一般病棟の部屋の選択

 

月曜日の朝。

初めてみる看護師さんが来て、HCUから一般病棟に移るから、部屋を選ぶように言われた。

 

「4人部屋が良いですか、個室が良いですか?」

「4人部屋は差額料金はかかりません。個室は一日あたり25000円+税がかかります」

「個室がおすすめです」

 

とのこと。

え・・・?ここはまだ有料の個室ではないのですか?

目が点になる。

 

手術をするかも決めてないし、入院がどのくらいになるかもわからないし、手術をする場合自分がどんな状態になるか分からないし、部屋も見てないし、選べない。

 

「手術する場合、手術前と手術後で、体の状態に合わせて部屋を変更することも出来ますか?」

「具合が悪い時は4人部屋の方が良いでしょうか。個室だと気づいてもらいにくいでしょうし…」

 

細身で、手入れの行き届いていない痩せた短い茶髪で、少し年配で早口のビジネスライクな看護師さんが説明する。

 

「いえ、具合が悪い時はゆっくりやすめるので個室がおすすめです。脳外科は色々な病状の方がいらっしゃるので」。

「でも病院の個室って少し怖いような」と聞くと、「大丈夫です、全力でスタッフがサポートします」とのこと。

 

早く決めろという圧に負け、「では手術前は個室で。術後は体調に合わせて考えたいです」と回答した。

 

そうしたら、「ありがとうございます」とのこと。

ケアというより、商売っ気を感じて、「毎度ありがとうございます」に聞こえた…。

 

月曜日

 

再度、ストレッチャーで、CTやMRIの検査に。

どちらかは造影剤の検査だった。

記憶がもう薄れてきてる…。

 

部屋に戻る。

廊下で、脳卒中がどうのこうのと、女性の看護師さんたちの話し声がする。

また、男性の声で、「試薬を変えてもう一度検査する。珍しいけどね」という声がする。ドクターだろうか。

 

看護師さんが部屋に入ってきたので、「廊下の話し声が聞こえたんですが、脳卒中って私の事ですか?」と聞くと、「別の患者さんの事です。もうこの部屋にはいられないので、移動します」と言い捨てられた。

 

後から考えると、どう考えても私の事だった。

嘘をつくなら、病室の外で立ち話は辞めた方が良い。

 

別の小太りで小柄で若い看護師さんに、ストレッチャーに乗せられて、HUCから階を移動し、一般病棟の個室に部屋を移動。

HUCの個室とあまり変わらない。

 

検査等が終わり、4時半頃、一般の個室に戻る。

小柄で小太りな看護師さんに、火曜日に行う造影剤検査等の色々な紙を渡される。

 

そして、もう「歩いて良いです。尿の量もはからなくて良いです」と言われる。

「昨日までベッド上のみフリーだったのですが、室内は自由に歩いて良いと言う事ですか?」

「そういうことじゃないですか。主治医からは、フリーとだけ言われてるんで。とにかくベッドから降りて自由に歩いて良いです」。

 

え・・・?もっとちゃんと説明してよ。何で急に歩いて良くなったの?

フリーだけど、なるべく歩かない方が脳梗塞になりにくいの?疑問だらけ。

 

小太りで背の低い看護師さんがあわただしく説明を続ける。

 

「明日の検査は、脳血管造影検査なので、夜9時以降食事はしないでください。詳細はこの用紙の説明を見て下さい。当日はT字体に着替えます。T字帯持ってますか?なかったら売店でかわりに買ってきます。手術の日も使いますけど、1枚で良いですか?」

 

は?

そんなに大変な検査なんですか?

検査の同意はしたけど、詳細の説明受けてないですけど。

 

「…T字帯持ってないので、お金を渡すので売店で購入をお願いします。手術の時も使うとのことなので念のため二つお願いします」

 

「アンダーヘアは自分でそれますか?看護師がそりますか?」

「みなさんどうしてるんですか?」

「半々です」

「え…、今日の造影剤の検査で余計に頭がくらくらしてるので、自分で出来るかわからないです。お願いします」

 

ものすごく嫌な顔をされた。

そんな顔をするくらいなら、もっと早く説明してほしかった。

急に言われても対応できない。こっちは大変具合が悪い。

何しろ部屋の移動も多いし、担当看護師もどんどん変わるし、治療の全体像が見えない。

 

それに、手術を木曜日にするって、入院時の予定表には書いてあるけど、まだ同意もしてないし、説明もされてない。

入院後の検査結果も、一つも聞いてない。

 

別の若くてスリムで落ち着きのない茶髪で少し化粧の濃い看護師さんが入ってきた。

「さっきの担当に、あなたやってと言われたので、来ました」と、目の焦点を合わせずに落ち着きなく話す。

 

はあ。なにその説明…。

患者をバカにしてるの…。

後からわかったが、この看護師さんは、綺麗な顔立ちをしているが、いつも落ち着きがなく、目の焦点があっていない。

 

 

火曜日

 

脳血管造影検査「ダイアモックス(アセトゾラミドナトリウム)を用いた負荷脳血流シンチグラフィ検査」は最悪だった。

想像をはるかに超えていた。

 

事前に、どこで、どういう機械で、どういう手順でやるのか、どんな痛みがあるのか等、ちゃんと説明してよ。

当日の担当看護師Kさんに聞いたけど、詳しくは検査室の看護師が説明すると言われた。

Kさん、それ、説明になってないから。

 

Kさんからどんな検査か説明がないので不安になって、検査前に「手術の説明は、兄が電話で参加します。明日の場合は〇時以降、もし今日なら〇時以降なら確実に参加できるし、その前でも仕事を調整してなるべく参加すると言っていたと、先生に伝えて下さい」とお願いした。

 

Kさんは、「自分で伝えて下さい」という。

え?T字帯をして全身麻酔をして何枚もある説明書きに同意書が必要な大きな検査なんですよね。

もし伝えられなかったらどうするのかと不安になり、押し問答になった。

 

Kさんが、「全身麻酔じゃなくてずっと意識があるし、この検査で命の危険はほとんどないので、ご安心下さい。

自分でちゃんと伝えられますよ」、などと言えば済んだのに、お互いかなりピリピリした。

 

詳細が全然説明されてないし、ストレッチャーで部屋を出た時から眼鏡がないから全然見えないし、脳血管狭窄で左手に力が入りにくいし、はじめからガクブルだった。

 

明るい部屋で、太ももの付け根に麻酔を注射された。

部屋の中央に大きなモニターがある。

全身麻酔じゃないから意識はあるという。

カテーテルをいれる。

 

機械に入るのではなく、撮影の度に、機械がくる。

息を止めて動くなと言われる。

スタッフが部屋を出る。

撮影する。

 

頭の中の猛烈な強烈な初めて体験する痛み。

痛みで動いてしまう人もいるから、絶対動くなと言われる。

二度とやりたくないと思いながら検査を受ける。

なんだこれ。

 

検査後、ストレッチャーで迎えを待つ。

担当の看護師、Kさんが迎えに来る。

彼女は、細くて、少し長めの茶髪で、眼鏡をかけていて、化粧が濃くて、40代くらい。

検査室の看護師さんが、Kさんにストレッチャーの足元で耳打ちする。

「この患者さんは落ち着きがなくて、精神障害がある様子です」とのこと。

 

いや、眼鏡なし(両目0.06)で、説明なしで、昨日も別の造影剤の検査をしてただでさえ具合が悪いのにこんな検査されたらこんな様子になるだろ。それに聞こえてるし。

 

病室に戻ると、数時間の固定。動くと出血するので、動いてはいけない時間が続く。

検査室の看護師さんに耳打ちされたKさんは、私の話しはいっさい聞かなくなった。

おむつごとテープで重りを固定され、昼食も提供されなかった。

 

そして、Kさんからの一方的な指示に変わった。

 

「腰がつらいので、態勢を変えたいです」

「腰の痛みは10点満点で何点ですか。痛みが強かったら痛み止めを飲みます」

「いえ、痛みではなく、同じ姿勢を続けているために、筋肉のはりがあり、同じ体勢でいることが辛いです。体勢をかえるために、クッションを入れて下さい。鎮痛剤は不要です」

「痛みは何点ですか?」

 

え…、なに…、この日本語が通じない感じ…。

このとき、悪意のある嫌がらせをされているように感じた。

 

拘束時間が終わった後、彼女はドクターに叱られていた。

拘束時間が規定よりずっと長かったからだ。昼食も提供してないし。

不要な苦痛を与えられたので、Kさんからは人権侵害を受けたように思った。

 

拘束時間中、精神科のチームが来た。

精神科医の男性と、女性スタッフ2名。

いつくか質問をされたが、適切に回答した。

Kさんの文句はぐっとこらえて言わなかった。

事態をこじらせても自分が困るだけだし…。

 

廊下でいつも通り話し声が聞こえたが、「特に精神的な心配はないので、治療の不安等をフォローしていく」ということになったようだった。

 

拘束時間が終わって、改めて考えてみると、精神科のスタッフの方に、「脳血管狭窄なのに、看護師さんたちから精神的な疾患だと思われていて、説明が足りなくて、安心して治療を受けられない」ことを話そうと考えた。

 

何故なら、このままではこの病院で手術を受ける気にはとてもなれないから。

「急がないけどもう一度話したい」とナースコールでお願いした。

 

その間に、言語聴覚士さんが、検査ため、病室に来た。

私は検査を受けると言ったが、具合が悪い様子を見て、「今日はやらない」と言われた。

 

それならと、言語の状態の関連で、「雑談として聞いてほしい」とお願いした。

 

「自分は精神的な疾患ではなく、脳血管狭窄の疾病である。体の負担の大きな検査も続いていて、体調が悪い。金曜日に発覚したばかりで、この病気のこともよくわからないし、いつ脳梗塞が起きてもおかしくないと言われていて不安だし、詳しい説明もされていない。金曜日の緊急入院から、ずっと点滴で、ベッドから起き上がってはいけないと言う指示から始まって、毎日指示が変わって、部屋も3回も変わって、説明が少なくて全然分からないし、眼鏡をかけないと見えないから余計に状況が分からなくて不安になる。それなのに看護師さんたちに精神的な疾患の扱いをされて、これでは安心して治療が受けられない。この階であることが原因なら、4人部屋に移ったり、もっと良い個室の階に移ったりすることも考えたい」。

 

泣いてすっきりした。

言語聴覚士さんから、残念なお知らせがあり、「ここは脳外科の病棟で、四人部屋に移っても同じ階で同じスタッフなのであまり環境は変わらないかと…。また、もっと値段の高い個室は病棟にあるわけではないので、手術や治療が必要な状態だと対応が難しいかも知れません…」。

 

なんと、そうだったのか。一般病棟と言われたから、色んな課の患者さんとスタッフさんがいるのかと思ったけど、脳外科の病棟(フロア)だったのか…。

 

看護師さんの気を悪くしたくないから言わないでと伝えたが、すぐに伝わったようだった。

もちろん、「そういうことを予想して悪口を言わずに、言葉を選んで述べますが」と予め伝えていた。

 

その後、Kさんから、「お兄さんとの電話は明日になった」と言われた。

私は、「手術の説明は兄も電話で参加すると全員に伝えてあるので、手術の説明自体が明日になった」と解釈して、兄にその旨を連絡した。

 

その後、Kさんが伝えに来た。

「手術の説明が今日の〇時にあります」。

 

「あれ? さっき、明日になったって言いましたよね?どういうことですか?」

「言ってないです」

 

と、今度はお互い強い口調で、押し問答になった。

同時に、急いで、兄に再リスケの旨を連絡した。

 

Kさんは、「お兄さんとの電話が明日に変更になったと言っただけです。手術の説明については言ってません」と言う。

私は、「兄は手術の説明に、電話で参加すると何度も伝えました。先生も同意しています。何故兄の電話だけ曜日がずれるのですか。それに、手術の説明の日時自体も、事前のあなたの説明と違ってます」と反論した。

 

そもそも、お医者さんから、「ご家族のどなたかに、一緒に説明を聞いてもらってください」と言われたのだ。

 

最初は、「私一人で聞きます」と言ったのだけれど、入院中の説明不足が原因で、不安が募ったため、兄に手術の説明を電話で一緒に聞いてもらうようにお願いした。

 

平日の夕方に、仕事中の兄に、何度も連絡し、何度も予定を変更することになった。

それを平気で言うKさんの神経と、責任逃れする態度に、看護師としての資質と人間性を疑った。

 

Kさんの態度が決め手になり、やはり、一人で手術の説明を聞く気になれなかった。

兄は、脳外科医ではないし、チームの先生たちみたいにエリートではないし、片田舎に住んでいるけれど、一応、医師なのだ。

 

チームの若手の先生が呼びに来た。

ちょうど、Kさんと私の押し問答の最中だった。

 

Kさんは、ドクターを見て、私に対する横柄な態度を少し軟化させた。

その保身の様子にも、少し目を疑った。

 

「お兄さんも時間を再度調整して下さったとのことですし、主治医の先生が既にお待ちなのでとにかく行きましょう」。

 

とチームの若手のドクターに促され、その場をおさめて後に続いた。

 

あとから考えると、Kさんは、悪意があると言うよりも、(年配ではあるけれど)キャリアが浅いのか、看護師の適性が乏しい感じなのかと思う。確かに、動きも、HUCの看護師さんたちに比べて、かなりたどたどしい様子だった。

 

面談室で、検査結果のモニターを見ながら、主治医の先生と話した。

兄はスピーカーホンで参加した。
 

スマホで、ZOOMを繋げば良かったけれど、私にその余裕が無かった。

何度も依頼したけれど、病院側でZOOMのリンクを送ることは出来ないと言われた。

 

ただちに手術をする必要があるのか(薬で改善されないのか)、すぐに手術をする場合でも一時帰宅出来ないのか、などを聞いた。

 

まだ脳梗塞が起きていないけど、ずっと点滴しっぱなしというわけにはいかないし、既に血管が詰まってしまっているので手術が必要であり、明後日を逃すとかなり先まで手術の予定が詰まっているのでだいぶ先になってしまう、とのことだった。

ほんとか…。

 

兄が明後日の手術に同意し、動揺していたが私も同意した。

 

水曜日

 

もう辛い検査はないですよ、と火曜日に主治医の先生は言ったけど、また「試薬を変えての」CTの造影検査があった。

3日連続の造影検査で、具合は最悪だった。

特に、火曜日の造影検査の副作用が重かった。

 

手術の前日くらい、ゆっくり休みたかった。

でも、手術をすると決めたので、怖かったけど気持ちは穏やかだった。

 

術前の言語聴覚の検査も実施。

手術に関する関係書類にサイン。

ストロー付きのコップや、シャンプー等、術前・術後に必要なものを看護師さんに頼んで買ってきてもらう必要があった。

 

前日なので、シャワーを浴びる許可が出た。

シャワーの間だけだけど、心電図モニターと、点滴の管が外れたのは本当に久しぶりで、とてもすっきりした。

 

個室の狭いシャワーで、具合も悪いし、あっという間だったけど、金曜日の朝に自宅でシャワーを浴びて以来だったので、すごく気持ちがよかった。

 

その後、チームの若手のドクターが、翌日の手術の準備で、頭部に油性ペンで記しを付けに来た。

 

手術に持って行く荷物を用意する必要があった。

担当看護師さんが、「自分で準備できないですもんね…」とすごく疲れた様子でボソっと呟いたのが聞こえた。

出来るので、手術の説明書に書いてある用品を、自分でバッグに入れて準備した。

 

「遅くまで大変ですね」と言うと、「あなたをなんとか手術に送り出せるようにしないといけないので…」とボソッと言われた。

 

手術前日に担当してくれた看護師さんに感謝してるけど…。

色々な検査、書類等もあって大変だけど、それは患者も同じなんだけどな…。