その美しさは儚く/デンのブリーダー訪問
取材・文・写真|鈴木恵介(㈱Rainbowgate 代表取締役)
この犬(犬種)の寿命は5年なの。
私の命もあと5年。
だから私はこの犬と暮らしているの。
デンと暮らす余命僅かの女性のとある映画のフレーズだ。
『百聞は一見にしかず』
何度も通い続けたデンのブリーダー宅である夏に出会った、
レモンカラーのハルクイン!?最初この犬を見た時言葉を失った。
体重は8ヶ月で90キロに。
美しさもさることながら見事な貫禄。
その後間もなく、2度目の夏を迎える
ことなくこの犬は短い生涯を終えたそうだ。
それから何度か通い続けたある日、10頭近くのデンの子犬に紛れて、
同じ色をしたレモンカラーのハルクインの子犬に出会う。
動する私を尻目にブリーダーは言葉が重い。
「綺麗だろ?鈴木くん。でも本来なら淘汰しなければならない。」
デンを、犬をこよなく愛するブリーダーから
思いもかけない言葉を耳にする。
そしてやり場のない憤りが(なぜ!?)
それまで、ボクサーのブリーダー宅などでも
討論をしたことがある『淘汰』という現実。
私は色々なブリーダーを訪問する中で、
いつも腑に落ちず、消化できずにいた。
子犬を見つめ顔を曇らせた私に、
デンのブリーダーが優しく言葉を続ける。
「鈴木君になら譲ってあげてもいい。お金はいらない。」
優しくも重い言葉は続く。
「鈴木君、オレも淘汰なんてしたくない。
多くの誠実なブリーダーもきっと同じだよ。でもね・・・」
と、話しの途中でブリーダーが子犬の方に向かい、手を大きく叩く
(パン!パン!パン!)
一斉に子犬が集まる。
・・・レモンカラーの子犬以外・・・。
「わかったかい?耳が聞こえないんだ。
デンは成長が早い。色素欠乏異常が現れるのは
他犬種よりも早い。
いずれ早い段階で目も見えなくなるだろう。
1歳ほどで90キロ近いデン。
耳も聞こえない、目も見えない、
君は生涯面倒をみる自信はあるかい?
これまで私は子犬を譲る際に、
何度も何度も飼い主にお願いをした。
繁殖はしないでくれ、家庭犬として
生涯可愛がってやってくれ、と。
でもね、守らないんだよ・・・。
残念ながら、それが現実だ・・・。」
何が悪い、誰が悪いなどと簡単に
口にできるものではい現実があると
実感した。
『百聞は一見にしかず』
ブリーダーの悲しい横顔、
その日の、その瞬間の事を
私は生涯忘れない。
<変えていこう。>
この仕事に入ったきっかけの1つだ。
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色素欠乏は自然界にも見られるもの。
自然界なら、子孫繁栄に至る前に
生き残れない命もあるでしょう。
しかし人と犬が関わり生きる現在、
人により救われる命もある。
一概に特定した立場を責めることは
できないと私は考えます。
良くも悪くも生き物の命を左右する人の立場、
生き物を飼うという考えそのものがエゴで
あるかのように。
人が犬と関わり生きるからには、
特定の立場、誰かを責める前に、
個々が意識を変えていくことが
何より大切でしょう。
Cuun8月号掲載
「その美しさは儚く/デンのブリーダー訪問」より。
