「人を喰らう、空より青い光で動くなんざ、実に忌々しい塊だねえ。果たして完成するまで、どれだけの血を吸ったんだか」
眼下に横たわる赤茶けた敵意を見て、技術者風の痩せた男は呟く。彼の吐く季節外れの白い息は、湿っぽく色のない夜気に溶け込んだ。
「人の進化と生存に、多少の犠牲が出る事は必要悪よ。問題は、作った側の恐ろしいまでの無邪気さと、使う側の子供じみた悪意じゃない?」
男の傍らに寄り添うのは、些かこの場には不釣り合いな女性。辛辣な内容の言葉とは裏腹に、その眼は深く澄んだ湖面を湛えていた。
「そりゃ狂気じみてる…が、現実を見ない下らん偽善より遥かに美味しいねえ。そして人はこうして過ちを繰り返すんだねえ。優秀な歴史の語り部が居たとしても、痛みを知らない好奇心が病原体の様に涌いてしまうもんさ」
男は徐に古いコリブリを取り出し、悠然とショートピースを吹かし始めた。馴染む煙を目を細めて味わい、鉄骨の隙間から忍び込む、朱く濁りきった夜空を睨んだ。
「わたしはこの子が好きよ。その目的も、存在する意味も純粋に同じだもの。使う側は効率的な人殺しと脅迫的な抑止力を望む。人殺しをする為に作られたこの子とわたしに」
彼女は夜風に長い髪を遊ばせながら、赤茶けた敵意を慈しむ様な眼で眺める。複雑な機械の集積化した“顔”に表情は無い。しかし、大多数の人間が望みはしない再び動き出す事を夢見ている様に、時折錯覚させる何かが此には有るようだった。
「何かになれなかった者同士ってやつかい?長く泥水啜った記憶があるから、まあ解らなくも無いがねえ。お嬢さんと此とが本当の意味で動く時が有るんなら、俺はその時に即死を所望するよ。酷い痛みと共に、緩やかに蝕まれるのは嫌だからねえ。」
響く二人の笑い声。
立ち上っては消える白い息と紫煙は、来る筈の春を拒んでいるかの様だった。


