(平成23年5月3日 夕暮れの郡山にて)
私たちは、爆弾に背を向ける母のように全力を尽くすことができ、それで子らは満足する.
私たちは、決してくじけることもなく、決して自らを責めることもない.
私たちには希望がある. それは全力を尽くした後に、子らが私たちを見つめる感謝の心.
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人ができること、それは爆弾が空から降ってこようと、目に見えぬ放射線が体を貫こうと、愛する子のために我が身を犠牲にすることだ.
人は万能ではなく, 人には出来ないことがある. 君もそれは承知だ.
君は母を愛するだろう.
母の心は痛んでいる. もう少し逃げたかったが・・・それは出来なかった. だから君の母は自らを責めている.
母は君を抱いて走った。知らない土地、辛い仕打ち、乏しい財布、その中で必死に逃げ、そして今、郷里に帰った.
君は父を尊敬するだろう.
郡山の父、伊達の父は校庭の表土を除いた。君は26ミリシーベルトから8ミリシーベルトになった。
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それで良いのだ. 君は父と母の愛のもとで眠る.
何も出来なかったじゃないかと言わないでくれ.
爆弾が頭上に落ちるとき、母は君を胸に抱いて爆弾に背を向ける. そして母は焼け焦げ君もまた命を落とす.
父は剣をとって敵と戦い、武運つたなく斬り殺される. そして君もまた父に殉じる.
武田邦彦