着物ブームの到来によって、成人式やお正月といったイベントだけでなく、普段のお出かけにも着物を楽しむ方が増えている様子。
でもその分、「出先で着物を汚してしまった…」というトラブルのお声もよく聞かれるようになっています。
着物の素材や染色は洋服とは異なるため、いつもの感覚でシミの対処をするとお着物自体をダメにしてしまうことも…。
そんなことにならないように、シミやハネのトラブル時の対応を知っておきたいですね。
今回はシミや汚れができてしまった時の応急処置や、ご自宅でできる対処法等についてご紹介していきたいと思います。
1.ハネやシミが付いちゃった!すぐにできる応急処置は?
「レストランや喫茶店等で、気をつけていたつもりがハネさせちゃった!」こんなことって意外と多いですよね。
また七五三や入学・入園式等で小さいお子さんが着物を着た場合等にも、食べこぼしや泥ハネ等の汚れが付いてしまいがちです。
「しまった!」と思っても、慌てないことが大切。シミ・汚れの原因に合わせた応急処置をしておきましょう。
【飲み物類等の「水溶性」の汚れの場合】
コーヒーや紅茶・ジュース等の汚れは、油を含まず水に溶けやすい「水溶性」の汚れです。
これらの場合には、できるだけ水分を取り除き、布に付いた色素を別の布へと移らせることが重要になります。
- タオル・ハンカチ等を汚れが付いた箇所の裏側に当てます。
- もう一枚のタオル・ハンカチで汚れが付いた箇所を優しく抑えて、水分をできるだけ吸い取ります。
- ぬるま湯か水にタオル・ハンカチを浸し、よく絞ってからシミの部分を軽く叩いていきます。常にタオルのキレイな面がシミ部分に当たるようにして、汚れをタオルへ移すようにしましょう。
- 乾いたタオルかハンカチで、水分を再度吸い取ります。
- 色素が抜け切らない場合には、3)~4)を何度か繰り返します。
シミ範囲が広範囲の場合や、色素が強い飲み物で抜け切らない場合には、それ以上無理に布を擦ったり叩いたりせずに水分のみを吸い取ってください。摩擦で着物が傷んでしまう可能性があります。
着物に水を多量に染み込ませないようにしましょう。輪染み等の原因となる恐れがあります。
血液シミの場合には、ぬるま湯を使わないでください。血液が固まってシミが取れなくなります。
【口紅・マヨネーズ等の「油溶性」の汚れの場合】
お食事や口紅・ファンデーション等のお化粧品には、「油分」が多く含まれています。
そのため水溶性の汚れのように「水分」を含ませても汚れが取り切れず、却って汚れを広げてしまう可能性が高いです。油分汚れの場合には、水を使わずに汚れを軽く吸い取ります。
- マヨネーズ等の固形物が残っている場合には、ティッシュ等を使って優しく取り除きます。
- タオル・ハンカチ等を汚れが付いた箇所の裏側に当てます。
- ティッシュ・ハンカチでシミ部分を上からごく優しく抑えて、汚れを吸い取ります。
- 常にティッシュ・ハンカチのキレイな部分をあてるように動かしながら、汚れをできるだけ吸い取っておきましょう。強く叩いたりこすって広げないことが大切です。
特に喪服等の濃い色の生地の場合、「叩いて落とす」は厳禁です。生地自体にスレ(擦れ)が発生し、クリーニングの際に色抜け等を起こす可能性があります。
【泥ハネの場合】
泥ハネに含まれる土や泥・砂などの成分は、水や油などには溶けません。そのため無理にその場で落とそうとすると、汚れの範囲が広がってしまうことがあります。静かに水分のみを取っておきましょう。
- 土・砂等が残っている場合には、ティッシュ等を使ってシミを広げないように取り除きます。
- シミに水分が多い場合には、裏側からタオル・ハンカチを当てて、上からキレイなタオル・ハンカチでごく優しく水分を吸い取ります。
水分を含んだタオル等で濡らさないようにしてください。汚れ範囲が広がってしまいます。
擦ると砂の粒が生地を傷め、修復が困難になります。擦ったり叩いたり、強い刺激を与えないようにしましょう。
2.帰宅したら汚れを全部チェック!
応急処置をして帰宅したら、着物についた汚れをしっかりチェックしましょう。
「汚れが付いた!」と気づいたところ以外にも、知らないうちにハネやシミができていることも。また食べ物・飲み物等の場合、気になる箇所以外にも小さくハネが飛んでいることもあります。
お部屋の中の明るい場所で着物を広げ、着物全体の汚れを詳細に確認しましょう。
特に以下の箇所は、お着物の中でも汚れが付きやすい箇所。入念にチェックをしておいた方が安心です。
【汚れのチェックポイント】
- 襟元・襟周り:ファンデーション等の化粧品汚れが付きやすい箇所。また髪をおろしたダウンスタイルの場合、ヘアケア・ヘアセットのための製品の汚れが付くこともあります。
- 胸の周辺:食事の時に最も汚れやすい箇所。ジュース等の飲み物のハネ、食べ物のハネが付いていないか確認します。
- 袖口:特に裏面が意外と汚れやすいです。チェックは袖の裏側までしっかりと。
- 裾周り:特にお天気の悪い日や雨の翌日のお出かけ等の場合には、泥ハネが付きやすい箇所です。
3.ジュースやコーヒー…水に溶けるシミの染み取りをするには?
シミ取りを応急処置だけで済ませてはNG!残った色素汚れが後からシミとして浮き出してきたり、カビの原因となってしまうこともあります。
自宅で対策ができる着物で水溶性のシミの場合には、ご家庭にある中性洗剤を使ってシミ取りをしておきましょう。
≪水溶性のシミ・汚れの取り方≫
- 中性洗剤を10倍~15倍に薄めて希釈した溶液を作ります。
- 溶液にタオルを浸して、着物の裏側等の目立たない部分で色落ちチェックを行います。
- 別のタオルをシミの裏側にあてます。
- 溶液に浸したタオルでシミ部分を軽く叩き、シミ汚れをタオルへ移していきます。
- 汚れが取れたら、再度ぬるま湯に絞ったタオルでシミを叩きます。
- 最後に乾いたタオルで水分を吸い取ります。
- 和装ハンガーにかけて陰干しし、水分をよく飛ばします。
アルカリ性洗剤(通常の洗濯洗剤等)は使用しないでください。色落ち・変色の原因となります。
中性洗剤でも原液は使用するのをやめましょう。洗剤液の成分が残り、新たなシミの原因となる可能性があります。
色落ちチェックで色落ち・変色が見られた場合には、それ以上は自宅で対策せず、専門のクリーニング業者に依頼しましょう。
血液シミの場合には、ぬるま湯を使わず水を使用してください。
4.口紅やマヨネーズ…水に溶けない油シミは?
油分を含んだ化粧品・食品等のシミの場合、一般的な「洗剤」では対処ができません。
油分を溶かし出す作用を持つ「ベンジン」を使用して、汚れを別の布へと移していきます。
≪油溶性のシミ・汚れの取り方≫
- ベンジンをガーゼに含ませて、着物の裏側等の目立たない部分で色落ちチェックを行います。
- チェックをクリアしたら、シミの裏側にタオルをあてておきます。
- ベンジンを別のガーゼに含ませて、シミ部分をごく優しく叩いて汚れをガーゼに移していきます。
- 汚れが取れたら、シミの外側から内側に向かって叩き、ベンジンが付着した箇所の周辺部をぼかすようにします。ぼかすように叩くことで、ベンジンによる輪染みを防ぎます。
- 和装ハンガーにかけて陰干しし、よく乾燥させます。
- 油ではなく「色素」の残りが見られる場合には、前述した「水溶性汚れ」の対処を引き続き行います。
色落ちチェックで色落ち・変色・色にじみが見られた場合には、それ以上は自宅で対策せず、専門のクリーニング業者に依頼しましょう。
ベンジンは揮発性ですので、必ず換気をした状態で作業を行いましょう。また作業中は火気厳禁です。
質の悪いベンジンだと輪染みの原因となります。工業用等ではなくクリーニングに適したベンジンを使用しましょう。
5.泥ハネの処置はどうしたらいい?
汚れが「泥ハネのみ」の場合には、濡らさない・洗剤等を付けないことが大切です。
≪泥ハネの汚れの取り方≫
- 雨汚れ等が混じっている場合には、シミ部分を両側からタオルで挟み、水分を丁寧に吸い取ります。
- 着物を和装ハンガーにかけて陰干しし、ハネが付いた部分をよく乾燥させます。
- 柔らかい毛の歯ブラシを使用して、優しく泥・砂を掻き出していきます。
着物の布地を強くこすらないようにしましょう。生地の痛みによる色抜け・変色の原因になります。
6.自宅でしみ抜きしない方がいいことも?
以下のような場合には、無理に自宅でシミ抜き・汚れ落としをすると着物の変色・変形等を起こしてしまう可能性があります。
無理に自宅で対処せず、1.の応急処置をしたらすぐに専門店にクリーニングの依頼をしましょう。
着物の生地が「正絹」の場合
正絹(シルク)は非常にデリケートな生地で、水を含むと縮みやすいのが特徴です。また色落ち・色抜けなども起こしやすいため、ベンジン等での自己処理がおすすめできません。万一自己処理に失敗した場合、専門店でも修繕が難しくなってしまうことがあります。
シミの範囲が広い場合
シミ範囲が3センチ以上ある場合、色素の汚れ・油汚れ等を自己処理で完全に取り除くのはかなり難しいです。無理に汚れを取り除こうと叩く回数等が増えた結果、布地に擦れによる変色等が起きてしまうことがあります。
刺繍の箇所・金箔銀箔箇所にシミがある場合
刺繍(ししゅう)が施された場所にシミができた場合、「刺繍糸」の染色や素材なども確認しなくてはならなくなります。
無理に水分等を与えた結果、糸が縮んで刺繍が歪んでしまう、刺繍部分の色抜けが起こるといったトラブルがあるため、無理に自己処理を行うのは危険です。
また「金箔」「銀箔」などの箔押し加工がされた部分にシミがある場合にも、同様に自己処理(洗剤使用・ベンジン使用)による変色の恐れがあります。
色素が強いシミの場合
ワインやブドウジュースといった色素が非常に強いシミの場合、何度か水溶性シミの対処法を行っても色素汚れが取り切れないことがあります。この場合には無理に自己処理を続けると、生地自体に傷みが生じる可能性が大です。
シミ原因が「インク」「墨」「マスカラ」等の場合
以下のような文房具・化粧品には、「顔料」という炭素等の鉱物由来の色素成分が含まれていることが多いです。
- 水性ボールペン
- ゲルインクボールペン
- 墨
- マスカラ
- アイライナー 等
顔料が入ったシミは水にも油にも非常に溶けにくく、水溶性シミ向けの対策では色素が広がってしまうばかりか、ベンジン等でも容易に落とせない汚れとなっています。
上記のような文房具・化粧品等でシミを作ってしまった場合には、自己処理は一切行わずに専門店に依頼をしましょう。
この時、シミの原因になった文房具や化粧品とその成分情報を業者に提示した方が、より的確な対処をしてもらえる確率が高くなります。
文房具メーカーサイト・化粧品メーカーの製品サイト等を事前にチェックして、「油性インクか水性インクか」「どんな顔料が使われているか」といった情報を添えて業者に依頼をすることをおすすめします。
着用後から時間が生じた場合
着用後2~3日以上が経過し、水溶性シミ・油溶性シミが完全に乾燥してしまった場合、色素が繊維に絡みついてしまい、自己処理で対処をするのが難しくなります。
シミの原因がわからない場合
帰宅してからのチェックで、「原因がよくわからないシミ」を見つけたら、無理に自己処理はしない方が無難です。
最初のシミ抜き対処を誤ってしまったことでシミが凝固・変色してしまうと、専門店でも元に戻すことが難しくなってしまうことがあります。
専門店に「何でシミができたのかわからない」と相談をして、的確な対処を取ってもらいましょう。
おわりに
着物が汚れた時の応急処置のポイントはいかがでしたか?どんなシミの場合でも、大切なのが「早めの対処」であることには変わりはありません。
もしも「自分で対処するのが不安」という時には、悩むよりも早めに着物染み抜きプロに依頼をされることをおすすめします。
染み抜きビフォア