小説そのうちでます-チャーシュー


『チャーシュー』


これにまつわる思い出はとても浅い。

一昨年から自家製でやっている。

きっかけは、市販のものを食した時の物足りなさ。そしてなんといってもラーメンの上に乗せてある、お店ごとの異なる味わい深さに近づきたいと思ったことだ。


想像してみる。鹹水の茹で上がる独特のにおい。そして、様々な出汁、魚の中でも濃い味で少しクセのあるサバやトビウオ、はたまた、ニワトリのとさかやもみじをじっくりと煮込み、別鍋でゲンコツをぐらぐらと茹で上げている。それらを絶妙な配分で混ぜ合わせたスープの香りが街中を漂い、通行人の空いた胃袋を刺激していく。

ある者は、散点する暖簾の中からその確かなありかを探し、あるものはマップなるもので位置を定める。


今やどの店も自己主張する一品を提供しようと躍起である。食べる側もその個性を受け止めてやるとばかりの姿勢がある。

両者の駆け引きの中、ひっそりとだが、自分の位置をわきまえているものがある。


それでも決して卑下することはない。むしろ脇役ながら堂々とした陰の立役者だ。


一枚しか乗せられていない場合にはスープを啜るときに邪魔にならない位置におき、あくまでも趣味に興じるがごとく味を確かめ、ニ枚ならばその奥深さに陶酔するべく最初に味わう。
当たり、はずれはあれど、それは確かに受けて側の心を真の意味で玩んでくれるかわいい存在なのだ。

男はだから、こだわった。
スープをそのためにこしらえ、醤油ダレを彼のためにと手間をかけた。手間のかけようは涙ぐましいほど凝っていた。煮詰めすぎず香りとコクが出るようにと何度も寝かせた。


たった1キロにも満たないその塊。贅沢な寝床は、肉を入れられるたびに新鮮な醤油が注がれて常にまろやかさをだす。


そしてついに今日も漆黒の漬けダレの中から姿を表わした。うまみの詰まったそれは、焼きが入れられ本来の味わいを閉じ込められた上に、脂の照りをだし、醤油のえも言われぬ香りを立ち上らせていた・・・