今日は朝から嬉しい事があった。
夫の友人ご夫妻からバーベキューのお誘いを頂いたのだ。
ご夫妻は私にとっても貴重な友人である。
近々一緒にどうかと言う事だが、勿論即OK。
なんたって我家には用事が無い。
自慢じゃないが、ここ数年予定と言うものを意識した事が殆ど無い。
大歓迎のお誘いだ。返事をする以前に心が弾む。


あれは何年前の事だろうか?
初めて会ったのは、繁華街に位置する飛び切りオシャレなバーだった。
残業を終えたばかりの私は、夫と友人が飲んでいる席に招かれた。
急な誘いだったが、楽しさを予感し迷わず出向く。

友人の第一印象は一言で言えば“爽やか”である。
よく飲み、よく語り、よく笑う。
実に裏の無い、利害を生まない、正直な方だと認識した。

初対面を思わせないその雰囲気には、時間を忘れさせる魅力もあった。
私は既に出来上がっている2人に対し、負けてはならぬとピッチを上げ
いつの間にか3人のテンションは一体化していた。


いったい何時まで飲んだだろう?
本当に楽しいひとときだった。

友人と別れた私達はタクシーに乗る為、駅まで歩き始めた。

ところがだ。
その道筋で事件は起きた。
イヤ事件は起きていたのだ。
私達は凄い場面に遭遇してしまったのである。
今でも身震いする様な事件だ。
まさに信じられない状況だった。


なんと、なんと、なななんと・・・
目の当たりにしたのは“宝石泥棒の逮捕劇”。


あれはまるで“太陽にほえろ”そのものだった。

私達は駅までの道を、いい気持ちで歩いていた。
すると、道の反対側に勢いよく1台の車が停車した。
キキキッキ~~~~!!!キューブレーキである。
二階に宝石店を持つ、ビルの前に横付けされた。
その音に驚いた私達は、思わずその状況に釘付けになる。


無線を持つ2人の男が入り口の壁に張り付いた。
何?何?何?
自然に足が止まる。

すると再び急ブレーキの音。
横付けの車は3台となった。
どうやら刑事のようだ。
男達のバタバタ度は一気に加速した。

ビルの周りから道に至るまで、目を光らせている。

その時だ。
ビルの中から一人の男が全速力で逃げて来た。
刑事の不意を付いての行動だ。


ところがである。
恐ろしいことに・・・

なんと、なんと、ななななんと・・・・
男は、私達の目の前にある看板の裏にしゃがみこんだ。


隠れているつもりだろうが、私達には丸見えである。
この時の動揺は忘れられない。
今でも鮮明に覚えている。
何度も何度も唾を呑み冷静を装ったが無理である。
心臓の音が、外に漏れているのでは無いかと不安だった。


そして次の瞬間、道向こうで大きな動きがあった。
刑事が店に突入したのだ。
ダダダダダダ~~~~~と言う走る音だけが静まった深夜に騙した。
すると1人の男が店の窓から屋根を伝わり逃げだした。
逃げる犯人と追う刑事
これぞまさに“太陽にほえろ”である。


でも待った。
もう一人ここにいる?


えらい事になってきた。
知らせたいが ・・・どうしたものかと身動きが出来ない。
何故か、私達も別看板の後に屈みこむ。


「ねえ~どうする?」
「どうするったって・・・・」
「だってこのままでいいの?」
「よかぁ~ないけど・・・・・じゃあ~捕まえるか?!」
「何言ってるのよ。無理に決まってるじゃん!」


内緒話だ。
イヤ内緒話のつもりだった。
しかし全然内緒話じゃなかったのだ。
私達の会話は酔っ払い特有の大音量。
情けない事に、音量調整機能は既に破壊し使用不可である。
よって内緒話もあったもんじゃない。


ましてや、自分達の声の大きさに気が付くわけがない。
気付いたのは犯人だけだ。
そうなのだ。
私達の声は犯人に届いていた。
強く鋭い眼差しでこちらを睨んでいる。


目をそらしたいが、そらす事が出来ない。
これは非常事態である。
凶器は持って否そうだったが
死の覚悟が余儀なくされた。


通りの向こうでは逮捕者が出た。
犯人はあからさまに動揺し始める。
私達は逃げ場が無い。


その時だ。
刑事が私達の前の犯人を発見した。
犯人は全力疾走で姿を消す。
救われた。

私達は無言で足早に駅に向かう。
午前3時半の出来事だった。

翌朝の新聞に興味が沸いたが、1日おいての掲載だ。
地域欄に大きく宝石泥棒、3名のうち2名逮捕!とある。

なぬ?
3名のうち2名?
って事は1名まだか?


刑事ドラマ筋書きによれば、目撃者は決まって狙われる。
私達は身の縮まる思いだった。
イヤ正しくは私のみが縮まった。
夫は何事もなかったかの様な振る舞いだ。
心臓に毛が生えていると確信する。



そして事件数日後、飲みに出た夫から電話があった。
こんな事はめったに無い。
飲みに行っても一人で帰えるし、
寝ている私を起こす様な事は決してない。
しかしこの日ばかりは違っていたのだ。


時刻は午前1時、迎えに来て欲しいと言う。
本来なら、冗談じゃない!と言うところなのだが・・・
なんたって目撃者だ。
私は寝起き姿のまま、カーデガンを引っ掛け、慌てて車を走らせた。

ところがだ。
想像もしない事態が待っていたのである。


なんと、なんと、なななんと・・・・
夫は一人では無かった。


そうなのだ。
友人が一緒にいる。
夫は格好よく言った。
「ついでに送ってあげて」と。


はああ~~~~????
ついでったて。
私はパジャマだよ。
車から降りる事は許されない。
挨拶もまともに出来ないではないか。
それならそうと、初めから言ってくれればいいのに・・・


しかし、時既に遅しである。
着替えなかった私が悪い。
こうして配慮の無い夫のせいで2度目の再会はパジャマとなった。


友人宅は二十分位のそう遠くない場所の様だが
初めての通る夜道のドキドキ感は拭えなかった。


私の車はハードトップだがクーペに近く後ろの席がとても狭い。
助手席の夫は目一杯席を前にずらし、友人にスペースを提供した。
なかなかの優しい振る舞いだ。

深夜の道は空いていた。
到着したのは、整えられた庭を持つ大きな家だ。
友人は感謝を述べながらも帰り道を案内し始める。


すると、夫が言った。
「俺がいるから大丈夫だよ」と。


納得し説明を止めた友人に、手を振り車は走らせると
信じられない事が待っていた。
あってはならない事だ。
これは大きな裏切りだった。


なんと、なんと、なななんと・・・
夫は言った。
「そこを右」と。
そして次の瞬間グッウォ~~~~グググググウォウ~~~!!!


はああ~~~~???
何?何?何?
グッウォ~って何?

そうなのだ。夫は「そこを右」と言った瞬間、爆睡に入った。


信じられない。
絶対信じられない。
決してあってはならない事だ。

そこを右って!それからどうしろって言うのだ。
だいだい私はパジャマだ。時刻も2時を回っている。

方角さえも定かでない。
いったいここはどこ?の状態だ。
必死で起こしたが全く動かない。
実に話にならない。


こうなったら感だけが頼りだと苦闘した。
迷う事30分、ようやく見慣れた道に出た。
ほっとした瞬間だった。


振り向くと、夫は爆睡しつつも所狭しと丸まっている。
膝を抱え崩れたアルマジロ状態だ。
そうなのだ。
友人にスペースを譲る為、夫の座席は一番前まで詰められていた。
実に狭い。なんとも心地悪そうである。


そこで再び起こしてみた。


「ねえ、椅子、後に下げたら?」
勿論聞こえているはずもない。

ところがだ。

なんと、なんと、なななんと・・・・
夫は言った。
「う、う、うん。。。そうだな」

はああ~~~~????
何?何?何?
起きてるの?
冗談じゃない!あれほど道で迷ったのに助けてもくれないで、
何で今返事すんのよ!!!
何で起きんのよ~~!!
やってらんないわよ。
もう溜息も出なかった。


しかし予知せぬ事態はまだ続いたのだ。
私の言葉に反応した夫は、座席をずらそうと
おもむろにレバーを引いた。

すると今度は・・・・

なんと、なんと、なななんと・・・・
一瞬にしてひっくり返った。

はあ~~~~????
何やってるの?
何ひっくりかえってるの?

そうなのだ。夫は間違って“座席倒しのレバー”を引いた。
かろうじて戻った意識での作業は、泥酔状況を物語る。
力が入っていない状態で、急に椅子を倒せば誰でも倒れる。
その姿はまるでゴキブリがひっくり返ったかの様だ。


お分かり頂けるだろうか?
まずは、狭いスペースで膝を抱き、縮こまった格好を思い浮かべて頂きたい。
夫はその状態のまま、一気に後に倒れたのだ。
その姿は赤ちゃんのオムツ交換時の格好と言うべきか
裏返ったゴキと言うべきか・・・

まさに「あっへぇ~~~!!!」って感じだ。
信じられない。
威厳も減ったくりもまるで無い!
実にお馬鹿丸出しである。


ましてや、その状態で再び寝息を立てた。

やはり只者ではない。


ともあれ、その後そんな友人宅へ、何度お邪魔させて頂いた事か?
今では目を閉じても行き来が出来る。

控えめで従順な奥様と、明るいお子様達。
賢く暖かいおじいちゃまご夫妻。
伺う度、みな快く歓迎して下さる。
実に感謝だ。
本当に有り難い事だと謝意を深める。


あ~~バーベキュー、楽しみだなあ~~。
かけがえの無い友人家族と出会えたこの喜びを、今改めて幸せに思う。