映画「レオン」をみて思ったことなど | リベラル日誌

映画「レオン」をみて思ったことなど


 誰にも印象に残る映画はあるとおもうけど、ぼくはいくつかあるなかで『レオン』が上位にはいる。冷酷無比の殺し屋を主人公とした映画とシンプルに言いきることもできるけれど、人の感情を失い、閉ざされた世界で生きる男の成長物語ともいえるし、隔絶された世界で苦しむ少女の小さな恋の物語ともいえるかもしれない。見る角度によって、はたまた鑑賞者によって、その印象は異なるのかもしれないが、ぼくは、温かく、そして悲しい映画だと思った。ワンカット、ワンカットの丁寧な撮影描写によって、一人ひとりの配役の感情変化を明確に感じるとることができ、それが故に数々の名台詞が生まれたのではないかと思う。アクション映画のような派手なシーンはあるけれど、静かでいて、何となくおとぎ話のような柔らかさがあるのが印象的だ。


 物語は、ニューヨークでプロの殺し屋として、孤独に生きるレオンを主人公とした作品だ。レオンの表の顔はあくまでもイタリアンレストランの経営者であるが、イタリア系マフィアのボスであるトニーの依頼を完璧にこなす殺し屋が本来の姿である。

 ある日、レオンが依頼をこなしたあとに、偶然父親から虐待を受けて、鼻血を流している少女マチルダに出会う。レオンがハンカチを差し出すと、息を呑むような問いかけがそこにあったのだ。


「Is life always this hard, or is it just when you are kid?(人生っていつもこんなにつらいの?それとも子供のときだけ?)」

「Always like this (いつもこんなもんさ)」


冷めてはいるが、子供に対する言葉とは到底思えないほどの尊厳をもった言い方で応じる。レオンはこのときに自分の孤独感と少女の孤独感を重ね合わせたのかもしれない。そんなワンシーンであった。


 麻薬捜査官スタンフィールドは、立場を悪用して、麻薬を横領して利益を得ていた。そのスタンフィールドは、マチルダの父親が麻薬の一部をくすねていることを嗅ぎ付ける。アパートに乗り込むと、家族共々皆殺しにしてしまうのだ。マチルダは、たまたま外出していて難を逃れたが、何も知らずにアパートに戻ってきて、事態を知ることになる。マチルダはこのとき、その聡明な頭脳で機転をきかせ、そこの部屋の住人ではないかのように振る舞い、泣きながら、レオンの部屋のドアベルを鳴らし、レオンは逡巡したあと、彼女を保護する。このあとの二人のやり取りが、またはかない。


「Leon? What exactly do you do for a living? (ねえレオン、あなたはどんな仕事をしているの)」

「Clear (掃除屋)」

「You mean you're a hit man? (殺し屋ってこと?)」

「Yeah (そうだよ)」

「Cool (素敵)」


マチルダのセリフのこの「Cool」には、大事な弟を殺された復讐を誓った心情がこめられているのかもしれない。これまで孤独を感じながら、家族からの虐待を耐え忍びながら、人生を無為に過ごしていたが、初めて、生きる目的を持った強い光を感じた。


「I've decided what to do with my life. I wanna be a cleaner (私は人生でやるべきことをきめたわ。殺し屋になりたいの)」

「You wanna be a Cleaner. Here! Take it! It's a goodbye gift. Go clean. But not with me. I .work alone. Understand. Alone.(殺し屋に?じゃあこれを餞別として持って行け、掃除にいけ。だがおれとじゃない、おれは一人で仕事をする。わかったな、一人でだ)」

「Bonnie and Clyde didn't wrok alone. Thelma and Louise didn't work alone. And they were the best (ボニーとクライドは、組んで仕事をしたじゃない、テルマとルイーズも一人じゃなかったわ、そして彼らはベストだった)」

「Mathilda. Why are you doing this to me? I've been nothing but nice to you! I even saved your life yesterday, right outside door.(マチルダ、なぜそんなことをする?おれは何もしてないぞ、ただ親切にしただけだ。おまえの命すら助けてやったりもしたんだぜ。ちょうどあのドアの外で)」

「Right. And so now you're responsible for it.If you saved my life, you must have saved it for good reason. If you throw me out now, its like you never opened your door. Like you let me die right there in front of it. But you did open it. So.... (そうね、でも助けたからには、きちんとした理由が必要じゃない。私を追い出すのなら、それはあのときドアをあけて私を救わなかったのと同じよ。私を死なせたのと同じよ、ドアの前のちょうどあそこで。でもあたなはしてくれたじゃない、どう?…)」


 ボニーとクライドは、実在する男女の銀行強盗を映画「おれ達に明日はない」の主人公の名前であり、テルマとルイーズは、アメリカの人気映画で、これも殺人犯と恋人がコンビを組んだ物語であった。12歳の少女とは思えないほどの言い回しにレオンは戸惑いながらも、マチルダに屈しないでいられたが、次の瞬間、マチルダはいきなり拳銃を取り上げると、窓から発砲する。それによってアパートにいられなくなり、一緒に住むことになったが、「おまえを突き放すと何をしでかすかわからない」という理由は、説得力のないものであり、ここから愛情が芽生えはじめていたのかもしれない。


「Leon, I think I am kind a falling in love with you. It's the first time for me, you know? (あなたに恋をしたみたい、はじめての経験よ、わかるでしょ?」

「How do you know its love if you've never been in love before? (はじめてでなぜわかるんだ?)」

「Because I feel it. ( そう感じるの)」

「where? (どこで?)」

「In my stomach..it's all warm. I always had a knot there..... and now Its gone (お腹のあたりよ、ここがなんだか温かいの、いつもしこりのようなものがあったけど、それが消えたわ)」

「Mathilda, I'm glad you don't have a stomach ache anymore, I don't think it means anything.. I 'm late for work. I hate being late work for work! (マチルダ、腹痛が治ってよかったな、それは恋とは違う。仕事に遅れるから、おれはもういくぞ)」


 少女のはじめての恋愛感情をうったえた発言に対する回答としてはあまりにも厳しく、理解のない言葉を返すが、レオンの複雑な表情から、彼女の思いにこたえたい気持ちと、昔の冷酷無比で孤独な自分に戻りたいという思いが交錯していたことが読み取れる。一方ナタリーポートマンの黒く鮮やかでいて、純粋な瞳が、光をゆっくりと失っていくような落胆を読み取ることができ、見ていていとおしい。



「Mathilda, since I met you, everything's been diffrent. So I just need some time alone. And you need some time to grow up (きみにあってから全てが変わった、だから少しだけ時間がほしい、きみももう少し大人になるための時間が必要だ)」

「I finished growin' up, Leon, I just get older (私はもう大人よ、あとは年を取るだけ)」

「And for me, it's the opposite. I'm old enough. I need time to grow up (おれは逆で、年は取ったが、これから大人にならないとな)」

レオンは、結局マチルダの幼き愛を理解し、こんなことを言うのだ。心の成熟した12才の少女の言葉が、胸につきささるようであり、互いに心に秘めた思いを打ち明けるようにゆっくりとよりそっていく。二人の時間がシンクロするようになってきたこの夜が悲しくも二人で過ごせる最後になってしまう。


 マチルダはスタンフィールドが家族を殺した張本人だということをつきとめ、ひとりで麻薬取締局に乗り込み、復讐をはじめようとするがつかまってしまう。一方レオンもマチルダのために、マチルダ一家殺害に関与した麻薬取締局の捜査官を一人殺害し、復讐の手助けをしていた。

 一方、スタンフィールドは、トニー配下の殺し屋が仲間の捜査官を殺害しているのだと目星をつけ、トニーを訪問しに出向く。実はスタンフィールドこそが、今までトニーを仲介役にレオンに殺しを依頼していた元締めだった。


すべてはレオンの仕業だと確信したスタンフィールドは、次の日の朝、警察の全部隊を総動員して、レオンの住むアパートを包囲、突入した、レオンは激しく抵抗し、その戦いの中で、マチルダを脱出させることに成功する。マチルダとはトニーの店で落ち合うことにし、レオン自身は負傷した突入部隊に扮し脱出を試みるもスタンフィールドに見破られ、あと一歩のところで撃たれてしまう。このときの撮影のアングルで、レオンが倒れていくさまが音声がなくなっていきながら、揺れ動くのが、見ていてつらい。そして虫の息の中、身に着けていた手榴弾のピンをぬき、スタンフィールドを道連れにしてレオンは爆死する。

 そして一人残されたマチルダは、トニーに殺し屋の修業をさせてほしいと頼むが、断れ、学校の寄宿舎に戻り、レオンの形見となった観葉植物を学校の庭に植えるのだった。


 不器用でいて冷たくはあるが、同時に優しさを内包した男をジャンレノが上手に演じ切っており、ナタリーポートマンの幼さの中に、成熟さを秘めた少女をチャーミングに演じた演技が感動できる。いいときもわるいときも長くは続かない、その時間を一つ一つを大切したほうがいい、そんなメッセージを感じたようであった。


参考文献

レオン 映画Wikipedia