肝つぶし
学生で盛り上がるイベント。それは夏になればこれという、肝試し。
ベタだとは知っていても、定番になってしまっている。
お墓を徘徊するとか霊のでるスポットに行ってみるとか亡き人を愚弄するかのような振る舞いはいけないのだけれど、つい興味がわいてしまう。
肝試しだから、その人の度胸をためすわけなのに、実際には余りの怖さに耐えかねる人が続出するもの。
でもこの家での肝試しは大分趣旨がずれてしまっている。
単に肝をつぶしたかどうかを確認している感じなのです。
怖がっているのを確かめて、何をみたかが最も価値のあるっていうところです。
だから目的とかあっても何かあれば直ぐにリタイアできてしまう。
その代わり、その何かを確認すると言うことがテーマになっているのです。
何でも代々やっている行事のようで、朋さんがまだ幼かった頃は家の母や徹也おじさんが中心になってしていたといいます。
それでも盛り上がらなかった場合には高校の教員をしている雅子おばさんがその学校の生徒たち、特にダメ軍団と呼ばれる人を呼んで、補習とかなんとか適当な事をいって参加させて、肝試し大会していたとか。
もちろん、全員が完璧にクリアーすることはなく必ず脱落者がでるそうでした。
今回のチーム編成で先頭が双子の兄弟でした。
よーい、スタートの掛け声と同時に一階降りていくふたり。
廊下は朋さんが既に電気を消してしまっていたようで真っ暗でした。
二人は体をくっつけながら恐る恐る進んでいきました。
「わー」「ヒャー」と言う悲鳴が聞こえてきました。
そのたびに朋さんまや俊介さんはニヤついていました。
その内「ありゃ、数分でギブだな」と俊介さんがいいました。
やはりその通りで、二人はどっちが早いかを争うがごとく大急ぎで階段を駆け上がってきました。
「やっぱりな」
鼻息をあらげて肩で息をする二人をみた俊介さんがいうと、今にも泣き出しそうな弟の強がこういいました。
「だって、だって、みたんだもん、絶対あれ死んだじいちゃんだよ」
「そーだよ、ほんとにじいちゃんだよ」
俊介さんは鼻でわらっていました。
「うそじゃいって、ほんとなんだから」
「んだども、どうせ部屋さ障子のガラスさ、人影みでぇのんが写っだどがぁ?」
「しがもぉ、その人影さ、おどろいでぇ、直視できねぇだに、あわてでぇ逆戻りしだのに、勝手におばけだ、たまげただというんでぇねが?」
どうやらその通りで先に進むのが嫌で、恐怖に打ち勝てずもどってしまったらしい。
朋さんもこういいました。
「去年と大差ないわね、まっ、わかってたことだけどね」
本当ならば確認していくべきだけれど、あまりにも早すぎる巡回と昨年の状況と酷似しているのでそのまま次の番と回されました。
次は俊介さんでした。
携帯をポケットに入れて、鏡をぶらつかせながらすたすたと下におりていました。
私は不謹慎ながら、かなり期待していたのです。
私同様、毎年ここにくる度に元気のなくなる彼がどんな状況に陥るのか、私も同じような目にあうのかそんな未知なるものとの駆け引きを勝手に想像してしまっていたのです。
ところが何故かいつになっても戻らない彼。
30分以上も経ちました。
業を煮やした朋さんがさっきの二人に偵察の指令を出したのです。
「えー、やだよー」
二人でそんなことを言い合っていたが「あんた達、ちゃんとやらなかったんだからだめよ。それに、大広間からいけばいいんだから、簡単でしょ?」
渋々二人は下へ降りていきました。
数分後賑やかな声とともに三人一緒に帰ってきたのです。
「なにやってんの、あんた?」
朋さんがあきれかえっていいました。
彼が言うにはこうでした。
下へ降りるや直ぐトイレの方へ行き鏡を合わせながら言葉を告げました。
何もないと最初から解っていた彼はそのまま、台所にいって飲み物を漁っていました。
そこにうちの母がやってきて、よかったらつまみを食べないかと誘われて大広間にはいっていったそうなのです。
その後は携帯のゲームしたり、大人からの質問に応えたり、と時間をつぶしていたそうです。
そこへ双子の兄弟がはいっきて、もじもじしていたので、退屈してるのだなと大人が気を使い宴会に参加させたというわけです。
ちょっと長居しすぎたとばかりに上にあがってきたのだが、気まずいところを、やりすごそうと手土産位を持参したのでした。
お菓子を頬張る双子は「いーだろー」といいながら得意顔をつくって晃にせまってきたのです。
朋さんは相当呆れた様子で、俊介をみていました。
「姉ちゃん、いるげ?」
「いらないわよ、このすっとこどっこい」
「おごるなぁ、べづに、指令さ果たさんでねーだども。んだにさ、鏡さあででぇ、なーんもなきゃそれでえーんでねの?」
「なにいってんのよ、鏡は最後の確認でしょ。家の中の様子を一通り確認して…」
「んだがらぁ、朝も昼も、まして飯さぐっでぇみなして、家におっでからに、調べてでもぉ、もう見てきてたんだからかまわねぇでねぇが?」
「あのね!…もう、全くはなしにならないわ」
呆れる朋さんの様子で、なんとなく意図する事が見えてきました。
家の中を巡回すると言うのはこの家の中に徘徊する何かにアプローチして、注意を引き付ける行為そのもので、とくに、暗がりで誰も居ない廊下を何度も回れば目につきます。
しかも懐中電灯で照らすならばそれだけでも十分です。
不思議な現象の発端が分からずともその発端から導かれる何かが否応なく反応する。
最後に鏡を見るということで、普段目にしない世界を見る。
たしか古い書物には鏡に関することでとても興味深いことが書いてあったといいます。
こちらの世界とあちらの世界。善の面と悪の面。
様々な概念がこの『映る』という行為によって生まれ、世界各地でそういう考え方を導かせている。
祭事や祭祀でつかわれるのは正しい姿を映さんがためといいます。
同時に悪しき心をもったものがさまよえる世界を映すと解釈されその世界を導き出すには鏡同士を合わせることで道が開けるそうなのです。
現世の鏡の効果もさることながら、銅鏡の時代にあったものであればその郷愁とさらにはその鏡自体のパワーによりより迷わず扉に導かれるというのです。
まさにレプリカとはいえ今持っているその鏡で映せば、この家の不思議な現象で度々かんじられる『なにか』が通るきっかけになるはずだと朋さんは考えたのではないでしょうか?
最後に許可です。
まぁもっとも、こちらの世界呼び寄せるのに許可がいちいち必要かどうかはわからないのですが、あなたを待っていますという呼びかけをすれば来やすいだろうということなのかもしれません。
私は、これはすごくまずいことではないかとおもいました。
普通の肝試しならば怖いとか怖くない程度で済みますが、ただでさえ不気味なこの家でわざわざ何かを現世に呼び込むという発想が信じられないのです。
そんなことを考えているうちに手が震えてきてしまいました。
そして朋さんの顔をジッとみつめました。
「しかたないわね。じゃ次、あたしいってくるわ」
発起人でしかも、策を講じている張本人が呼び込むという行為に私は思わず声を出してしまいました。
「ねぇ、朋姉さん、やめない?もう1時間経ってるからお風呂だって入らなきゃならないし」
きりっとしながら朋さんは私の顔をみました。
「冗談でしょ?これからだっていうのに」
私はきっとそういうと思ったのですかさずこういいました。
「だったら私もいく。一緒にいく。それで終わりにしよう?ね?」
「だめよ、晃くん残ってるし。全員がやらなきゃ意味がないでしょう?」
「じゃぁ、朋姉さんがおわったら二人でいっておしまいじゃだめ?」
とにかく早くこんなバカげたことをやめさせようと躍起でした。
「え??怖いの?まぁわからなくはないけど…」
少し考え込んでいる朋さん。
するといままで沈黙していた弟の晃が私たちにこういったのです。
「僕は夜中だって独りでいけるよ。怖くなんかないし。そんなお化けみたいな話は信じてないから。だから二人でもなんでもいいから行けばいいじゃん」
今まで私に見せてきた瞳とは全く異なるような目つきでした。
しかも、言い終わって下を向いた時にすこし笑ったような感じがしてとても不気味でした。
意外な申し出に朋さんは「あっそう?じゃぁいいわ。決まり。ね、まゆみさん、私と行って、最後晃君でおしまい。それにしようか?」
「ん?姉ちゃん、こぇぇだか?」
「そうじゃないわよ。早めに終わらせようってことだけでしょう。大体あんたが下でのんびりしてなきゃこんなことにならなかったんじゃない」
懐中電灯をもつ朋さんのすぐ横にすがるように腕をつかみながら私は階段をおりました。
ギシギシいう音がいつも以上に不気味です。
一階の廊下をてらしました。
玄関に映った光の反射が少しまぶしく目を壁側にうつしました。
年輪がつくる独特の模様と色あせた光沢のなさが無機質な様子にうつり気持ちを余計に落ち込ませました。
縁側に伸びる廊下を右に曲がりさらに明かりを遠くへとばす。
普段はそんなに長く感じない廊下なのにとても長く感じてしまう。
風のせいで雨戸がカタカタ言っていました。
右手の障子のガラスに自分の影を落としながら進む。
なるべく部屋の中を見ないようにしていました。
なにか不気味なものを見てしまうのではと思ったからです。
例の物置部屋までやって来ました。
朋さんは生唾を飲み込みながらその部屋の前に立ち止まりました。
「え?なんで?ここで止まらなくても」
私が小声にそういいました。
「なに、そんな小さな声で言ってるのよ。そういう小声の方が余計に何かを寄せ付けるかもよ。だって聞き取りづらいから近くで聞いてやろうってなるでしょう?」
びくってしました。
何かが来てしまうという心配からではありません。
私が部屋で勝手に憶測していた朋姉さんの考えが読まれたのかと思ったからです。
「寄せ付ける??」
朋さんの顔を思わずみてしまいました。
朋さんはドアノブをガチャガチャまわしました。
「よし」
扉には鍵がかかっていることを確認するとそのまま風呂場に続く廊下の方へ進みました。
時々大人たちの笑い声が聞こえてきます。
それ以外はし~んとしていました。
鏡の前にきました。懐中電灯を持っていてほしいというので私は預かりました。
「え?朋姉さん、次に回ってきた時に合わせ鏡をするんじゃ?」
「そうよ、もちろん。でも今やれば、変化の比較になるでしょう?何もない今と、次に回ってきたときどうなっていたか」
そういうとデニムの後ろのポケットにしまっておいた携帯電話を取り出しました。
「それでこれをとって」
証拠写真でした。
なんでそんなに慎重にしかも確証を持たせるようなことをしたいのか、そもそもかなりのこだわりに私は意味が分からなかったのです。
2週目に入りました。
また倉庫の部屋の前に来て同じようにドアノブに手をまわしました。
なんとなく空気が重くなった気もしました。
期待を裏切るかの如く扉はしかり締っていました。
少しため息をつく朋さん。
「鍵もしあいてたらこわいじゃないですか?」
私はそういうと「よかったってう意味よ」と返してきました。
「あっそうか」
落胆ではなくホットしたわけです。
また風呂場側の廊下へ進みます。
途中までいくと、私たちの後ろの方で、ギギギィと扉が開くような音が聞こえました。
朋さんもその音に気が付き、懐中電灯をその方向へ向けました。
それだけではありません。
私のにの腕をぎゅっと握りながら、「今、音したわよね?空耳じゃないわよね?」と確認してきました。
私は怖くなって「ねぇやめよう、おわりにしよう」といいました。
すると今音がした方向へ戻ろうとするのです。
足がすくむ私は首を左右にふり抵抗しました。
「逆戻りするなんて言ってなかったじゃない。やめようよ」
「いいわ、私一人でいくから待ってて」
そっちのほうが余計に怖い。
仕方なくおそるおそる後ろにしがみついてついていきました。
音のしたところは確かに物置部屋です。
でも扉はさっきと同じように閉ざされています。
朋さんはさっき触ったドアノブを触りました。
ガチャガチャ…
やはり鍵は閉まったままでした。
二人で目を合わせて恐怖心を打ち消そうとしました。
「あいたわけでもないから、絶対にないもない!なにもない!」
珍しく朋姉さんも怖かったようです。
そして風呂場の手前にある鏡の前にきました。
また持っていてというので懐中電灯をもって朋さんの手元を照らしました。
目尻に違和感をおぼえ鏡に目線を移すと、鏡の一部が曇っているのがわかりました。
「朋姉さん、朋姉さん、あれあれ!」
私は懐中電灯を照らしてそこを指さしました。
朋さんはうなずきながら「お風呂場の熱気だからそうなっただけよ」と私をたしなめました。
手にした鏡を合わせながらとうとう彼女は言葉を発したのです。
『御身玉、御身玉、この家に宿りし魂よ、我は阻まん。この鏡より開放せしむ、時の渦にてあらわんことを』
ゆっくりとはっきりと彼女の口からその言葉がでました。
私は何が起きるのかとても不安でなりませんでした。
学生で盛り上がるイベント。それは夏になればこれという、肝試し。
ベタだとは知っていても、定番になってしまっている。
お墓を徘徊するとか霊のでるスポットに行ってみるとか亡き人を愚弄するかのような振る舞いはいけないのだけれど、つい興味がわいてしまう。
肝試しだから、その人の度胸をためすわけなのに、実際には余りの怖さに耐えかねる人が続出するもの。
でもこの家での肝試しは大分趣旨がずれてしまっている。
単に肝をつぶしたかどうかを確認している感じなのです。
怖がっているのを確かめて、何をみたかが最も価値のあるっていうところです。
だから目的とかあっても何かあれば直ぐにリタイアできてしまう。
その代わり、その何かを確認すると言うことがテーマになっているのです。
何でも代々やっている行事のようで、朋さんがまだ幼かった頃は家の母や徹也おじさんが中心になってしていたといいます。
それでも盛り上がらなかった場合には高校の教員をしている雅子おばさんがその学校の生徒たち、特にダメ軍団と呼ばれる人を呼んで、補習とかなんとか適当な事をいって参加させて、肝試し大会していたとか。
もちろん、全員が完璧にクリアーすることはなく必ず脱落者がでるそうでした。
今回のチーム編成で先頭が双子の兄弟でした。
よーい、スタートの掛け声と同時に一階降りていくふたり。
廊下は朋さんが既に電気を消してしまっていたようで真っ暗でした。
二人は体をくっつけながら恐る恐る進んでいきました。
「わー」「ヒャー」と言う悲鳴が聞こえてきました。
そのたびに朋さんまや俊介さんはニヤついていました。
その内「ありゃ、数分でギブだな」と俊介さんがいいました。
やはりその通りで、二人はどっちが早いかを争うがごとく大急ぎで階段を駆け上がってきました。
「やっぱりな」
鼻息をあらげて肩で息をする二人をみた俊介さんがいうと、今にも泣き出しそうな弟の強がこういいました。
「だって、だって、みたんだもん、絶対あれ死んだじいちゃんだよ」
「そーだよ、ほんとにじいちゃんだよ」
俊介さんは鼻でわらっていました。
「うそじゃいって、ほんとなんだから」
「んだども、どうせ部屋さ障子のガラスさ、人影みでぇのんが写っだどがぁ?」
「しがもぉ、その人影さ、おどろいでぇ、直視できねぇだに、あわてでぇ逆戻りしだのに、勝手におばけだ、たまげただというんでぇねが?」
どうやらその通りで先に進むのが嫌で、恐怖に打ち勝てずもどってしまったらしい。
朋さんもこういいました。
「去年と大差ないわね、まっ、わかってたことだけどね」
本当ならば確認していくべきだけれど、あまりにも早すぎる巡回と昨年の状況と酷似しているのでそのまま次の番と回されました。
次は俊介さんでした。
携帯をポケットに入れて、鏡をぶらつかせながらすたすたと下におりていました。
私は不謹慎ながら、かなり期待していたのです。
私同様、毎年ここにくる度に元気のなくなる彼がどんな状況に陥るのか、私も同じような目にあうのかそんな未知なるものとの駆け引きを勝手に想像してしまっていたのです。
ところが何故かいつになっても戻らない彼。
30分以上も経ちました。
業を煮やした朋さんがさっきの二人に偵察の指令を出したのです。
「えー、やだよー」
二人でそんなことを言い合っていたが「あんた達、ちゃんとやらなかったんだからだめよ。それに、大広間からいけばいいんだから、簡単でしょ?」
渋々二人は下へ降りていきました。
数分後賑やかな声とともに三人一緒に帰ってきたのです。
「なにやってんの、あんた?」
朋さんがあきれかえっていいました。
彼が言うにはこうでした。
下へ降りるや直ぐトイレの方へ行き鏡を合わせながら言葉を告げました。
何もないと最初から解っていた彼はそのまま、台所にいって飲み物を漁っていました。
そこにうちの母がやってきて、よかったらつまみを食べないかと誘われて大広間にはいっていったそうなのです。
その後は携帯のゲームしたり、大人からの質問に応えたり、と時間をつぶしていたそうです。
そこへ双子の兄弟がはいっきて、もじもじしていたので、退屈してるのだなと大人が気を使い宴会に参加させたというわけです。
ちょっと長居しすぎたとばかりに上にあがってきたのだが、気まずいところを、やりすごそうと手土産位を持参したのでした。
お菓子を頬張る双子は「いーだろー」といいながら得意顔をつくって晃にせまってきたのです。
朋さんは相当呆れた様子で、俊介をみていました。
「姉ちゃん、いるげ?」
「いらないわよ、このすっとこどっこい」
「おごるなぁ、べづに、指令さ果たさんでねーだども。んだにさ、鏡さあででぇ、なーんもなきゃそれでえーんでねの?」
「なにいってんのよ、鏡は最後の確認でしょ。家の中の様子を一通り確認して…」
「んだがらぁ、朝も昼も、まして飯さぐっでぇみなして、家におっでからに、調べてでもぉ、もう見てきてたんだからかまわねぇでねぇが?」
「あのね!…もう、全くはなしにならないわ」
呆れる朋さんの様子で、なんとなく意図する事が見えてきました。
家の中を巡回すると言うのはこの家の中に徘徊する何かにアプローチして、注意を引き付ける行為そのもので、とくに、暗がりで誰も居ない廊下を何度も回れば目につきます。
しかも懐中電灯で照らすならばそれだけでも十分です。
不思議な現象の発端が分からずともその発端から導かれる何かが否応なく反応する。
最後に鏡を見るということで、普段目にしない世界を見る。
たしか古い書物には鏡に関することでとても興味深いことが書いてあったといいます。
こちらの世界とあちらの世界。善の面と悪の面。
様々な概念がこの『映る』という行為によって生まれ、世界各地でそういう考え方を導かせている。
祭事や祭祀でつかわれるのは正しい姿を映さんがためといいます。
同時に悪しき心をもったものがさまよえる世界を映すと解釈されその世界を導き出すには鏡同士を合わせることで道が開けるそうなのです。
現世の鏡の効果もさることながら、銅鏡の時代にあったものであればその郷愁とさらにはその鏡自体のパワーによりより迷わず扉に導かれるというのです。
まさにレプリカとはいえ今持っているその鏡で映せば、この家の不思議な現象で度々かんじられる『なにか』が通るきっかけになるはずだと朋さんは考えたのではないでしょうか?
最後に許可です。
まぁもっとも、こちらの世界呼び寄せるのに許可がいちいち必要かどうかはわからないのですが、あなたを待っていますという呼びかけをすれば来やすいだろうということなのかもしれません。
私は、これはすごくまずいことではないかとおもいました。
普通の肝試しならば怖いとか怖くない程度で済みますが、ただでさえ不気味なこの家でわざわざ何かを現世に呼び込むという発想が信じられないのです。
そんなことを考えているうちに手が震えてきてしまいました。
そして朋さんの顔をジッとみつめました。
「しかたないわね。じゃ次、あたしいってくるわ」
発起人でしかも、策を講じている張本人が呼び込むという行為に私は思わず声を出してしまいました。
「ねぇ、朋姉さん、やめない?もう1時間経ってるからお風呂だって入らなきゃならないし」
きりっとしながら朋さんは私の顔をみました。
「冗談でしょ?これからだっていうのに」
私はきっとそういうと思ったのですかさずこういいました。
「だったら私もいく。一緒にいく。それで終わりにしよう?ね?」
「だめよ、晃くん残ってるし。全員がやらなきゃ意味がないでしょう?」
「じゃぁ、朋姉さんがおわったら二人でいっておしまいじゃだめ?」
とにかく早くこんなバカげたことをやめさせようと躍起でした。
「え??怖いの?まぁわからなくはないけど…」
少し考え込んでいる朋さん。
するといままで沈黙していた弟の晃が私たちにこういったのです。
「僕は夜中だって独りでいけるよ。怖くなんかないし。そんなお化けみたいな話は信じてないから。だから二人でもなんでもいいから行けばいいじゃん」
今まで私に見せてきた瞳とは全く異なるような目つきでした。
しかも、言い終わって下を向いた時にすこし笑ったような感じがしてとても不気味でした。
意外な申し出に朋さんは「あっそう?じゃぁいいわ。決まり。ね、まゆみさん、私と行って、最後晃君でおしまい。それにしようか?」
「ん?姉ちゃん、こぇぇだか?」
「そうじゃないわよ。早めに終わらせようってことだけでしょう。大体あんたが下でのんびりしてなきゃこんなことにならなかったんじゃない」
懐中電灯をもつ朋さんのすぐ横にすがるように腕をつかみながら私は階段をおりました。
ギシギシいう音がいつも以上に不気味です。
一階の廊下をてらしました。
玄関に映った光の反射が少しまぶしく目を壁側にうつしました。
年輪がつくる独特の模様と色あせた光沢のなさが無機質な様子にうつり気持ちを余計に落ち込ませました。
縁側に伸びる廊下を右に曲がりさらに明かりを遠くへとばす。
普段はそんなに長く感じない廊下なのにとても長く感じてしまう。
風のせいで雨戸がカタカタ言っていました。
右手の障子のガラスに自分の影を落としながら進む。
なるべく部屋の中を見ないようにしていました。
なにか不気味なものを見てしまうのではと思ったからです。
例の物置部屋までやって来ました。
朋さんは生唾を飲み込みながらその部屋の前に立ち止まりました。
「え?なんで?ここで止まらなくても」
私が小声にそういいました。
「なに、そんな小さな声で言ってるのよ。そういう小声の方が余計に何かを寄せ付けるかもよ。だって聞き取りづらいから近くで聞いてやろうってなるでしょう?」
びくってしました。
何かが来てしまうという心配からではありません。
私が部屋で勝手に憶測していた朋姉さんの考えが読まれたのかと思ったからです。
「寄せ付ける??」
朋さんの顔を思わずみてしまいました。
朋さんはドアノブをガチャガチャまわしました。
「よし」
扉には鍵がかかっていることを確認するとそのまま風呂場に続く廊下の方へ進みました。
時々大人たちの笑い声が聞こえてきます。
それ以外はし~んとしていました。
鏡の前にきました。懐中電灯を持っていてほしいというので私は預かりました。
「え?朋姉さん、次に回ってきた時に合わせ鏡をするんじゃ?」
「そうよ、もちろん。でも今やれば、変化の比較になるでしょう?何もない今と、次に回ってきたときどうなっていたか」
そういうとデニムの後ろのポケットにしまっておいた携帯電話を取り出しました。
「それでこれをとって」
証拠写真でした。
なんでそんなに慎重にしかも確証を持たせるようなことをしたいのか、そもそもかなりのこだわりに私は意味が分からなかったのです。
2週目に入りました。
また倉庫の部屋の前に来て同じようにドアノブに手をまわしました。
なんとなく空気が重くなった気もしました。
期待を裏切るかの如く扉はしかり締っていました。
少しため息をつく朋さん。
「鍵もしあいてたらこわいじゃないですか?」
私はそういうと「よかったってう意味よ」と返してきました。
「あっそうか」
落胆ではなくホットしたわけです。
また風呂場側の廊下へ進みます。
途中までいくと、私たちの後ろの方で、ギギギィと扉が開くような音が聞こえました。
朋さんもその音に気が付き、懐中電灯をその方向へ向けました。
それだけではありません。
私のにの腕をぎゅっと握りながら、「今、音したわよね?空耳じゃないわよね?」と確認してきました。
私は怖くなって「ねぇやめよう、おわりにしよう」といいました。
すると今音がした方向へ戻ろうとするのです。
足がすくむ私は首を左右にふり抵抗しました。
「逆戻りするなんて言ってなかったじゃない。やめようよ」
「いいわ、私一人でいくから待ってて」
そっちのほうが余計に怖い。
仕方なくおそるおそる後ろにしがみついてついていきました。
音のしたところは確かに物置部屋です。
でも扉はさっきと同じように閉ざされています。
朋さんはさっき触ったドアノブを触りました。
ガチャガチャ…
やはり鍵は閉まったままでした。
二人で目を合わせて恐怖心を打ち消そうとしました。
「あいたわけでもないから、絶対にないもない!なにもない!」
珍しく朋姉さんも怖かったようです。
そして風呂場の手前にある鏡の前にきました。
また持っていてというので懐中電灯をもって朋さんの手元を照らしました。
目尻に違和感をおぼえ鏡に目線を移すと、鏡の一部が曇っているのがわかりました。
「朋姉さん、朋姉さん、あれあれ!」
私は懐中電灯を照らしてそこを指さしました。
朋さんはうなずきながら「お風呂場の熱気だからそうなっただけよ」と私をたしなめました。
手にした鏡を合わせながらとうとう彼女は言葉を発したのです。
『御身玉、御身玉、この家に宿りし魂よ、我は阻まん。この鏡より開放せしむ、時の渦にてあらわんことを』
ゆっくりとはっきりと彼女の口からその言葉がでました。
私は何が起きるのかとても不安でなりませんでした。