そうだ!リッチになることを夢見てアフリカに行こう! | リベラル日誌

そうだ!リッチになることを夢見てアフリカに行こう!


日本の経済は冷え切っていて、そこから回復する兆しはどこにも見えない。3.11東日本大震災の影響により安全神話が完全に崩壊し、製造業のサプライチェーンは寸断され、電力の安定供給は見込めない、税金は上がる一方、しかも円高が急激に進行しているという無数の負の鎖が僕らをきつく縛りつけている。さらに現在、欧州では大半の政府が過剰債務を抱えていて、銀行の多くが高い債務比率と資産内容の劣化に直面し、債務超過に陥った国の国債を大量に保有する銀行も少なくない。こうした状況がユーロ圏さらには欧州連合(EU)全体で三重の危機を引き起こしている。またこうしたことを背景として、人々は政治システムに不安を覚え、ニューヨークのウォール街では抗議デモが勃発した。オバマ大統領の「チェンジ」に期待して投票した人々は変化の遅さに失望し、金融危機や失業などの経済問題を引き起こした人々が政権入りしたことに不満や怒りを感じている。



世界的にグローバリゼーションが高まり、新興国市場に多くの恩恵をもたらすと同時に、先進国住民の不安を増加させている。グローバルな市場で労働規制が撤廃されると、貧しい国に住む膨大な数の人達は、今よりずっといい暮らしができるようになるけれど、アメリカ、ヨーロッパ、日本といった先進諸国で働く高賃金の労働者は、賃下げやリストラが起きて構造変化の波に飲み込まれてしまうかもしれない。地球全体で見れば良いことかもしれないけれど、こうした能力主義や市場経済に反対する人も少なからず存在するに違いない。



第二次世界大戦後、新興国は物凄いスピードで成長し、経済史上類をみないペースで豊かになっている。その終着点にあるのは、人口の75%以上が先進諸国に住み、その最大の恩恵である誰もがリッチな生活を満喫する世界であろう。軒並み中国、インドの成長は目覚しく、これらの国が先進国並みの所得水準に達することになれば、それぞれの経済規模はアメリカやEUの4倍になるのだ。当時、専門家やアナリストがこうした成長スピードを予測することはできなかった。


マイケル・ペンスは著書『マルチスピード化する世界の中で』で成長に対する研究成果を卓越した論理展開と共に説明している。例えば『「全要素生産性(トータル・ファクター・プロダクティティビィティ、TFP)」という言葉を聞いたことがある読者もいるかもしれない。これは一定量の生産要素に対して、どれだけの量を生産できるかを意味している。これは先進国などの既存の技術や知識が新しい環境に持ち込まれ、活用された場合にも向上することがある。これこそが新興国が経験することであり、主に先進国に存在する技術や知識、能力やノウハウといったものを輸入しているのだ。先進国と比べて途上国が非常に速いスピードで成長できる最大の理由はここにある。イノベーションとは、新たな製品や生産技術の創造、またはコストを引き下げることによって、付加価値を高めるのに役立つ新たな知識である』


これは広く知られていることかも知れないけれど、このように考えると新興国の成長スピードも納得がいくし、何より将来的にアフリカ諸国の急成長の可能性も見えてくる。もちろんここには先進諸国において雇用創出以上の雇用喪失といった犠牲はあるかもしれないけれど。




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(出所:UN World Population Prospectsより筆者作成)



これは主要国の人口増加率を示している。ヨーロッパ地域及び日本の2000年から2005年の人口増加率は各々0.08%、0.12%と低水準で、その後グラフを見ると分かるように、2005年以降はマイナスに転じ、2045年~50年には各々-0.26%、-0.79%へと落ち込む見込みである。他方、アジア地域及び中南米地域については、増加率は低下するものの、2010年までは1%を上回る水準で推移する予測となっている。だけど、これらの地域の少子化のスピードが先進地域よりも急速であることから、2050年までには増加率は各々0.15%、0.1%へと落ち込む予測となっている。今後2050年までに最も人口増加率が高い地域はアフリカ地域で、2015年までは年率2%を上回り、2045年以降も1%を上回る水準で推移する見通しである。



また先進地域の老年人口の動向をみると、2010年時点で15.9%となっていて、2025年には20%を上回る推移になっている。とりわけ日本の高齢化は急速で、2025年、2050年のいずれの推計でも欧米先進諸国を上回っていて、極めて老年人口の割合が高い国になることが予測されている。新興国はどうなのかと言えば、現在は比較的出生率が高い地域でも、出生率の低下と平均寿命が伸びることにより、高齢化の進行は急速であるとされているし、特に成長著しい中国とインドの高齢化が先進諸国より異様なほど速い。



多国籍企業は今後も世界中でサプライチェーンの最適化や市場機会を探し続けることになるだろう。その多くは高成長を遂げる新興国にあるはずだ。ヒト・モノ・カネが国境を越え、自由に移動できるグローバル経済システムが定着すれば、僕らは常に次の市場を意識して動いていかないといけないということだ。もちろんリッチに生活したければという条件はつくけれど。



たぶん成長そのものに関心がある人などいない。興味があるのは、生産的でクリエイティブな仕事に就くこと、社会にとって有益な人材であること、詰まる所、自らのポテンシャルを最大限に発揮するための自由や機会に結びつく事柄に関心があるに違いない。確かに大富豪レベルになると、資産の価値は単なる成功の指標の1つに過ぎないのかもしれない。だけど一般的にリッチになることは、物質的な側面であらゆることをかなえることが可能になる素晴らしい武器だ。



じゃあこれからの50年を見据えた戦略を練るにはどうすればいいんだろう。今後安定志向の若者を中心にこのような思想が広まっていく事になるかもしれない。その頃には不安を助長して財産をかすめ取る自己啓発本やセミナーも進化して、「ここの国いけば、あなたはきっと豊かで幸せになれる」という情報を与えてくれるかもしれない。あながち全てが間違っているわけではないだろうから、その国はきっとアフリカ諸国に違いない。確かにアフリカ諸国は国づくりや統治体制の確立に手を焼き、国ごとのバラつきも大きかった。また全般的に天然資源が豊富であったために、それのもたらす富や収入を確保する事ばかりの政策が重視されて、長期的な取り組みが疎かになったことにより成長がこれまで阻害されてきた。


だけど、これからますます開かれた国際貿易システム、海外直接投資が比較的自由になり、国境を越える知識の習得といったことが可能になれば、アフリカ諸国はどんどん発展することになるだろう。それに現在はインターネットをはじめ通信技術やそのアプリケーションの進化を追い風に、労働集約的で知識集尺的なサービスも、国際的に容易に取引可能になってきている。何よりアフリカ諸国は人口も増加し続けることが予想されているし、若年労働者も大量に溢れている。



グローバル化は何も先進国が犠牲になる構図ばかりではなくて、ある意味では新興国は知識を獲得するのと引き換えに、低賃金をはじめとする様々な好条件を先進諸国に提供しているのだ。うがった見方をすれば、搾取しているとも言えるかもしれない。だからこれからは不安に怯えるばかりではなくて、新興国市場と共に豊かになる構図を模索しないといけないのだ。そこには語学や文化など越えなければいけない壁は無数に存在する。7日の日経新聞によれば、語学学校に通う受講生の言語ニーズも多様化し、新興国言語の需要が増していることが見て取れる。これは企業が常に新たな市場に目を向けていることを証明している。


確かにアフリカ諸国はガバナンスの側面で問題もあるし、成長を不安視されてもいるけれど、僕達のモデルや将来を見通す能力といったものは限られていて、予想が外れることは例外ではなくて日常茶飯事である。そして持続的な富の創造には、人的資本、知識、絶え間ない経済構造の変化、資産の生産的な活用を可能にするような経済体制が必要不可欠だ。こうした時にアグレッシブでフットワークの軽い有能なベンチャー企業が数多く参入することになれば、きっとそうした体制は容易にできあがることになるだろうし、魅力的な市場に変わるかもしれない。日本でどうやったら生き残れるかを模索することも大切だけど、これからはどこの国に向えば成功できるかを考えることも必要になってくるのかもしれない。



参考文献
マルチスピード化する世界の中で――途上国の躍進とグローバル経済の大転換

セイヴィング キャピタリズム
グローバリゼーションを擁護する
イノベーションとは何か
あなたも不合理な世界の恩恵を受けている1人かもしれない リベラル日誌