小説そのうちでます


『毒』

世の中で嫌いなものの一つが毒蛇である。

植物は手に取らなければ害はないと勝手に思う。

しかし、動物はそうもいかない。

向うから現れる危険があるからだ。

そもそも、彼等の住む世界に入っていく人間が、その姿勢がいけないのだが、止む負えず入らなければならない場合もある。


子供のころ知ったのはヤマカガシ(緑や赤や黒が混ざり合ったにぎやかな色の蛇)も奥歯に恐ろしい毒があること。

だが、やはり一番怖いのはマムシである。

その被害の報告を聞けば聞くほど、身の毛がよだつ。


男は自分の娘にも注意するように行っていた。娘は幼稚園で蛇が出てくる絵本を先生に読んでもらった時に「蛇はだめ!」と泣き叫び中断させたことがある。

その話を後で聞かされ、申し訳ないことをしたと反省した。


しかし、そうはいっても、蛇に対する注意は怠らない。

沢に入るときも、あるいは山菜を取りに里山に入るときも、始終足元を気にしている。

道路に戻った時、足首に違和感があったときなどは、こっそり噛まれたのではないかとびくびくして靴を脱ぐほどである。


本当に恐ろしいのは、なにか、男は省みずこの夏もまた、毒牙を忍ばせる蛇に出会いそうな場所とは知らずに山に入っていた。