小説そのうちでます-カマキリ


『蟷螂』

子供が生まれてから、こんなに子煩悩だったのかと人に驚かれることがある。30を過ぎてからの子供だからか何なのか、自分でも分からない。

特別意識したここがない。

ただ、命一杯遊ぶことが大好きだ。

しょっちゅう叱りつける親であるのに、子供達は纏わりついて離れようとしない。

だから、こちらも容赦なく遊ぶ。周りの人はだから、映画「ミセスダウト」のシーンを見ているようだという。


家族サービスを良くする旦那という人もいるが、そんなつもりはない。

サービスとは奉仕だ。奉仕とは必ず損得の気持ちが込められる。嫌な気持ちでも無理して遣えるのが奉仕だ。素直に携わる時も奉仕だ。

だから言われるのが嫌なのである。


必死に遊ぶそれだけである。


男はその姿を自分で振り返ったとき、昔一生懸命サンドバックを叩いた頃のことを思い出した。

両手をそれぞれ何かつまむような恰好にこしらえる。そして腰を低くし片方の足のつま先に力を入れたままそっと前に出す。

中国拳法の蟷螂拳である。

手の甲を使いそのサンドバックめがけて勢いよ繰り出す。

乾いた音がすると、反対の甲でもう一度同じところを突く。

何度も繰り返したのであろう、そこだけ色が変わりへこんでいた。


後から「もう少し丹田を使って腕を出さないとだめだ」という言葉をかけてくれる人がいた。

男のことを面倒見てくれた青年である。真剣なまなざしと真剣な表情。奉仕などというやさしいものではもはやなかった。