小説そのうちでます-神秘


『セミ』


少し前にセミの抜け殻なる写真を掲載したが、今朝は、朝日の、既に空気が暖められたそれと共に、顔に張り付くような日差しの中で珍しいものと出合うことができた。


神秘との接触。


日光に浴するその体はまだ未完成の作品である。

瞳が黒いのは彼が静を選んだこの瞬間に、ひたすら落ち着いて進化を待つために用意された、必然のまぶたである。

もし白の、あるいは透明の瞳を有しているならば、既に物が見えてしまい穏やかにはなれないであろう。

彼にとっては今が夜なのである。

そして、時折吹く丁度良い自然のドライヤーがふやけた全身を乾かすのである。

硬い鎧へと変貌するまでの時間は、だから見えてはいけないのである。


どうしてこのような、段階、段取りめいた順序を用意したのであろうか。

手っ取り早く卵が割れて、動き出すような生き物に何故作られなかったのであろうか。


それこそが神秘の入り口なのだと男は思った。


今日のめぐり合わせに、朝日はそのまぶしさを二つの額へ落とした。