に間違いない。


だいたい何だ?この空き地は?
引越したのか?
クリーニング屋はどこへ行っちゃったのだ?
私の服はどこへ行ったのだ?


全くもって事態が理解出来ない。
いったい何が合ったと言うのだ?
こんな時どこへ問い合わせたらいいのだ?


私は困惑しながらも、とりあえず隣の八百屋に尋ねてみた。
すると想像を絶する答えが返ってきた。


なんと、なんと、なななんと・・・・。
「燃えちゃったわよ」



はあ~~~~~~~??????
燃えちゃった????????
燃えちゃったってどう言う事?????


「えっ?燃えちゃったってどう言う事ですか?」
「火事よ。火事。火事があったのよ!」


かかかかかか火事??????
火事で燃えた??????


こんな事があっていいのだろうか?
クリーニング屋が火事だなんて・・・・
呆然とはこのことだ。
言葉が何も浮かばなかった。



八百屋さんから聞いた連絡先に電話を入れてみると
傷心しきった声が返ってきた。
とても言い辛い雰囲気が醸し出されていたが、
私とて服の行方が気になる。
なんたって冬服一式である。
ここは勇気を持って尋ねてみた。



すると原因不明の火事であったこと。
密集した商店街ゆえ火災保険が適用させない事。
全てが自己負担で補わなければ、ならない事。
ご主人が火事で怪我をなさった事。
いろんな話を聞かされた。


結果としては、燃えた物、燃え残った物、無事な物の3種がある。
しかし現時点で私のものが、どれにあたいするかは分からないと言う。
私は連絡先を教え、後日返事を貰う約束を交わした。
ただ無事を願うのみだった。
しかしそれは奇跡に近いものがある。


それにしても冬服一式である。
私は次の冬をどうやって過ごすのだ?
このままでは冬は越せない。
越す為の服が何ひとつ無いのだから。
全て買ったら幾らかかるのだろう?
冬服セールだって、とっくに終わっている。


やばい。
このままだと今度の冬は冬眠するしか無い。
もしくは宝くじが当たるかだ。


冬眠か?宝くじか?
二つに一つだ。
あぁ~~~~~~こんなことがあっていいのだろうか?


世の中、何が起きるか分からないと言うが、
まさにこの事だ。
まとめて出すのはもうやめよう。
家で洗える物は、手洗いしよう。そう固く決心した。



ところがである。
気持ちを入れ替え、手洗いに強い洗濯機まで購入した私に
またしても落とし穴は用意されていた。
それは3週間前のことである。


なんと、なんと、ななななんと・・・・・・
洗濯機が洗濯中に故障した。


はあ~~~~?????
何だこの音は??????
昨年買ったばかりの洗濯機が、巨大なる異常音を立て
爆発するかの様に揺れた。


信じられない事態である。
故障は1度目のすすぎの途中だ。


ここで壊れたとなると、この続きは私が手で洗うことになる。
だが、なんてったって衣替えの洗濯である。
量もあるが、丁寧さが要求される。


そりゃあ~~手洗い出来る物は手洗いするって誓ったけど・・・・
まさか本当に手で洗う事になるとは思わなかった。


この大量の冬物を、手で洗うかと思ったらゾッとする。
うちにはタライなど無いし、
洗面器で洗うしかないのだ。
脱水はどうやったらいいのだ?
手はちぎれそうだ。
もう力も入ら無い。
とんでもない手洗いだ。


我家のベランダは、絞りきれない洗濯物でびっちょりである。
これで型崩れしない方がおかしい。
来年の冬服は型崩れのオンパレードだ。


ところがだ。
それどころでは無かった。
型崩れがどうのと言う場合ではない。
干しあがってみて驚いた。


なんと、なんと、ななななんと・・・・。
服が千切れていた。


それも1枚や2枚ではない。



何だこの穴は???????
干す時には気が付かなかったぞ~!!
いや、干す時は疲れすぎていたのかもしれない・・・・。


そうなのだ。
どうやら、洗濯機の故障時に服を傷めたようなのだ。
千切れた服は引き裂かれたかのごとく、ゲンコツより大きな穴が開き、
2度と袖を通せる常態ではなくなっていた。


かくして私は、またしても冬服を失ったのである。


洗濯機はその後勿論修理を依頼した。
しかし、修理員が実際に洗濯機を動かしてみると
不思議な事に音がしない。
夫と2人で3度も試して駄目だったのに・・・・
音はどこへいったのだ?
洗濯機の異常音は嘘の様に消えていた。
引き裂かれた服の原因も不明だ。
結局「何かあったらまた」と修理の方は帰った。
こんな事があっていいのだろうか?


私は全くもって腑に落ちない。
これは間違いなく私に対しての陰謀である。
クリーニングだろうが、洗濯機だろうが
まとめて洗うことは絶対ダメだと言っているに違いない。
なんとしても私の振る舞いを正す気なのだ。


よ~し、こうなったら闘いだ。
もう反省はやめだ。
来年だっておもいっきりまとめて洗ってやる。
・・・・って言っても来年の冬服が無い。



みなさん、衣替えには要注意です。



ところで、あれから何年たっただろう?
未だにクリーニング屋さんからは連絡がない。
もう時効だろうか?