バレンタインというと、毎年思い出すエピソードがあります。

私はこの30年ちょっと生きてきて、すごく傷付けた女性が2人います。
そのうちの一人のことを、毎年思い出します。

私は、彼女のことをカワイイと思ってました。
プライドが高くて、意地っ張りで、自分のテリトリーを頑なに守る、そんなタイプの子でした。
でも本当は優しくて、寂しがりやで・・・上手くそれを隠せない、そんなところがすごくかわいかったのです。

「もっと私の方に来て」「もっと私のテリトリーに入って」いつもそういう心の声が聞こえていました。
今はボンヤリしてるし、まったくそんなことないのですが、当時、私は顔色を窺って生活していたのか、
他人の心が手に取るようにわかりました。
いや、わかる気でいました。

ちょっと考えればわかりそうなものですが、浅はかでした。
かわいいな~と思っては
「カワイイね」
と言い、「もっとこっちに来てよ」という心の声が聞こえれば
「そういうとこ好き」
と言っていました。

それを繰り返し・・・
気が付けば
「私のこと好き?」
と聞かれて
「うん、好き・・・」
と、答えるようになっていました。
無理やり言わされているような気分でした。

毎日電話をかけなければならないはめになっていました。
毎日私から電話をして「好き」と言わなければならなくなっていました。

なんでこんなことに・・・と思っていましたが、自分でもわかっていました。
私がそうさせたのだと。
私が軽々しく「そういうとこ、ホントにカワイイ」だの「そういうとこ、大好き」だの言ったからです。

彼女はプライドが高く、あくまで「私はべつになんだけどCUBEが私のこと好きだから」のスタンスを
保とうとしていました。
でも、これもわかっていました。
本当は、逆だと。

なぜキスをしないのかと迫る彼女に、逃げる私。
本質はこうでしたが、彼女はプライドが邪魔してハッキリと「キスして」と言えません。
それをいいことに、「とても大切に思っているのでキスもできない」フリをしていました。

私の誕生日に嬉々としてケーキを焼く彼女がかわいくて、でも騙しているようでいたたまれなくて、
うっとおしくて、罪悪感でいっぱいで、傷付けたくなくて・・・そんな葛藤に苦しみ・・・
ある日、耐え切れなくなりました。

「ごめん、好きじゃない。もう電話もしない。もう会わない。」
こんなにハッキリ言ったかどうかは忘れましたが、こんなようなことを言いました。
彼女のプライドの高さに甘えたのです。
すがってこれないのは、わかっていました。
罪悪感はありました。
でも「だって、私が好きだっただけでしょ、そっちは好きじゃなかったんでしょ」と自分にも言い訳していました。

そして・・・これが一番ヒドイのですが、
本当にヒドイのですが・・・
そのことを、スッカリ忘れてしまったのです。

忘れたというか、すぐに「過去」として、青春を謳歌していました。
「はい、次」てな感じです。
ここでもそんな感じするかもしれませんが、とても心配性で、どうでもいいことにこだわりゴチャゴチャ考えて
・・・そんなんなのに、最後「ま、いっか」で切り捨ててしまう・・・。
そういうタイプなのです。

そして、8年?9年?後のバレンタイン・・・
彼女から、チョコと超長い手紙が届きました。
「ずっと、好きだった」と
「どの男性と付き合っても、忘れられない」と
「あきらめきれないので、もう一度ちゃんと振ってほしい」と
「できれば、もう一度好きになってくれないか」と
書いてありました。
本当は追いすがるなんてみっともないこと、死んでもしたくない、
でも、それでCUBEが手に入るなら安いものだ、と。

私は、彼女に甘い言葉を囁いて自分のことを好きにさせておいて、重くなったら振って、
そのことをスッカリ忘れ、勉強や音楽や恋愛や芝居に、つまり自分の好きなことに打ち込んでいたかと思うと、
その間、10年近くも彼女は彷徨って、苦しんでいたかと思うと、
本当に申し訳ない気持ちになりました。
そして、今度こそきちんと振りました。

それから会っていませんが、毎年バレンタインの時期になると必ず彼女を思い出します。

もう、一生会うことはないかもしれないけれど、あの手紙は捨ててません。
軽々しく甘い言葉を口にしてはいけないという戒めのために。

本当は、逃げなければ良かったのかもしれません。
正直、怖かったんだと思います。
彼女を本気にさせるのが。
自分が本気になるのも。
あの時、愛しさを全く感じなかったわけではなかったけれど、
それも上手く伝えることはできませんでした。


Oh,My Funny・・・