僕はいつも通り会社に行き興味のない仕事を自分のデスクで始めた。
やらなければいけない安藤から押し付けられた仕事をすべて終わらせ帰宅しようとしたその時僕デスクに大量の書類が置かれた。
「これ明日までによろしく」
書類を持ってきたのは安藤だった。
「え…安藤さん、これ明日までにですか?」
「コネで会社に入ったんだからこれくらいやってくれるよな?」
「でもさすがにこの量は…」
「おーい安藤!何してんだ行くぞー」
部長がドアのところで安藤を呼んでいる。
たぶん二人でどこかへ飲みに行くのだろう。
「はーい!今行きまーす!じゃあ頼んだぞ、新人君」
「…はい」
今日も僕の残業が決まった。
僕は仕方なく書類に目を通す。
一人また一人と社員が帰っていき、ついに会社に僕一人になってしまった。
僕は目が疲れてしまったので休憩を取ることにしようと思い少し目を瞑った。
僕は気が付くと眠ってしまっていて机の上で目が覚めた。
そして僕は目を覚ましてすぐにまだ安藤に押し付けられた仕事を終わらせていないことに気づき、まずいと思い時計を見た。
もう深夜の2時だった、早く終わらせなければ。
そう思い書類に手を伸ばし続きにとりかかろうとしたその時ドアのほうで物音がした。
こんな時間に会社にいる人はいなるはずがないので僕は不審者が会社に入ってきたのではないかと思い少し不安になった。
「誰ですか…?」
僕はドアのほうに問いかけてみた。
返事が返ってこなかったので僕はさらに不安になった。
僕は恐る恐るドアに近づき勢いよくドアを開けるとなんとそこには僕の大好きだったピンク色のあいつがそこにいたのだ。
「おいらおいらーーー!!!」
僕はとても驚いた。
「お、おいらおいら!?なんでこんな所にいるんだ!」
僕は自分でもこんなに大きな声出せたんだと思うような声を出してしまった。
「君に会いにきたのさ!」
おいらおいらはそういうと僕の周りまわりながら見たこともない動きのダンスを踊り始めた。
僕は突然の出来事に頭が回らず少しの間ぼーと立ち尽くしてしまった。
そのあとだんだんと久しぶりに会えた嬉しさとたくさんの話したいことが頭にあふれてきた。
どこから何を話せばいいか考えたらふとあの忌々しい山積みになっている書類のことを思い出し、嫌味を言う安藤の顔が頭に浮かんだ。
「ひさしぶりだね!会えてうれしいなぁ!今日は一緒にたくさんあそぼー!」
おいらおいらは何も曇りのない純粋な目で僕に言った。
「おいらおいら、僕も会えて本当にうれしいよ!君と話したいことがたくさんあるんだけど、ちょっと1時間くらい待っていてくれないかな!?僕明日までにこれを片付けなきゃいけなくって、急いで終わらすよ!」
僕は書類を指さしておいらおいらに見せた
「これをどうするのー?」
「これを明日までにまとめるんだ」
「ふーん。それって楽しいの!?」
「楽しくなんてないよ。でもやらなきゃいけないんだ」
「なんだつまんないのか。どうしてたのしくないのに君はそんなことするの?」
「それは…しょうがないんだ、大人になると自分が生きていくためには楽しくないことをやらなきゃいけなくなるものなんだよ」
「でも、ここには君しかしないよ?他のみんなはまだ大人じゃないの?」
「それはその…いいんだよ、しょうがないんだ」
僕はどう説明すればいいかわからず、おいらおいらからの質問をはぐらかすように机に座り作業を始めた。
「ふーん。大人って不思議だなぁ」
おいらおいらは不思議そうな顔をして書類をまとめる僕のほうを見ている。
「ぼくも手伝うよー!」
おいらおいらが書類の山を持っていこうとした。
「だめだよ!間違えたら安藤さんにまた怒られちゃう」
「あんどうさん?って?お友達?」
「お友達じゃないよ、安藤さんは僕の上司の人だよ」
「じょうしって?」
「僕よりも偉い人のこと」
「どうしてあんどうさんは君よりも偉いのー?」
「どうして…?それは…僕よりも年上だし、僕は新人だから」
「としうえだとどうして偉いの?」
「それは…そーいう風になってるんだよ」
僕はまたなんて言っていいのかわからなくなり、はぐらかすようにおいらおいらから書類を取り上げ作業に戻った。
「ふーん、大人はやっぱり不思議だなぁ」
おいらおいらから視線を感じる。
「ねえねえ!むかし僕に教えてくれた手押し相撲しようよ!今度はまけないよ!」
おいらおいらが急に嬉しそうに僕に言ってきた。
手押し相撲は小学生だったころ学校で知っておいらおいらに僕が教えた遊びだった。
毎回勝負するたび僕が勝っていて、時々わざと負けておいらおいらを喜ばせていた。
「おいらおいら、今ちょっと忙しいからあとでね」
「今がいいんだよーやろうよお願い」
「だめあとで」
「…」
おいらおいらは機嫌を損ね、ふてぶてしい顔でこちらを睨みつけてきた。
こうなるともうどうしようもないことは昔から知っていた。
「しょうがないな…一回だけだよ」
「おいらー!」
僕とおいらおいらは向かい合わせに立ち勝負が始まると、おいらおいらは一生懸命僕の手を押してきた。
だがおいらおいらの姿はあの頃のままで小学生くらいの身長であるため170cm以上の身長になった僕には全く通用しなかった。
僕はしばらくしてからおいらおいらの手を強めに押して勝負を終わらせた。
「わぁ!」
おいらおいらがしりもちをついた。
「はい、僕の勝ち、おしまい」
「やっぱり君は強いなー!すごいなー!」
僕は机に戻り作業を再開した。
「たのしかったー?」
おいらおいらが聞いてきたので僕は作業をしながら片手間に答える。
「はいはい楽しかったから、少し待っててね」
「ほんとに?」
「うん」
「じゃあもう一回やろう!次はまけないよ!」
「一回って言ったろ、待っててってば」
「…」
おいらおいら少し静かになったと思いきや、また嬉しそうに話し出した。
「あ!そうだ!」
おいらおいらはドアのほうに行き何やら自分の荷物のようなものを持ってきた。
「叩いて被ってジャンケンポンやろう!」
荷物の中から見覚えのある懐かしいヘルメットとピコピコハンマーを取り出した。
このゲームも僕が昔おいらおいらに教えた遊びでこれもわざと負けてやった思い出がる
取り出したヘルメットとピコピコハンマーは僕が昔おいらおいらにあげたものだった。
どうやらおいらおいらはずっととっておいたみたいだ。
「まっててって言ってるだろ、頼むからあまり困らせないでくれよ」
「お願い!次はもっと楽しいから!」
「だめ」
「…」
僕はおいらおいらのほうは見ていないがふてぶてしく睨みつけてきているのをなんとなく感じた。
横目でちょっとだけ見て見るとやっぱり睨んでいた。
僕は最初気づいていないふりをして無視していたが、だんだん近づいてきて僕の視界に入ろうとしてきたので僕は気づかざるを得なくなった。
「ほんとに1回だけだからね」
「おいらー!」
勝負が始まり最初僕がグーを出すと、おいらおいらもグーを出してあいこになった。
次に僕はパーを出すと、おいらおいらはチョキを出した。
僕はヘルメットを素早くかぶり守った。
するとおいらおいらはそのあとにハンマーをとってヘルメットをたたいてきた。
「くそー!もう1回!」
「あ、うん…」
僕は何かが不思議に感じたがとりあえずもう一回ジャンケンを始めた。
僕はチョキを出すと、おいらおいらはパーを出した。
僕は素早くピコピコハンマーをとりおいらおいらを叩いた。
「ああー!負けちゃった!やっぱり君は強いなぁ!」
僕は今の勝負に何か変なところを感じていた。
「おいらおいら、もう一回やろう。」
「え!?やったー!!やろうやろう!!」
おいらおいらはとてもうれしそうに言った。
僕はパーを出すと、おいらおいらもパーであいこだった。
次に僕はもう一回パーを出すと、おいらおいらはグーを出した。
僕はさっきの勝負で感じた違和感を確かめたくてジャンケンに勝ったがわざとピコピコハンマーを取らないでみた。
するとおいらおいらもヘルメットをとる動きをしなかった。
「おいらおいら、どうしたの。ヘルメット取らなきゃ」
「あ…そうかそうか!あははは!ヘルメット取るの忘れちゃった!あはははは!」
おいらおいらは誤魔化すようにぎこちなく笑った。
「おいらおいら。嘘ついたろ。」
「え?」
「わざと負けただろ」
「そんなこと…ないよ」
「じゃあなんでヘルメットをとろうとしなかったんだ」
「それは…」
おいらおいら少し黙って僕の目を見ずに白状した。
「ごめん…」
「なんでそんなことしたの?」
「なんだか君があんまり昔みたいに笑ってくれなくなったから…ゲームをやって勝ったらまたあの時みたいに笑ってくれるかなと思って…」
僕はそれを聞いてとても複雑な気持ちになった。
そしてそんなことをされてしまったため自分がとってもみじめな情けない人間になってしまったのを感じた。
複雑な気持であったがこの気持ちを僕は知っていた、クラスで自己紹介をした時に鮫島先生に優しくされた時と同じだ。
「ちゃんとやんなきゃダメじゃないか…だいたいわざと負けなくたって僕がきっと勝ってたよ…なんでだよ…余計なことするなよ…!」
僕はおいらおいらが良かれと思いした優しさが嫌になり強い口調になってしまった。
「ごめん…」
おいらおいらはまた謝った。
僕はどうしようもない気持ちになり逃げるような気持ちでデスクに行き僕はこんがらがった気持ちのまままた作業を再開した。
おいらおいらはついに僕に話しかけてこなくなった。
僕はこのこんがらがった気持ちのことを考えたくなくて書類をまとめる作業のこと以外を考えないように努力した。
すると僕にとってとても懐かしくて心地よい音色がながれてきた。
その音色のほうにぱっと振り向くと、おいらおいらがオカリナを吹いていた。
この曲を僕は知っている。
僕がおいらおいらに初めて出会ったときに彼のために吹いた曲だ。
僕はその音をただただ何を言うこともなく聞きこんでしまっていた。
曲が終わるとおいらおいらは僕に話し始めた。
「君が僕に昔吹いてくれたこの曲、僕すごく大好きで練習して吹けるようになったんだ。へたくそだけどこの曲…優君…?」
僕は気づいたら涙が出ていた。
「おいらおいら…僕…どうすればいいかわからないんだ…」
僕は作曲家の夢のこと、父が死んで一人になったこと、会社のこと、これまでのことをおいらおいらにすべて話した。
おいらおいらは何を言うわけでもなく黙ってその話を聞いてくれた。
「僕はこれからどうやって生きていけばいいんだ…」
僕は泣きながらおいらおいらに言った。
「どうすればいいかじゃなくて、君がどうしたいかなんだ。」
おいらおいらが優しい声で僕に言った。
「え…?」
「君が君のためにいきなきゃ誰が君のために生きるっていうんだい?」
「おいらおいら…」
「君はどうしたいの?」
僕は素直に思ったことが口から自然と出てきた。
「ぼく…やっぱり音楽が好きだ…」
僕のその言葉を聞くと、おいらおいらは急に荷物をまとめ出した。
「おいらおいら?どうしたの?」
「いや、もう僕がここに来た目的は果たしたからさ」
「え…?」
「君はもうこれからどうすればいいかわかったはずだよ」
そういっておいらおいらは荷物を抱えた。
「じゃあね」
おいらおいらは帰ろうとドアに向かったので僕はその小さな背中を呼び止めた。
「おいらおいら!」
「…」
おいらおいらはこちらを見ずに立ち止まった。
「また会えるかな…?」
おいらおいら振り返って僕のほうに近づいてきた。
「こんど会うときは負けないからな。叩いて被ってジャンケンポン」
おいらおいらは優しく僕のほうを見てピコピコハンマーで僕の頭をそっと叩いた。
「…ははっ」
僕は気づいたらなんだか笑っていた。
 
 
 
その後僕は会社を辞め、新しい仕事を見つけ仕事をしながら作曲家の夢を目指し始めるのだが、その話はまた別の機会にしよう。
申し訳ないがまた今度にさせてくれ、もう仕事に戻らなきゃいけないんだ。
世界中が僕の曲を待っているからね。

僕はピアノの前に行き、まだ誰も聞いたことないメロディーを今日も奏でている。
 
 
 




 
 
※登場人物の名前が「優」になっていますが、この物語は全部フィクションです。
全部優の作り話です。