「付き合ってください」
中学2年の夏、僕は初めて告白をした。中学1年の時、隣のクラスにいた女性だった。ずっと気にはなっていたのだが、話す口実がなく、接点は無いままだった。
しかし2年で同じクラスになった。僕は運命を感じた。だが席が遠く、告白のチャンスはなかった。そして次の席替えでなんと彼女は僕の隣の席になった。僕は1週間に必ず1度は教科書を忘れてふりをして彼女に声をかけた。
「もう、忘れすぎだよ」この時、彼女と初めてまともな会話をした。
それから二人は色々な話をするようになった。将来なりたいもの、嫌いな食べ物、好きなテレビ番組などなど。僕はただただ幸せだった。
「少し考えさせて」
勇気を出して告白したが、その言葉は少し冷たかった。僕はこの告白のせいで今までの日常がなくなるのでは無いかと不安になった。その日の夜は案の定眠れなかった。
次の日の朝、一睡もできなかった僕は早めに学校に行くとすでに彼女は登校していた。そしてなぜか、胸ポケットに4輪の薔薇を携えていた。
「おはよ」最初に口を開いたのは彼女だった。
「おはよう」僕はぎこちなく言った。
「私のお母さんが好きなフォアローゼスっていうウイスキーがあるの。知ってる?」
「いや、知らない」僕は首を振った。
「まぁ、いいわ」彼女が話さなくなったので僕はとりあえず席に着いた。
「思いを告げてくれてありがとう」再び彼女が言った。
「私の返事はこうよ」彼女は続ける。
「結婚を前提にするなら付き合ってもいいわ」
「え?」
「断ってくれてもいいわ。でも私の方も結構君のことが好きだから」
僕は嬉しさのあまり涙が出そうになるのを堪えた。
「よろしくお願いします」僕は深く頭を下げた。すると彼女は僕の右手を掴んでこう言った。
「よろしく」
あれから12年もの月日が流れた。長いようであっという間だった。僕は近所の酒屋であるものを買った。彼女にプレゼントするつもりだ。今日は特に記念日では無いが、これからはこの日が忘れられない1日になるよう願っている。
「ただいま」僕がテレビを見ていると仕事から彼女が帰ってきた。
「おかえり」
僕は彼女にコーヒーを入れた。
「ありがとう」
彼女はテーブルに座ってコーヒーを飲み始める。
「あの、ちょっと渡したいものがあるんだけど」
「ナニナニ?」
「これ」僕はそれを彼女に渡した。
「これって」
「そう、フォアローゼスのプラチナ」
「私達が付き合った時のこと覚えてる?」彼女が言う。
「あぁ、あの時は意味が分からなかったけど、今なら分かるよ」一呼吸置いて僕は続けた。
「結婚してくれないか」
すると彼女は目を閉じて深く深呼吸をした。そして言った。
「喜んで」
僕は強く強く彼女を抱きしめた。
傍で銀色の4輪のバラが咲き誇っていた。