▼米作家ジェローム・デイヴィッド・サリンジャーの小説「ライ麦畑でつかまえて」が思い浮かぶ。発行部数が世界で6500万を超える同作品は、高校を退学となった少年ホールデン・コールフィールド(17)がクリスマス前の米ニューヨークの街を旅する物語だ。口語文体で社会の欺瞞を問う内容で、今も時代を超えて若者の共感を呼んでいる。
▼映画「天気の子」はまさにこの話に沿う流れだ。(事情が不明だが)家出して上京した帆高は東京の雨に濡れつつ、数々の不遇に晒されて「東京は怖い」とつぶやく。だが陽菜と凪、3人が警察から追っ手を逃れて逃げ込んだ「ラブホテル」で束の間の憩いの時間がくる。「雨で濡れてしまっていた。だけど気にしなかった」(ライ麦畑から引用)ということだろう。
▼このライ麦の本が作中で一瞬登場した。企業スポンサーという大人の事情で登場した日清食品カップ麺「どん兵衛 緑のたぬき天そば」。これに熱湯を入れ、隠すように蓋をしたのが「ライ麦畑でつかまえて」の翻訳本だった。新海誠監督が敬愛する村上春樹氏(03年刊行)の「キャッチャー・イン・ザ・ライ(英語名)」。小道具としての発想に評価できる。
▼子供の夢と大人の現実の狭間に生きつつ、この時期にしか味わえない青春を謳歌する美しさは「ライ麦」と「天気の子」の共通点だ。米作家サリンジャーは2011年の91歳で逝去したが、もし生きていたなら映画をどう評価するか。ライ麦の少年ホールデンはきっとこうつぶやくだろう。「鬱屈とした商業映画の社会に嫌気がさす」