十
学校の授業、そして休み時間と全く元気のない姿に友達も心配した。
「おやじさん、どうだったの?」
いつも一緒に登校してきていた友人、田上が心配して誰よりも先に近寄った。
「分からないんだそれが……」
なんとも頼りない返事である。シュウもずうっと考えてはいたのだが、自分の頭の中で処理しても元の場所に戻るだけなのだ。
空耳と父の関係。
何故聞こえるかも分からない。また、何故自分にも聞こえたのかさえ分からない。
「田上さ、耳鳴りって分かる?」
当てにはしていないが、問題の突破口を何とか作りたいとその言葉が自然に口から出た。
彼もとっさの質問に首を傾けた。
「なんだそれ。普通にあることじゃないの?トンネルに入った瞬間とかさ」
「いや、そういうのじゃなくって、何か声のようなものが一緒に聞こえたりする、そんな感じのなんだけど」
「空耳ってやつ?経験はないなぁ。それが今回のと関係してるの?」
「あぁ。僕も、父さんもそれに、亡くなった母さんも聞いたんだ。父さんは昨日も聞いたらしい。よっぽどひどかったみたい」
「そっか……」
「なんか」
「何?」
「何か祟りなのかなってさ、考えちゃうんだよね。気の回しすぎかもしれないけど」
「デスコン(デスクコンピューター)で調べてみたら?」
「いや、普通の検索程度じゃ医学の話しで終わるからだめだよ」
二人の会話に別の仲間が加わった。
「シュウノカゾクニ、タタリ?アクリョウデモ、ツイテルッテ?」
「茶化すなよ。こいつ真剣なんだから」
「チガウヨ、ソンナツモリナイシ。ネェ、シッテル?ニホンノゲンゴウデ、ショウワノジダイガアッタデショウ。ソノコロワダイニナッタ、『オカルト』」
「そうだ、お前ってホラーオタクだったもんな」
アメリカ国籍のある生徒が詳しく説明してくれた。
「『イヌガミノタタリ』ッテイウノガアルンダケド。ナンデモ、『コジュツ』トカイウ、ノロイヲ、イヌニカケテ、シラズシラズニソノオンネンヲトリツカセルンダッテサ。トリツイタヒトハ、シュウイノヒトニキガイヲアタエテイクッテイウンダ」
「じゃ、シュウんちが犬神に取り憑かれたっていうのかい?なんでそんな呪詛をしなきゃならねぇんだ?」
「イヤ、ベツニソノカミダケニカギッタコトジャナイヨ。ガイコクトチガイ、ニホンハサマザマナカミガシュウゴウシテ、スガタヲカエテイルデショウ?イヌガミハ、ソノイチレイニスギナイッテイウコトサ」
「それじゃ、意味なくないか?」
「タダキョウツウシテイルノハ、カミヲソマツニシタリ、ドコカデカミヲブジョクスルヨウナコトヲシタトカ。モシクハスウハイスルタイショウデハナイノニソレヲ、キョウミホンイデ、カカゲテイルトカ」
シュウはその言葉にピンと来た。
確かに父はトレジャーハントの仕事で、仏神に関る品々を引き上げていたからだ。だが、その宝はことごとくカークが管理するか、博物館に収めているはずであった。
父にはそう聞かされていたのである。
例の理事長の息子が、興味深そうな顔で割って入った。
「シラベテミルカイ?」
シュウもその言葉に反応した。机上で判断していても埒が明かないのだが、かといって無計画にその辺の大人に聞いてまわっても結果は得られない。
調べるすべを知っているというのならこの際試してみる価値は十分にあるわけである。
「どうやって?」田上が不思議がっていると、彼は「マァ、ホウカゴ、トショシツニキテヨ」といったなり自分の席についてしまった。
シュウに田上と理事長の息子が図書室にいた。他には大学進学を決めた生徒たちが調べ物をしながら学習する姿があった。
図書室には蔵書と呼ばれるものが多くある。高校としてはかなりの書籍が保管されてあり、持ち出し禁止以外では自由に閲覧ができた。
ほとんどが先代の校長の趣味で、各地から集められたものであった。
古本の独特の匂いが鼻をつく。円卓がいくつもある広間を素通りすると、自習室とかかれた札の前についた。オーディオルームが一体となった部屋で同じような作りが二つ用意されていた。
一つは英語の補習などでよく使われるリスニングルームである。今では補修する生徒はほとんどいないが名目上そう呼ばれていた。
もう一つは教育実習生などの控え室として利用されていた。
あいにく実習生の予定は全くないため閉まったままである。
「そういえばシュウの幼馴染にお姉ちゃんがいてこの部屋よくつかっていたよな?それ以来じゃないこんなとこくるの」
確かにそうだ。今はその幼馴染とも離れ離れになり連絡すら取っていなかった。
「史ちゃんか……」その話題が出るまですっかり忘れていた。
そんな会話をよそに、カナダ人の彼が扉を開けた。
「ハイルヨ」
一体何をしようとしているのか聞かされていない二人はついていくだけである。
そして部屋に入るなりカーテンを閉め切った。
勝手を知ったように彼はデスコンの一つを立ち上げた。
そして今度は二人に少し後ろを向いていてくれと頼んだのである。どうやら見られたくない操作をするようだ。
静かに指を這わせる気配だけを残して時間が過ぎた。
「オマチドウ」
シュウは何も変わった様子が認められないオーシャンスクリーンを面妖な顔で見つめていた。
田上の方は操作をしていたと思われる机の上に不正を嗅ぐような視線を落としていた。
「ハッキングサ」田上の目を見てそう告げる。
「センモンショヤ、コッカレベルノジョウホウヲミルトキハ、ミンナツカウノサ」
シュウが調べたいと思っている内容は確かに普通の電子辞書程度の検索ページでは見つけられないだろう。かといって大げさすぎやしないかと思った。
ハッキングといえば情報化社会にはびこる悪用侵入のことである。コンピュータを介したデーター処理の改ざんや違法ダウンロードなどが主だったものでかなり深い知識がなければ出来ない。不正をしてまで見なければならない内容とは考え難たかったのである。
「そこまでするのか?」
シュウの問いに「コワクナッタノカイ?ソレニコノホウホウデ、ヨクココニキテエツランシテイルケド、イママデミツカッタタメシガナイカラ。ジョウホウハ、ソノレキシヤソノヒトノヒミツトイエルダロウ。フツウデミレナイノハミセタクナイカラデアッテサ。シュウシュウニハリスクガトモナウモノサ」とあっさり答えた。
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