【第134話あらすじ】「なつよ、天陽くんにさよならを(134)」 病院を抜け出してきた天陽(吉沢亮)は、アトリエに籠もり、徹夜で描き続けて一枚の絵を完成させる。天陽は、一晩中寄り添っていた靖枝(大原櫻子)を起こし、絵が出来たことを伝えると、病院に戻る前に畑を見てくると言い残して、アトリエを後にする。夏が終わる頃、遅めの夏休みをとったなつ(広瀬すず)は娘の優を連れて十勝にやってきた。久しぶりの里帰りに富士子(松嶋菜々子)は温かく迎えてくれるが…。 (Yahoo!テレビより引用) |
昭和48年(1973年)――夏の終わり。山田天陽は馬の絵を描きあげました。
妻の靖枝は、じっと見入っています。
それからこう言うのでした。
「あ! 大変、病院に戻らなくちゃ!」
しかし天陽は、畑を見に行くと告げるのです。もうすぐ収穫だから、見たいのだと。靖枝がついて行くと言うのも止めます。
もうすぐ親父が搾乳に来る。ちょっと見るだけだ。
お袋と子供達を頼むって。
今だけなのか。これからずっとなのか。
天陽は畑に立ち、土に触れます。
「あったかいな……」
それからかぶっていた帽子を投げるのです。帽子が飛んでいって着地するとほぼ同時に、後ろ向きに倒れました。
それは、夏の終わりのことでした――。
ナレーションがそう語る中、まるで飛び立つ天陽の魂が、彼自身の肉体を見下ろすように、カメラは上へ。
東京で、なつは仕事中。
そこへ穏やかならぬ表情の陽平が来て、あの噴水へ誘い出します。
「なっちゃん……」
「どうかしたんですか?」
なつは、陽平まで辞めるのかと尋ねます。マコプロに行くのかって。
「なっちゃん、落ち着いて聞いてくれ」
「もう何を聞いても驚きませんから」
「天陽が、死んだんだ。今朝早く、亡くなったって」
「何を言っているんですか?」
「信じられないけど。嘘じゃないみたいだ……」
あまりに衝撃的な知らせです。
なつが冷たい、薄情な女。そういうバッシングが想像がつきますが、これもリアルな表現っちゃそうですよね。
・まだ天陽は若い。靖枝はじめ、周囲の人びとすら予想できなかったこと ・神っちやイッキュウさんら【魔王】の手下のせいで混乱中 ・作画監督として、それだけ仕事に真剣に取り組んでいる |
同じような経験のある人には、胸に刺さるのではないでしょうか。陽平にせよ、なつにせよ。涙がこぼれないところもリアリティを感じるんです。😢
なつはやっと、柴田牧場へと向かいます。まとまった夏休みが取れたのは、9月になってからのことでした。現在の東京なら9月でも暑いですが、当時の十勝でしたら、もう秋の気配が濃くなっています。昭和40年代でしたら、真夏でも涼しいのが北海道の気候ですから。
「あっ、牛さんだ!」
「そう、あれがママの家」
優にそう示すなつ。短い言葉ですが、これにどんな深い意味と感慨があるか。このドラマを最初から見ていれば、おわかりいただけることでしょう。
おじいちゃんとおばあちゃんのこと。ひいおじいちゃんのこと。
2歳の時以来だから、覚えていないか、となつは優を気遣います。これは、なつが特に冷たいってわけじゃないんだわ。SNSどころかインターネットもない。おまけに東京と北海道。そうであれば、このくらいの距離感でいいんでないかい。
「広いね!」
「広いでしょ」
「お馬さんもいるの?」
「いるよ。見に行こうか」
なつと優はそう語り合います。
「ただいま〜」
なつとまず顔を合わせるのは、砂良です。これは靖枝もそう。
地方のお母さんが、ちょっとオシャレしたエプロンを見につけている。そんな雰囲気が出ているんですよね。
とよ世代は割烹着だし、富士子世代とも違う。機能性とオシャレしたい気持ちをあわせた、そういう衣装なんです。スタイリストさん、今日も本気ですね
ついたのかーい! おかえり!」
富士子と剛男も、孫に大喜び。
「優ちゃん、お帰り!」
「おばあちゃん、ただいま!」
これにはなつも驚いています。
2歳なら覚えていないと思ったのに、ちゃんと記憶にあります。ばあちゃんのことを絶対忘れないって約束したと、富士子はすっかり喜んでいます。
「じいちゃん、覚えてる?」
が、剛男は覚えられていないんだわ~。しかも、優ちゃん、嫌がってる。リアリティのある反応だわ。
なつは、働く者たちの場所、酪農へと向かいます。
そこには、照男や泰樹、戸村父子もおりました。
どんだけ仕事細かいのよ、っていうのは戸村悠吉の耳に、鉛筆かペンらしきものが挟んであるところですね。昭和のおじいちゃんだ。
この悠吉にせよ、そして泰樹にせよ。引退後のおじいちゃんが、茶を飲んでいる感が出ています。
かつての泰樹は、西部劇風、独自のファッションセンスがありました。
そうではなくて、今は普通のおじいちゃんです。 眼光も穏やかになりました。
照男は電話してくれれば迎えに行ったと言います。
地方だなぁ~。 駅まで車で行くことは、お出迎えの第一歩だからね。バスだなんて、ちょっと水臭いんでないかい。そんなニュアンスもあるんですよ。
優は人見知りをしているのか、泰樹にちょっと怯えています。なつは、名付け親だと説明します。
「おいで!」
「……ただいま」
「おかえり、優! はははっ、重くなったな!」
ここでなつはこう切り出します。
「じいちゃん、照男にいちゃん、私……」
「うん……」
照男も、誰も彼もが驚いている。信じられないのです。
なつは忙しいこともあったけれど、本当になるのが怖くて、来られなかったのです。葬式すら出ていません。
葬式は、新聞もテレビも駆けつけたそうです。信哉もその中にいたかもしれませんね。
「あんなに偉い画家だったなんて……」
皆そう驚いています。そういうところはひとつも見せなかった。威張らない。生活を変えない。ありのまま、彼らしく生きていたのだと。
「なつ、まぁ、ゆっくりして。それから会いに行けばいいべ」
牛を見に行ったなつはなつは、泰樹に馬に乗りたいと言います。
「残念、馬はもう売ってしもうた」
今はもう、車とトラクターの時代です。馬車で移動する時代じゃない。天陽もそうだったと、泰樹は語ります。
しかし天陽の馬は、昨年死んでしまいました。
「25年以上、長生きだった」
馬の25歳は、人間の72歳以上。長生きではあります。
競走馬の場合は、ちょっと特別ですからね。
「今頃はまた、天陽と会ってるべ……」
泰樹はしみじみとそう言います。
山田家を泰樹が救い、馬を買い与えたあの日。
あの日は、遠くなりました・・・。゚(゚´ω`゚)゚。ピー
なつはその夜、優を寝かしつけてから、富士子に本音を語ります。
「かあさん、今の仕事、辞めるかもしれない……」
「えっ、なして?」
「お金のこと考えるけど。優といる時間を一番大切にしたい」
「それがなつが出した答えなら、そうすればいいしょ」
「少し疲れてしまった……」
なつはそうしみじみと言います。
トランクには、『大草原の小さな家』が入っています。ここで大事なことはイッキュウさんとの比較かもしれない。彼は配慮しない。平然とマコプロに誘う。疲れている妻に気づかない。優への気持ちにも気づかない。
で、これだ。
「そんなにやる気を失っているのか……本、置いとくから。暇あれば読んで」
情緒ケアができない、それがイッキュウさん。
これと比較すると、富士子は普通の人なんだと思います。
イッキュウさんは中川大志さんでカッコいいし、家事育児にも協力的で、才能に溢れています。
けれども!彼と一緒にいると、ものすごく疲れるとは思いますよ。そこの認識は必要かもしれません。
なつは山田家に向かい、位牌に手を合わせます。
遺骨、位牌、遺影。
こうしてあると、本当にもう会えないのだな――そんな気分になります。
あんまり戒名は見ないし、詳しくもない。ただ。
【釋浄陽】
というものは、彼にあまりにあっていて、辛くなってしまった。
穢れのない太陽みたいな人だった
なつは遺族に断って、アトリエに足を運びます。
そこには、馬の絵が一面にありました。すべてが気合の入った力作で、画集が欲しくなるほど。モデルのものを求めればいい話ではありますが。
ここで優がこう言います。
「あっ、ママ、本物だ! 本物のお馬さんがいるよ」
なつは、その絵をじっとみつめます。
『なつよ、それが天陽君の遺作だ――。』
父ナレがそう告げるのでした。
天陽は、モデルのこともありますけれども。人間ではないような、不思議な存在感がありましたよね。透明感がいつもあって、他の人とはどこか違う。
悲しい死ではあるし、夭折を美化することもできませんが。思い出すのは、かぐや姫のこと。
人ではないなにかが、何かをきっかけに人の世界に来てしまい、短い時間を経てまた人外の世界に戻ってゆく。そういう物語を思い出してしまいます。
次回に続く・・・