【半分、青い。】-再上京編②-
糸電話を使って、川を挟んで声が届くか試してみたり、ゾートロープを作って親たちを喜ばせてみたり。『半分、青い。』では、幼いころから鈴愛と律はよくこんな風に実験や、モノづくりをしてきたものだ。鈴愛は漫画で、律はロボットで、それぞれそうだったように、まだ誰も見たことのない何かを考えだしたり、作り出したりしたいという思いは、どうやら2人に共通している点のように感じた。
そして、お互い40歳近くになった今、再び2人の“共同制作”、あるいは“共同発明”とも言うべくプロジェクトが着々と進行しつつある。そよ風の扇風機である。もちろんこれまでにも、例えば、“岐阜犬”(しゃべる仕掛けが施されたぬいぐるみ)の制作にあたっては2人で意見を交わしたわけであるが、今回の扇風機はどうやらとても大掛かりな計画となりそうです。
さて、この扇風機制作のモチベーションの1つには、鈴愛の母・晴の存在がある。決して良好な状態にあるとは言えない晴。律や秋風をはじめとして、鈴愛には感謝や恩返しをしなければならない人たちがたくさんいる。ただ、その中でも晴はなんといっても母親ということもあり、今回の扇風機制作にかける思いもひとしおなのだろう。普段だったら読まないような、律から渡された小難しい本に線を入れながら読み込んだりする姿もあった。
ただ、ひょっとすると鈴愛から晴にはすでに、1つの大きな“プレゼント”が手渡されているように思われる場面があった。それは“世界の見え方”である。再び晴のもとを訪れた鈴愛。その時、鈴愛が子供の頃に傘を差しながら、「あっ、お母ちゃん! 面白い! 半分だけ、雨降っとる! 右だけ、雨降っとる!」と言っていたときの回想シーンが流れた。片耳が聞こえなくても、半分は晴れている世界が広がっていると思える。これを鈴愛は、「半分、青い。」と言った。目の前の風景は解釈の仕方でいかようにも見えるということ。きっと、晴にとってそれは鈴愛から得た大きな考え方なのだろう。このシーンで、晴はこうつぶやいた。「健康な方がええに決まっとる。当たり前や。ほやけど、今まで見えんかった景色が見えてくる。『半分、青い。』って言ったあんたみたいに。これが私の人生や。ほう思うと、どんな大変なことがあっても、愛しいな」、と。
この考え方は、きっと鈴愛の人生の歩み方のコツなのだと思う。あらゆる状況も場面も、当人の見方でガラッと変わる。だからこそ、どれだけ悪い境遇に陥っても、何度でも這い上がるだけのバイタリティーが鈴愛にはあった。彼女の猪突猛進ぶりにつながるヒントは、本作のタイトルに隠されていたのだろうか。
物語も大詰めに近づいてくるこの作品。鈴愛と律が立ち上げた会社“SPARROWRHYTHM”をやっていくにあたって、大きなハイタッチをしたその姿は、なんだか大きな成功を感じました。子供の頃のゾートロープのように、2人の上手い役割分担とアイデアが結実することを信じたいと思う。