もうすぐ、焼き鳥屋の親父の一周忌をむかえる。

今から3年前に初めて立ち寄った、古くて小汚い焼き鳥屋。

店の中は８人ばかりが座れるカウンターと4人掛けのテーブルが二つほど置かれた、こじんまりとしたレトロな焼き鳥屋。まさに、昭和の時代がそのまま残っていた。

その店の奥で、腰を曲げて焼き鳥を焼く煙の中に親父はいた。

その店は、客が席についても、なかなか注文を取ってくれない。親父一人でやっているので、焼き鳥を焼くのが一段落するまで黙って待つ。

焼くのが一段落すると

『すまないね。はい、お待たせ』

と言って飲み物が出てくる。

それから紙に印刷してある焼き鳥の種類に本数を記入して親父に渡す。

それからまた、しばらく焼き鳥が焼けるのを酒を飲みながら待つ。

それを客の数ほど繰り返す。

せっかちなヤツには向かない店だ。

だが、うまい‼️

なんで、こんなにうまいんだろう。

親父が焼くのをひたすら眺めているが、何のへんてつもなく、ただ無造作に焼いているようにしか見えない。

ただ、長年同じ姿勢で焼き鳥を焼き続けたため腰がすっかり曲がっちまった。

きっと、その年季がその味を作り出したんだろうな。

三、四組で一杯になるその店は、街裏の細い通りにあるので、知ってる客しか来ないが、早い時間は店を覗いては、いっぱいの客に入るのを諦める客が多い。そうやって毎日、ひたすら焼き鳥を焼く親父だが、客が途切れるとポツポツと話し出す。

『若かった頃の話』

『この街の話』

『奥さんの話』

『自慢の一人息子の話』

『よく行くスナックの話』

そして、一番好きな

『女の話』‥。

そんなある日、俺が写真の話をした時だ。

親父のメガネの奥の瞳が『キラリ』と光った。

『あんた、写真撮んの？』

そう、にこやかに話し出した親父は、意外にも、二科展や日本カメラ、朝日カメラなどで何度も受賞している『ツワモノ』だったのだ。

その日は客が引けたあと、俺たちは遅くまで二人で写真談話に花を咲かせた。

『今度、写真見せるから』

そう、嬉しそうに言った親父。

そして、それが親父の最後の笑顔となった。

1週間もしないうちに、悲しい噂を耳にした。

『焼き鳥屋の親父が亡くなった‥』

驚いて仕事帰りに店に立ち寄った。

『都合のため、しばらく休みます』

の貼り紙。

あれから一年。

今はもう無機質な倉庫が、ひっそりとたたずむだけの親父の焼き鳥屋跡。

あばよ、親父❣️

うまかったぜ。