それはある春のこと。
私がプライベートで家族に裏切りを受け、ひどくボロボロになった夜中に
珍しく私は、芸術家の彼に
【人生最大に苦しいわ】
と、彼に対して初めて泣き言メールを送った。
【大丈夫、オレがついてる】
と、妙にカッコイイことを言ってくれた。
そんな発言は十年以上で初めてだった。
それも今考えると、私の異様さに気付いたからであろう。
翌日、彼は地方から飛行機でスグ戻った途端、他の女の子とのデート予定を変更して時間を作ってくれた。
大きな出張荷物をかっこよく持ったままの姿で、彼は待ち合わせ場所で待っててくれた。
私はというと…
彼が指定してくれた待ち合わせ場所に、遅れてつつ、朦朧と出向いた。
そして。朦朧としてた私に再会した途端
【今回はキツかったな】
目を合わせず肩を抱いて言ってくれた。
そして何も言わず私をカルティエショップに連れていった。
そしてまた勝手に、
前もって彼が選んでいたらしいリングを店員に出させた。
芸術家の彼らしく、私にリングを付けさせたら、遠くに私を立たせてリングと私のバランスを見て満足そうだった。
高価なリングを買ってもらえるはずはない、そう考えてたら本当に買ってくれた。
そんな芸術家の彼の姿に気付いたショップ店員は、彼に握手を最後に求めてきていたのだが、私はそんな風景をボーっとみていた。
そして食事に言って泣いている私の話を聞いてくれた。
リングは自分なりの精一杯の誠意だったらしい。
そして…帰り道。
【僕の愛人にならない?】
恐る恐るそう言って来た。
プライドの高い彼の精一杯の言い方だった。
なぜならば私は長年の付き合いで、既に彼からこの申し出を2回程頂いてて、納得出来ずに断った…という、過去を私は持っていからだ。
芸能家の彼の【愛人論】は変わっていた。
【自分はあまりお金は出せない。
だけど「芸術」と愛情で君に支払うよ】
というモノだった。
【身体で払う→芸術で払う!】
なんだか表現が面白くて笑ってしまった。
だけども私は実情を知っていた
たとえ多少、名を馳せた芸術家になったとしても、事務所に入ったとしても、実は、そんなにはお金は本人には入らぬという事実を。。
だからこれは
彼なりの虚勢を張った言い方だったのだろう。
そんなことを悟りつつ年月が経過した今…
私は魅力的な申し出だと思うようになっていった。
私はそこそこ有名でもないけど無名でもなくなり、マネージャーまで頂く身分になっていた。
そして普通の女性よりも、自由になるギャラを毎月仕事で頂く身分になっていた。
だから…
彼の芸術的才能に惚れてる私としては…
【愛情と芸術で返すよ】
と言われてうれしかった。
そう、お金は自分で作り出せるいま、自分で自由に買えるもの、シャネルだってブルガリだって。
そう思うようになってフと考えてみると、私は歳を重ねて大人の年代になっていた。
だから私は…
この十年以上の付合いの中で、若い頃は2回も断っていたこの申し出を、了解した形になった。
いや、どちらかというと。
了解したというよりも、黙っていたら勝手に決まってた。というのが正解かもしれない。
芸術家の彼が仕事する場所に、堂々と彼の名前を言うだけでチケットフリー入れることやら
セキリュティチェックの厳しい大きなホールを、彼の名前を言って通してもらう気恥ずかしさ。
そして…
仕事前後に彼の仕事に対して、私は彼から真剣に
【どうかな?】
と、意見を求められる、そんなものを[愛人]として[お金]の代わりに頂いてるのかもしれない。
私にとってそれは[優越感]というより
【彼に認められた】
そのほうがうれしかったりする。
そうして今の私へと続いているのでありました。
そう考えると、私は彼の言う【愛人】なのかもしれない。
実はそれからの私は動きがあり、今、私の指にはその指輪は光っていない。
彼が歴代出演した仕事のパンフレットなどの彼の仕事歴史を入れる戸棚に保管しているのだけれども。
今でも私は彼に感謝をしている。
あの死ぬ位にどん底に落ちてた時の私を
芸術家の彼なりの精一杯の優しい気持ちを指輪に込めて、彼なりにギコチなく私を労ってくれた優しさ。
私は、指輪を見るたびに…
彼に感謝の気持ちを抱くのでありました。
愛情というよりむしろ、人間愛としても深く。
どうやら私も。
彼を信頼していたみたいである。
そう今でも感じてる。
不幸と幸福がいっぺんに、私の元に舞い降りてきた、ある日の想い出でありました。
あの日の出来事があるから
私は今、
確信に満ち溢れる人生を前進しだしている。
そう思うと、全く人生には無駄がない。
私は一生あの日のコトを
あの日の彼の優しさを、一生感謝し続けるだろう。
なぜならば。
あの日から、私は生まれ変わる事が出来たのだから
だから今があるのだと私は切に思うから。
そう思うと芸術家の彼はやはり、私の【神様】だったのかもしれない、誰が何と言おうとも。
そう思うことにして自分を納得させ、そして現在に至るのでありました。
