どよう
小説そのうちでます-うなぎ


『うなぎ』

土用の丑の日はうなぎのほかにシジミもあるとこの歳になって知った。

いずれも夏の暑い盛りに、太陽光から奪われる生命の活力を回復させる手助けとなるには変わらない。


彼はかつて魚屋の手伝いをしたことがある。といっても本格的なところではなく、スーパーの一角に設けられた鮮魚コーナーの仕事である。


その中でさばかれた魚をパック詰めにしたり、仕入れられた魚を陳列したり、新鮮な氷を常につくってショーケース内を冷やしたりと仕事はいっぱいある。


男が一番したかった仕事はもちろん、魚を捌くことである。中でも大きなカツオやハマチを三枚におろし、細かな骨をとった上で刺身にして盛り付ける。その技を憧憬の眼差しでみながらいつか自分もやってみたいと思っていたものである。


「一度やってみるか?」と店主に言われたときはのどまででかかった。

「はい」と言ってしまいたかったのだ。

しかし、その度胸がまるでない。理由は失敗したら、弁償しなければならないと勝手に思ってしまっていたし、なによりも魚に申し訳ないと思ったからである。


それから、男は、自分でも出来ることを探した。


そう、その日はうなぎを一年に一番売る日だったのだ。


うなぎを捌く店主に「串は僕がさします」と申し出た。

当然一匹を焼くのではない。小さければ二等分、大きければ三等分に身を切り分けてから串に刺す。

男はその切り分けまで任せて欲しいといいたかったのである。


店主は「よし、やってみろ」といって、出刃を渡した。

丁寧にその刃の研ぎ方を教えた。

見よう見真似で研ぐその姿は、板前に成長するかもしれない、そんな真剣さを見せていた。

そして、うなぎのそのふっくらとした透明な身にためらいなく刃を引く店主の手さばきを少しも逃さず見つめた。


「いいか、皮から身がはがれないように一気にだぞ」


等分目なるものを自分で図ってから、男は刃を身の上から手前に引いた。

その感触が今でも残っている。