読者の皆さま、こんばんは。

 

私が2012年に書いた「未来に続く恋」を覚えていらっしゃるでしょうか?

 

今、別館にアップしている「太陽の末裔」のお話が、女医が主人公ということもあって、常にここのオリキャラである一条紗江子が頭の端にいました。

 

そこで、ふと思いついて今回のお話を書きました。

「未来に続く恋」の続編的お話しです。

 

一条先生の未来に続いた恋のその後を、ほんの少し覗いてみませんか?・・・

どうか、お楽しみいただけますように・・・

 

このお話しは、「イタズラなKiss~Love in TOKYO」をベースに書いています。

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   一条紗江子物語・・・

   ~続・未来へ続く恋~ ≪前編≫

 

 

人は、時に思いがけないことに出くわすことがある。
それを、運命だったと捉えるか、ただの偶然だったと思うかは、後になってわかること・・・
しかし、この日私に起った思いがけない出来事は、私の人生の先行きに、とても幸せな変化をもたらしてくれた・・・

 

 

 

それは、彼がアフリカでの撮影旅行を終えて帰国した日のこと・・・

「惣介!」
私は、入国ゲートから出て来た彼に大きく手を振った。


「紗江子!」
惣介は、カメラの入ったバッグを肩にかけ、大きなキャリーバッグを転がしながら屈託のない笑顔を見せた。


「2カ月ぶりね。お疲れ様。」
「うん。やっと帰って来られた!紗江子、会いたかったよ!」
惣介は、そう言うが早いか私を力いっぱい抱きしめた。
海外に行き慣れている彼にしてみれば、それはごく当たり前の挨拶なのだろうが、私は毎回どぎまぎしてしまう。
それでも、一瞬にして彼が帰ってきたことを実感できることだけは確かで、私も少し躊躇しながらも彼の背中に手を回した。


彼の名前は、 栖原 さいばら 惣介。
その世界では、結構名の知れた山岳カメラマンだ。
大柄な体でいつも髪はボサボサ、日焼けした顔は髭も伸び放題で、私の病院のナース達には”熊”の様だと言われていた。
それでも、本人はまったくお構いなしで、とにかくいい写真を撮ることだけに夢中な仕事バカだ。


彼は、1年の半分を撮影旅行に費やす。
国内なら2~3週間、海外なら1カ月から長い時には3カ月は帰ってこない。
自然相手の仕事だけに、予定など無きがごとしで、思い通りの条件が揃うまで何日でも同じ場所で待ち続けることもしばしばだ。
そして、帰ってくれば今度は編集作業と記事や書籍の執筆、さらには展示会などもありとにかく忙しい・・・


私は、相変わらず斗南大学病院の心理カウンセラーを続けている。
日々仕事に追われているとはいえ、愛する人と気の置けない仲間たちに囲まれて、きっとこれまで生きて来た中で一番幸せな時を過ごしている。


惣介とは出会ってからもう6年以上が経つ・・・
しかし、付き合って2年目で一度別れた私たちは、ある事がきっかけで2年前に再会し、再び愛し合うようになった。
互いに仕事が忙しく、普通の恋人同士のように週末や仕事帰りにデートをしたりする時間はなかなか取れない。
それでも、好きな仕事が恋の障害になることもなく、互いを尊重し合い、程よい距離感を保ちながら十分に幸せな日々を送っていた。

 

 

空港から外に出ると、辺りはすっかり夜の帳が降りていた。

 

「紗江子、お腹すいてない?」
惣介が、唐突に聞いた。


「そうね。もう夕食の時間よね・・・でも、その荷物を持ったままじゃどこも入れないじゃない?」
私は、惣介の傍らに置かれた大きなジュラルミンのキャリーバッグを指さしながら言った。


「荷物は、その辺のコインロッカーに預ければいいよ。それより日本食食べに行かないか?」
「えっ?・・・日本食?」
「うん。もうずっとアフリカでわけのわからない物ばっかり食ってただろ?だから帰ったら一番に日本食が食べたいって思ってたんだ。」


惣介は、少年のような笑顔を向けて私の返事を待っている・・・


「いいわよ。でもこの辺じゃ、日本食屋さんなんてわからないけど・・・」
私が答えると、惣介は「それは大丈夫!行きたい店があるんだ。」と歩き出した。

 

「実はね、紗江子の病院の近くに、すごくいい日本料理屋があるんだよ。」


惣介に、言われるままタクシーに乗って着いた店は、ごく普通の和食割烹の店に見えた。
店の入り口に掲げられた「あい原」という看板を見た瞬間、何かが頭をよぎったが、手を引かれて暖簾をくぐった時にはそれも忘れてしまっていた。
白木を基調にした店内は、さりげなく一輪挿しに生けられた花が飾られていて、清潔感のある居心地の良さそうな店だった。


「大将、こんばんは。」
惣介が、店に入るなりカウンターの中にいた板前に声をかけた。
すると、真剣な顔つきで魚をさばいていた大将と呼ばれたその人は、惣介の顔を見るなりその形相をくずして笑顔になった。
「おう、栖原さんじゃないですか!・・・いらっしゃい!お待ちしてましたよ。」


「お約束してたのに、なかなか来られなくてすみません!・・・今日、アフリカから帰って来たんですよ。もう日本食が恋しくて真っ先に来ました。」
惣介は、結局は持って来てしまったキャリーバッグを指さしながら言った。


「へえ、それはありがとうございます・・・えっと、お連れさんは、お1人ですね。」
大将は、惣介の後ろに立っている私に笑顔を向けると、「おい、お二人様ご案内して!」と声をかけた。

 

まだ修行中といった風の若い板前に、衝立を使って個室風になっているテーブル席に案内されて、私たちは向かい合って座った。
刺身や煮物、焼き魚など、いかにも日本食といったメニューをいくつか注文すると、私はあらためて店の中を見渡しながら尋ねた。
「本当に病院の近くなのね・・・全然知らなかったわ。でもどうして、こんな店のご主人と知り合いなの?・・・」


「実は、アフリカに行く前に、具合が悪くなったカメラマンのピンチヒッターでこの店に撮影に来たことがあるんだ。」
惣介は、ちょうど私の背後の壁を見上げるようにしながら答えた。
つられて振り返ると、そこには昼の明るい時間帯にこの店を正面から撮ったと思われる写真と、カウンターの中で包丁を振るっている大将の写真がひとつのフォトフレームに収められて掛けられていた。


惣介の撮った写真は、グルメ本の日本料理店の特集記事に載り、その本のお陰で客足が増えたことを大将がとても喜んでくれたこと。
そして、そのお客がこぞって惣介の写真を褒めて行ったことで、大将から連絡があり、店に招待されていたと惣介は話してくれた。


「へえ、山の写真を撮るばかりじゃないのね。」
私が、冷やかすように言うと、惣介は「まあね」と照れたように笑った。


料理は、どれも家庭的でありながら、とても丁寧に仕上げられていて、大将の実直さが伺えた。
見た目にも美しく、ただの煮物やただの焼き魚も、豪華なご馳走になり、私たちはどの料理にも舌鼓を打って食事を楽しんだ。

 

そして、大将からのサービスだと出されたデザートの水菓子をいただいている時に、私は、ふと聞こえて来た子供の声に耳を澄ませた。

 

「ねえ、子供の泣き声が聞こえない?」

私は、不思議に思って惣介に聞いた。

すると、惣介も頷きながら「確かに・・・」と言って首を傾げた。

 

ぐずって泣いているような声が次第に近づいて来る・・・

それは、店の雰囲気には、とても不釣り合いに思えた。

そして、ついにその泣き声は、店の中に響き渡り、私と惣介は何事かと声のする方へ目を向けた。

 

「あーん、ママ~!パパ~!」


見ると、ピンク色のワンピースを着た可愛らしい女の子が、店の奥から出て来て、目をこすりながら泣いていた。


「ああ、お嬢ちゃん、起きちゃったんですか!・・・よしよし!」


私たちを案内してくれた若い板前が、小さな女の子を抱き上げるのが見えた。
そして、カウンターの中にいた大将が申し訳なさそうに声をかけて来た。
「うるさくてすみませんね・・・私の孫なんですよ。親が用事があって出かけてるんでちょっと預かってるんです。寝てる間に帰ってくると思ってたんですがね・・・」


「あら、大将のお孫さんなんですか?可愛いですね~。私たちのことは、どうぞお気遣いなく、もうそろそろお暇しますから・・・」
私は、子供がいることに納得しながら答えたが、大将はさらに申し訳なさそうに頭を下げた。

 

抱き上げられた女の子は、1歳を少し過ぎた頃のように見えた。

職業柄、そういったことは見当が付く。

 

女の子は、泣き止みはしたもののぐずりは収まらず、若い板前の腕の中で身をよじらせていた。
大将は、私たちの他に数組いたお客にも同じように謝って回っていたが、私たちは別段気にすることもなく、最後にお茶をすすり、そろそろ立ち上がろうとしていた。


そんな時だった・・・


店の扉が開いた音と共に、「ただいま~遅くなってごめーん。」という声が聞こえて来た。
私は、その声を聞いた途端、思わずお茶を吹き出しそうになった。
それを見ていた惣介が、驚いて「どうしたの?」と言いながらお手拭きを渡してくれた。


私は、惣介に向かって「しっ!」と人差し指を唇に当てると、囁くように答えた。
「琴子さんの声よ。」

「ええ?・・・」
惣介は、目を丸くしながら私を見た。

 

衝立が目隠しになっていて入口は見えないが、声は聞こえる・・・
私達は、何となく後ろめたい気持ちを抱きながらも、息を殺して様子を伺っていた。

 

「琴美ちゃーん、お待たせ~いい子にしていた~?」
琴子さんの声は、相変わらず元気が良く私は自然と微笑んでいた。


―そうよ!・・・子供の名前は琴美だったわ。


「おう、戻ったか。ちょうど今起きて泣いてたところだ。でも、ずっといい子に寝てたよな~。」
大将の後の言葉は、琴美ちゃんに向かってかけられたらしい。


しかし、次に聞こえて来た声に、今度は私自身が声を上げそうになって慌てて両手で口を塞いだ。
「お義父さん、お世話かけてすみませんでした。」
「やあ直樹君、お疲れ様・・・仕事の後だったのに大変だったろ?」
「いいえ、いつものことですから・・・」


「これは入江先生の声だね・・・」
惣介が、私の様子を見て笑いながら言った。


「どうしよう~。今、思い出したわ。琴子さんの旧姓って相原だった・・・」
私は、店の名前を見た時に、ふと何かがよぎった時のことを思い出しながら言った。

 

「・・・ってことは、ここは琴子さんの実家ってこと?・・・それを知らずに、俺がこの店の写真を撮ったの?すごい偶然だね!」
惣介は、私の気まずさを知ってか知らずか、この状況を面白がっているようだった。

 

 

私自身、完全にプライベートな状況で、惣介と2人でいるところを見られるのが、照れ臭い気持ちももちろんあった。

だからと言って、隠れる必要などありはしないのに、席を立つタイミングを完全に失ったまま、私と惣介は情けない顔をして見つめ合っていた。

 

                           つづく

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

さて、いかがでしたか…?

 

あとがきは、後編の記事の中で書かせていただきますね。

正直、ドキドキのアップでした…アセアセ

お気に召していただけましたら、感想などお聞かせください。

 

では、次回もどうぞお楽しみに…ルンルン

 

                         By キューブ

 

 

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