こんにちは!
もうずいぶん前のことです。
隣家との間の軒下から
赤ちゃんの泣き声が聴こえます。
声は風に乗って流れます。
どこから聞こえてくるんだろう?と
確かめるために軒下に近いキッチンの
シンクに乗り出すようにして
窓に耳を傾けました。
それが軒下はすぐそばなのに
遠くから聴こえるような声なんです。
そして窓を開けて軒下に顔を出すように
近付いて良く聴こうとしても
同じように遠くから聴こえるんです。
変だとは思うのですが
私が知らないだけでこんなことも
普通のことかなと思いました。
今はお隣には赤ちゃんがいません。
お孫さんはもうすぐ小学生だし
その下の子も幼稚園児です。
裏隣の井上さんにも聞いてみました。
「赤ちゃんの
泣き声さぁ
聴こえない?」
井上さんの60才代の奥さんが
かなり驚いて
「シャーマンにも聴こえるの?」
「?…だって泣いてるじゃん?」
よく猫のサカリの鳴き声が
赤ん坊の泣き声と似ていると
いう人もいますが猫好きからすると
全然似ていると思えません!
まして井上さんが赤ん坊だというなら
赤ん坊の泣き声に間違いありません。
「この辺に赤ん坊いる?」
井上さんはご近所に詳しいです。
「佐藤さんの娘さんが
出産で帰って来ているわよ。
産まれたんじゃない?」
佐藤さんは3軒斜め先です。
「ああそうなんだぁ。
声って意外に流れるからね。」
声の聴こえる方向が全く違うけど
まぁいいかと思いました。
ところが日々泣き声が
酷くなっていくのです。
火のついたようにヒィヒィ泣いてます。
いつまでも泣かせておくのは
どうしてでしょう?
佐藤さんのお宅にはご両親もいます。
けっこうな音量でテレビを見ていても
ほんの少しの隙間から聴こえます。
CMなどで音が途切れる一瞬に
おぎゃぁーうぎゃぁーと聴こえます。
聴こえれば気になります。
軒下に近付いて耳をそばだてます。
やはり近付いた分遠ざかります。
なにこれ?
いくらなんでも変じゃない?
なるべく窓から耳を出し待ってみました。
ピタッと……
ん?
泣き止んだのかな?
耳をすましても何も聴こえません。
全身で軒下の様子を伺います。
その時に突然テレビの音量が大きくなり
ヒィと驚きましたがテレビ音と
わかりホッと緊張が緩みましたので
慌ててテレビの前に戻ろうと
向きをかえた途端…
うんぎゃー!
右耳の裏側から聞こえました。
部屋の中です。
下の方ではありません。
耳の高さです。
振り返れるわけがありません。
想像している通りのモノが
そこにいたらと考えただけで
足が動きません。
どのくらいその場に
固まっていたでしょう?
一歩も動けないどころか
まばたきも
息もできません。
キッチンのシンクと
向かい合う位置に玄関があります。
ーとりあえず……一歩ー
一歩が出れば歩けるはずです。
音をたてないように
そうっとそうっと玄関に向かい
素早く外に出ると
裏隣の家に駆け込みました。
私「い、今、
赤ちゃん泣いてたの
聞こえた?」
井上「······うん。
ずいぶんと泣いていたね。」
「えっ、本当に聞こえた?」
えー?
じゃあやっぱり佐藤さんの子?
いやいやそんなはずない!
じゃなんで井上さんに聴こえるの?
なにがなんだか頭はぐちゃぐちゃです。
でもこれだけは間違いない……
「あれは
生きている赤ん坊
じゃないよ!!」
長くなってしまったので
次回に続きます。
「千祓の祈願 百九十三回」
とほかみ えみため
はらいたまえ きよめたまえ
御堂の鐘を新しくするために寄付を集めて
いましたが、幼子を連れた未亡人に寄付を
頼むと未亡人は怒って言いました。
「そんなお金はありませんよ。
差し上げられる財産はこの子だけですよ。」
すると神さまは幼子を持ち上げ煮えたぎる
真鍮の中に放りいれ「寄付頂いた!」と
仰られたそうです。
思ってもいないことを口に出したらいけませんよ!





