これは僕と僕の親友との不思議な話。
こんにちは。
僕は優。
僕は幼いころから運動も勉強も苦手で嫌いだった。
運動、勉強というものは学生時代それができるかにより、学生生活の豊かさが決まるといってもいいほど需要視されている項目であり、時にそれがその人の個性になったり価値になったりする。
特に小学校くらいのころは足が速いやつはモテる、勉強ができるやつはすごい、というのが皆の認識として当たり前のようにあったためそれと真逆の人間であった僕がそういった能力のある人と比べてあまり豊かな学生生活を送れないのは目に見えていた。
逆に自分の運動や勉強が苦手であるというマイナス部分を笑いのネタなんかにして自分自身をプロデュースすれば人の興味を自分に向けられたのだろうが神様は僕にそんな才能を与えてはくれなかった。
なぜなら僕が一番苦手なことは運動よりも勉強よりも何よりも友達を作ることだった。
そんななにもできない、物語だったら名前も与えられずその他のくくりに入れられてしまうであろう一般生徒Fの僕に対しても日本が豊かな国であるのがそうさせたのか、小学生になり初めてみんなと出会った最初のころクラスの皆は気さくに声をかけてくれていた。
しかし僕は人に話しかけられると自分が相手にどうみられるのか、この言葉を言ったらこの人の中で僕はどういう人になってしまうのだろうなどとを考えすぎてしまい、自然に話すことができず緊張してしまい声が小さくなってごもごもと喋ってしまう。
そんな厄介な僕の性格が今でも忘れることのない、頭の中の片隅に何回力を入れて拭いても落ちない小さい黒い跡のように残ってしまっている思い出を作ってしまう。
ある日クラスで一人一人親睦を深めるという目的で全員一人ずつ順番に教卓の前に出ていき皆の前で自己紹介をするという僕にとっては生き地獄のような企画が行われた。
人前で何か話すのは苦手であり、なおかつ自分のことを話すのは嫌いなことだった。
皆、好きなスポーツや食べ物や将来なりたい職業なんかを交えて自己紹介をして企画はとても盛り上がっていた。
僕は皆が自己紹介をしているときに、ピエロの格好をして包丁を持った不審者が奇声をあげながらクラスに入ってきたり、給食のおばさんが全員居眠りをしてしまい給食室が火事になったり、校庭に宇宙人がやってきて盆踊りを踊り始めるなど、自分が自己紹介をする順番が来なくなる学校のトラブルをいくつも頭の中で考えていた。
想像もむなしく、なにもトラブルは起きることはなく無事に僕が自己紹介をみんなの前でする順番が回ってきた。
僕は「何をしゃべったらいいんだろう、僕は勉強も運動も苦手だし得意なことなんて思いつかない、ゲームをしたりやカードを集めるのは好きだけどそんなこと誰も自己紹介の時言わなかったからそれを言ったら変な空気になっちゃうんじゃないかな、将来僕はメカレンジャーのレッド(当時日曜日の朝8時にやっていたアニメのキャラクターである)みたいなカッコいい人になりたいと思ってるけどそんなこと言ったら絶対バカにされちゃう、みんな僕が喋らないから不思議な顔して僕を見てる、どうしよう、」と考えていたら声を出せなくなってしまい何もできないからただ下を向いた。
その時の新任でありながら担任であった鮫島先生は「ちょっと今日は緊張しちゃったね!大丈夫だよ!自己紹介はまたにしようね!じゃあ次の前島さん自己紹介お願いしまーす!」と少し苦笑いしながらざわついている場を取り繕っていた。
鮫島先生はいつも優しい先生でその時何もできなくなってしまった僕を気遣い大丈夫だと助けてくれた。
しかし鮫島先生の優しさは、僕には裏目に出てしまった。
いっそ「自己紹介しなきゃダメじゃないか!反省して廊下に立っていなさい!」と冷たく叱ってくれれば僕は皆と同じ生徒でいれたのだが、先生は何もできなかった僕に「この子は仕方ない」という処置を下してしまった、その瞬間に僕は皆よりもできなくても仕方がない、みんなよりも下の位置にいる叱るレベルにも達していない人間になってしまったのだ。
それは僕にとっては全く大丈夫なことではなかった。
そんなみんなよりも格の低い人間になってしまった僕はどんな顔をすればいいかわからなかったので顔を上げられず下を向いたまま自分の席へ情けなく退散するように戻った。
席へ戻る僕と交代で次の番の前島さんが教卓の前に向かった。
前島さんは女子ではあったが少し男勝りな性格で何事に対しても臆することなく発言する子だったため、僕が作ってしまったこの気まずい空気の中でその空気感をあまり感じていないような雰囲気で自己紹介をし始めた。
そこで前島さんは僕がみんなの前で話せなかったメカレンジャーのピンクの好きなところについて楽しそうに話し始めてそれを耳にした僕は席に静かに座りながらひっそりとより情けない気持ちになった。
僕は自分の席で机の木目を見ながら、たまにこぼれ落ちてしまう涙を周りのみんなにばれないように服の袖ですぐに拭いて隠していた。
こんな性格のため誤解されても仕方ない。
皆は少しづつ僕には話しかけてこなくなった。